VARIAN RT REPORT

2017年4月号

No.4 悪性リンパ腫:技術編

がん研究会有明病院:悪性リンパ腫の放射線治療における技術的なポイント

小口 正彦(がん研究会有明病院放射線治療部)

はじめに

放射線治療は悪性リンパ腫の局所治療に最も有効な方法であり,重要な役割を果たしている。長期生存者の遅発性放射線有害反応を最小限にするために,病巣の発症した臓器別に,強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT)や画像誘導放射線治療(image guided radiation therapy:IGRT),呼吸管理照射(active breathing control:ABC)など,適切な照射方法が行われる。

ISRTとIGRT

日本で高頻度に経験される悪性リンパ腫を部位別および病理サブタイプ別に記載し,国際リンパ腫放射線腫瘍グループ(International Lymphoma Radiation Oncology Group:ILROG)から提唱されているinvolved site radiation therapy (ISRT)の推奨される標的体積や照射線量,先端照射法について表1に示す。

表1 ‌日本で高頻度の悪性リンパ腫とISRTの標的体積,線量,照射法

表1 ‌日本で高頻度の悪性リンパ腫とISRTの標的体積,線量,照射法

 

頭頸部領域のリンパ腫では,唾液腺,眼球,口腔,脊髄,甲状腺などの急性および遅発性放射線有害反応を少なくし,患者のQOLのために,リンパ腫病巣に必要な線量を集中し,周囲の正常組織の被ばく線量を最小にできるIMRTが強く推奨されている。
胸部領域,とりわけ縦隔リンパ腫の治療では,肺,心臓などの急性および遅発性放射線有害反応を少なくし,また,乳腺の二次がんを最小にするために,深吸気息止めとIMRTの組み合わせが推奨される。深吸気息止めは,心臓の位置を尾側に移動させ,冠状動脈や弁膜などとリンパ腫病巣との距離をとることができる。また,深吸気息止めは,縦隔リンパ節領域の左右幅を狭くし,乳腺とリンパ腫病巣との距離をとることができる。呼吸を止めることで,リンパ腫病巣のinternal target volume(ITV)を最小にすることができるので,治療体積を小さくできる。以上を正確に実施するためには,cone beam CTによるIGRTおよび治療寝台の6軸位置補正機能は不可欠である。
上腹部領域では,肝臓,腎臓,心臓などの急性および遅発性放射線有害反応を少なくし,患者のQOLのために,空腹時に深吸気息止めとIMRTを組み合わせて行うことが強く推奨される。深吸気息止めは腎臓の位置を尾側に移動させ,リンパ腫病巣との距離をとることができる。息止めおよびIGRTの意義は胸部と同様であるが,胃リンパ腫のISRT-IMRTではcone beam CTによるIGRTが,胃の位置,大きさ,形を確認するために不可欠である。多数例の患者の放射線治療をする中で,空腹時に照射スケジュールを合わせるためや,リニアックの故障による放射線治療の中断や延期をなくすために,複数のリニアック間でエネルギーマッチングを行うことで,それらを用いて適切な時間で治療できるようになってきた。

●症例1:十二指腸壁原発の孤立性形質細胞腫
膵頭十二指腸合併切除術が検討されたが,キャンサーボードの審議および患者の希望により放射線治療が選択された。バリアンメディカルシステムズ社製の放射線治療装置「RapidArc」およびcone beam CTのIGRTを用いて,45Gy/25回のISRTを行った。急性毒性として,胃十二指腸壁粘膜の発赤を認めたのみであった。形質細胞腫は緩徐に縮小して9か月後に消失し,現在は完全完解を維持している。線量分布図を図1に示す。

図1 ‌症例1:十二指腸壁原発の孤立性形質細胞腫に対するRapidArcを用いたISRTの例

図1 ‌症例1:十二指腸壁原発の孤立性形質細胞腫に対するRapidArcを用いたISRTの例

 

●症例2:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の単発性中枢神経再発
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する薬物治療で完全完解後2年して,急速に増大する単発性中枢神経再発を認めた。患者の認知機能に対する強い懸念から,RapidArcを用いて海馬を保護した全脳照射と病巣部へのSIB法によるISRTを行った。認知機能は保たれ,神経機能損失なく,再び完全寛解中である。線量分布図を図2に示す。

図2 ‌症例2:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の単発性中枢神経再発に対するRapidArcを用いたISRTの例

図2 ‌症例2:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の単発性中枢神経再発に対するRapidArcを用いたISRTの例

 

まとめ

RapidArcを用いたIMRT,cone beam CTによるIGRT,深吸気息止め照射,治療寝台の6軸位置補正機能,複数のリニアック間でのエネルギーマッチングは,悪性リンパ腫に対するISRTを正確に行うためには不可欠である。これにより悪性リンパ腫患者の放射線治療中のQOLは著明に改善した。遅発性毒性が少ないことが証明されると期待されている。

●参考文献
1)Radiotherapy for Hodgkin Lymphoma. Specht, L., Yahalom, J., ed., Springer, 2011.
2)Radiation Therapy in Hematologic Malignancies ; An Illustrated Practical Guide. Dabaja, B., Ng, A.K., ed., Springer, 2016.
3)Image-Guided Radiation Therapy in Lymphoma Management ; The Increasing Role of Functional Imaging. Macklis, R.M., Conti, P.S., ed., Boca Raton, CPC Press, 2016.

 

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