VARIAN REPORT

2017年6月号

No.6 乳癌:技術編

磐田市立総合病院:乳房における放射線治療の現状─当院における技術的ポイント

塩田 泰生(磐田市立総合病院放射線治療技術科医学物理室)/細田 友行(磐田市立総合病院放射線治療技術科)/井上 和康(磐田市立総合病院健診センター)

はじめに

当院は1998年の病院移転を機に放射線治療を開始し,2012年には高精度な照射技術に対応するために,高精度放射線治療統合システム「Novalis Tx」(ブレインラボ社製)を導入した。治療開始から現在まで,地域の中核病院として癌治療の一翼を担っている。

当院における放射線治療の技術的特徴

当院では,image guided radiation therapy(IGRT)を放射線治療全般に適応し,症例により患者ごとに最適化された固定具を作製することで,従来法に比べ高精度な位置照合を実現することが可能となった。

実際の運用と工夫

1.治療計画
全乳房照射に対しては,physical wedge(くさびフィルタ)を使用したtilting techniqueによる接線照射法を行ってきたが,Novalis Txおよび新しい放射線治療計画システム(Eclipse:バリアンメディカルシステムズ社製)の導入に伴い,2つの照射野を組み合わせたfield in field法(FiF法)を用いている。FiF法により,physical wedgeを用いた場合に比べて健側乳房の線量を低減させることが期待できるからである1),2)。また,この治療装置には,中心部8cm領域の2.5mm幅で高精細なmulti-leaf collimator(MLC)と,その外側領域の5mm幅MLCとが組み合わされたhigh-definition MLC(HD-MLC)が搭載されており,照射領域にフィットした滑らかで細密な照射野を実現できる。照射野辺縁外側(空気層)を乳房辺縁からの均等マージンと設定しておくことで,治療期間中の乳房の形状変化を視認性良く評価することが可能となった(図1)。

図1 計画照射形状(上段)および患者セットアップ画像(下段)

図1 計画照射形状(上段)および患者セットアップ画像(下段)

 

治療計画法では,2016年より治療中の患者体位変動確率を低くするための時間短縮を目的として,FiF法で使用する2つの照射野(mainfield,subfield)に対してEclipseで利用可能な“Mergesubfields”機能を採用した。Mergesubfields機能を利用することで,2つの照射野(segment)は一連として取り扱われ,照射中にmainfieldとsubfieldのそれぞれのMLC形状を異なる時間配分(線量配分)で実行する。運用開始前に複数の模擬治療計画を作成し物理評価を行った結果,Mergesubfields機能の適用の有無にかかわらず,計画線量と実測線量は1%程度範囲での一致が確認された。Mergesubfields機能を運用開始したことにより,照射時間の短縮が可能となった。

2.データ管理
Novalis Txの導入と同時に,横河医療ソリューションズ社製の放射線治療情報管理システム(治療RIS)「ShadeQuest/TheraRIS」を導入した。Novalis Txと放射線治療関連機器,HIS(病院情報システム)およびPACS(医療画像保存システム)などとをオンライン接続することによって,さまざまな情報の一元化を図ることができた。治療RISにより患者ごとの多岐にわたる情報の記録,参照,抽出が容易にでき,これは多職種間での正確な情報共有に資する重要なツールとなっている。

3.ポジショニング
基本的体位は仰臥位で両手挙上・下肢伸展位であり,CTシミュレーション時に微調整を行った後に決定される。患者ごとに異なる術創や上肢の挙上範囲制限などに対応するため,吸引式固定具 〔Vac-Lok患者固定クッション(Vac-Lok):シブコ社製〕を採用し,患者個々に最適な体位決定を行うように心掛けている。頭部位置,上肢挙上角度などの再現性向上のため,両肩より上方にVac-Lokを配置し,頭部形状および上肢全体の型取りを行っている。これにより,Vac-Lok外観から患者体位をイメージしやすくなり,術者による体位再現の違いが生じにくい固定具となったと考える。Vac-Lok成型には時間を要するが,「Wing Board」(シブコ社製)を組み合わせることで吸引成形時間の短縮が可能となり,寝台との固定をも可能にしている(図2)。この方法は,Vac-Lok単独使用の場合に比べて高い安定性があり,日々の治療体位再現に有効であった。

図2 患者体位および固定具

図2 患者体位および固定具

 

患者位置合わせの基準となるCTシミュレーション時の体表マーキングは,頭尾方向は乳頭中心,左右方向は胸骨,背腹方向は患者ごとに安定してマーキングが可能な位置としている。また,固定具と患者の位置関係を把握するため,目尻から基準マークまでの距離を記録し,固定具にも体幹部・上肢との位置関係を示す補助線をマーキングしている(図3)。これらの基準マークは,放射線治療毎回のセットアップ時の体軸調整に利用し,治療完遂まで保持することを基本としている。
CTシミュレーションおよび初回の治療セットアップ時には,必要な箇所を写真撮影し,治療RISに保管・管理している。これらの写真を治療セットアップごとに参照・確認することにより,体位再現性の向上や照射部位の状態変化を把握するなど,客観的な判断材料として役立てている。治療セットアップは,on board image(OBI)を用いたIGRTを基本とし,初回,5回目,15回目にelectric portal imaging device(EPID)を利用した実際の治療照射野撮影(リニアックグラフィ)を行い,照射範囲を確認している。セットアップ時に心掛けている点は,肩関節から鎖骨の位置,脊椎のねじれなどの微調整により体位の再現性の確認を十分に行い,早い段階で患者ごとの体位調節の勘所を押さえることである。また,毎回の照射直前に必ず光照射野によって投影された最終照射範囲の形状確認を行い,治療期間中における照射部位の微細な変化にも目を配るよう努めている。なお,最初から数回の治療経過後に治療体位再現性が確認され,カンファレンスにて了承された場合には,OBIによる画像照合を省略している。

図3 基準マークのマーキング位置

図3 基準マークのマーキング位置

 

副作用対策,ペイシェントケア

放射線治療科初診時には,医師,看護師による診察とオリエンテーションが行われ,その後,診療放射線技師がタブレット端末を用いて,固定具作製の手順,CTシミュレータでの撮影方法,放射線治療室内の様子などを画像や動画による視覚的要素を加えて説明し,患者の不安を少なくできるように努めている。また,当院では診療放射線技師が患者一人ひとりに対応し,カンファレンスにおける積極的な情報共有を行うことを目的として「患者担当技師制度」を実施している。
治療期間の種々の患者状況変化は,診療放射線技師が電子カルテに毎日記載し,皮膚反応や腫れなどによる乳房形状の変化については適宜写真撮影を行い,治療RISに画像を保存している。これらの患者情報はカンファレンスにて情報共有し,スタッフ間での情報把握に大きな差が出ないようにしている。これらの情報共有が患者の安心感へつながり,すべての患者がスムーズに治療完遂できるように,スタッフ全員が日々心掛けている。

●参考文献
1)Onal, C., et al. : Dosimetric comparison of the field-in-field technique and tangential wedged beams for breast irradiation. Jpn. J. Radiol., 30,  218〜226, 2012.
2)Sasaoka, M., et al. : Dosimetric evaluation of whole breast radiotherapy using field-in-field technique in early-stage breast cancer. Int. J. Clin. Oncol., 16, 250〜256, 2011.

 

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