VARIAN RT REPORT

2022年9月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.11

Representative beam data(RBD)を利用したTrueBeam 2台の立ち上げ

熊﨑  祐(埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科)

はじめに

埼玉医科大学国際医療センターは,2007年に開院してから,放射線治療装置2台(バリアン社製「Trilogy」と「Clinac iX」)を利用して,主に埼玉県中部~北西部までの患者に対して年間1200〜1400人の治療を行ってきた。装置1台あたりの治療件数は上限に達しており,今後ますます増加すると予想されている放射線治療に対応していくためには,放射線治療装置の増設が必要であった。しかし,放射線治療部門のフロア(旧棟)には増設スペースがないため,新たな建屋(新棟)を建設する必要があった。その新棟1階が放射線治療フロアであり,3台のガントリ型放射線治療装置を設置できるように建設され,まずは先行して2台の「TrueBeam」(バリアン社製:図1)が導入された。当センターでの高精度放射線治療件数は年々増加傾向にあり,現在は全放射線治療の40%程度である。今後,放射線治療のスループットを維持した状態でその割合を50%以上に引き上げるために,6軸カウチを備え,コンベンショナル治療から高精度放射線治療にまで対応できるTrueBeamが選択された。

図1 当センターに導入されたTrueBeamの外観

図1 当センターに導入されたTrueBeamの外観

 

旧棟から新棟への治療移行

埼玉医科大学国際医療センターは,がんセンターの役割を担っており,多くの症例に対して他科と連携した放射線治療を提供している。装置更新に伴い長期のダウンタイムが発生すると,他科に大きな影響を与えてしまうため,避ける必要があった。幸いにも,旧棟での臨床業務と並行して新棟で治療装置を立ち上げることになったため,ダウンタイムは発生しなかった。しかし,スタッフ数は限られているため,効率的な装置の立ち上げが必須であった。コミッショニング項目の中には,膨大な時間を要するビームデータ測定があるが,2台の装置の出力相違を考慮に入れて,TrueBeam 2台分のビームデータをすべて測定するのはマンパワー的に困難と判断し,representative beam data(RBD)を利用することにした。その際,2台の装置の出力差異を小さくするために,出力の基準値に対してより厳しい精度で出力調整を行う”Enhanced Beam Conformance  Specification (EBC:オプション)”を取り入れた。また,今まで使用してきたClinacシリーズとTrueBeamのビームデータ(RBD)の違いをあらかじめ確認した。その結果,治療ビームの線質指標である10cm深でのpercentage depth dose(PDDd=10cm)の差異が小さく,コンベンショナルの治療においてはビームデータの違いによる線量分布の差異も小さいことから同一ビームと見なせることが判明した。このことは,新旧装置でマルチリーフコリメータ(MLC)が同一の“Millennium 120 MLC”であることもあり,TrueBeamでも治療計画の変更なく装置のoverrideで新棟での治療が可能となることを意味する。一方,強度変調回転放射線治療(VMAT)プランにおいては,各エネルギーの線質指標の差異は小さいものの,放射線治療装置のカウチが異なり,MLCパラメータの調整次第で線量が変化するため,単純な装置のoverrideは困難であるという認識であった。

コミッショニング

最初に,RBDを放射線治療計画システム「Eclipse」(バリアン社製)のビームモデリングに使用可能であることを確認するために,治療ビームの線質指標であるPDDd=10cmをRBDと実測値で比較した。実測値のPDDd=10cmは三次元水ファントムとCC13線量計(RBD取得時に使用された線量計)を使用して取得したPDDから算出した。EBCを利用した受け入れ試験では,受け入れ試験でのPDDd=10cmの基準値に対して,6MV以上のエネルギーのX線では±0.5%の許容範囲内であることを確認するが,この基準値とRBDのPDDd=10cmは一致していない。そのため,RBDを利用する場合には,自施設の三次元ファントムでPDDを繰り返し取得して,RBDのPDDd=10cmに一致するようなビーム調整を行うことが重要である。当センターでは,表1に示すように,TrueBeam 2台ともRBDに対してPDDd=10cmが0.3%以内で調整でき,同一の線質のビームと見なすことが可能であった。また,PDDd=10cmの一点だけでなく,PDDやoff center ratio(OCR)のプロファイル形状を代表的な照射野において確認した。図2,3に示すように,RBDと問題ない範囲で一致しており,さらにはoutput factor(OPF)も,代表的照射野においてRBDと同条件(SSD=95cm,深さ5cm)で測定し一致していた。これにより,RBDを用いたEclipseのビームモデリングが可能と判断した。そのRBDを使用してEclipseのビームモデリングを行い,照射サイズ(5×5cm2,10×10cm2,15×15cm2,20×20cm2,30×30cm2),エネルギー(4MV,6MV,10MV,10MV_FFF,6MV_FFF),深さ(dmax,5cm,10cm,20cm)を変化させた単純条件で実測値と計算値を比較した結果,ESTRO Booklet 71)で推奨されているビーム軸に対する計算精度2%を満たしていた(ほとんど1%以内で一致していた)。
ただし,Eclipseに登録するビームデータのすべてがRBDとして用意されているわけではない。校正深(10cm深)での絶対吸収線量とVMATを行うためのMLCパラメータに関するRBDは用意されていない。前者の絶対吸収線量に関しては,組織最大線量比(TMR)を線源検出器間距離(SCD)一定で深さを変化させながら実測で求めてもよいが,Eclipse上で線源回転軸間距離(SAD)一定としてピーク深と10cm深での吸収線量を算出することで,10cm深でのTMRを算出することも可能である。これにより測定による誤差を排除でき,ピーク深を1Gyに校正するため10cm深のTMRにGyの単位を付ければ,校正深(10cm深)での絶対吸収線量となる。一方,後者のMLCに関しては,自施設でパラメータ調整を行わなければならない。具体的には,指定のMLCファイルで照射を行い,MLC transmissionとdosimety leaf gap(DLG)を算出してEclipseに登録する。しかし,MLCの動きの複雑さが治療部位によって異なるため,各照射部位でのMLCの動作からDLGを決定するべきであり,当センターでは頭頸部,肺,子宮,前立腺を5例ずつ20例のMLCパターンを利用してDLGを決定した。この時,ガイドライン2),3)推奨値より厳しい条件(全門合算吸収線量は1%以内,線量分布は2%/2mmのガンマ評価においてパス率95%以上)でMLCのパラメータ調整を行った。
その後,旧棟から新棟に治療を移行する患者において,今回モデリングを行ったTrueBeamのビームデータでビームジオメトリは変更することなく最終計算のみ行った。コンベンショナルな治療計画では,monitor unit(MU)値の変化は1MU以内であり,想定どおり放射線治療装置のoverrideで対応可能であった。また,VMAT治療計画に関しては,治療計画の最適化後の最終計算のみTrueBeamのビームデータで行った。その結果,MLCパラメータの違いにより相対的に1%の線量差が生じたが,線量分布の形状はほぼ同じであり,線量規格化することで同等の治療計画となった。これによりVMAT治療計画の最適化からやり直す必要がなく大幅な省力化となった。ただし,VMAT治療計画は変更となるため,絶対吸収線量と線量分布の確認を行ったところ,全症例でガイドライン推奨値を満たしていた。
最後に,画像誘導放射線治療の精度評価のために,JCOG1408での医学物理credentialingの一つである郵送ファントムによる画像誘導機能の精度確認4)を行い,cone beam CT を利用した照射位置精度は,許容値(1mm,1°)を満たしていた。この試験はCT撮影から治療計画,計画転送,画像位置照合,照射を一連で行うEnd to End試験であり,総合評価として照射位置精度を保証した。

表1 放射線治療装置ごとのPDDd=10cm(%)

表1 放射線治療装置ごとのPDDd=10cm(%)

 

図2 RBDと実測のPDDの比較(照射野10×10cm2例)

図2 RBDと実測のPDDの比較(照射野10×10cm2例)

 

図3 RBDと実測のOCRの比較(照射野10×10cm2例)

図3 RBDと実測のOCRの比較(照射野10×10cm2例)

 

終わりに

RBDとEBCを利用して,短期間(約2か月半)で効率的にTrueBeam 2台を立ち上げることに成功した。2台の放射線治療装置のビーム特性を同一と見なせる程度に近づけたために,装置故障時には装置のoverrideで治療可能となり,リスクマネジメントの観点からも有効な手段である。今後3台目の放射線治療装置を導入するときにも,RBDとEBCを利用するつもりである。

●参考文献
1)ESTRO Booklet No. 7 : Quality assurance of treatment planning systems. practical examples for non-IMRT photon beams, 2004.
2)日本放射線腫瘍学会QA委員会:強度変調放射線治療における物理・技術的ガイドライン2011.
3)Miften, M., Olch, A., Mihailidis, D., et al : Tolerance limits and methodologies for IMRT measurement based verification QA : Recommendations of AAPM Task Group No. 218. Med. Phys., 45(4) : e53-e83, 2018.
4)Kumazaki, Y., Ozawa, S., Nakamura, M., et al. : An end-to-end postal audit test to examine the coincidence between the imaging isocenter and treatment beam isocenter of the IGRT linac system for Japan Clinical Oncology Group (JCOG) clinical trials. Phys. Med., 53 : 145-152, 2018.

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