VARIAN REPORT

2018年1月号

ここまでできるがん放射線治療シリーズ No.1

RapidArcを用いた全脳全脊髄に対する放射線治療

奧  洋平(大船中央病院放射線治療センター)

はじめに

強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT)は,腫瘍への十分な線量投与と正常組織への線量低減を同時に可能であり,工夫次第で自由度の高い線量分布がほぼすべての部位に対して作成可能である。本稿では,大きなターゲットに対する強度変調回転放射線治療(volumetric arc therapy:VMAT,バリアンメディカルシステムズ社の名称は“RapidArc”)による治療計画について紹介する。
大きな(長い)ターゲットでは,1アイソセンタでの照射が不可能となり,2アイソセンタ以上の複数のアイソセンタでビーム配置を行う必要がある。従来のコンベンショナルな照射では照射野をつなぐ必要があるため,つなぎ位置での線量に細心の注意を払いながら治療計画および実際の照射を行う必要がある。しかし,IMRTやRapidArcでは,照射野をつなぐ位置で上下の照射野をオーバーラップさせ,ターゲット全体で線量最適化を行う。この場合,上下の照射野の位置関係にズレが生じても,重大な線量エラーにつながる確率は減少すると考える。図1は,1門照射とRapidArcにおける照射野つなぎ目位置における線量のイメージである。

図1 1門照射(a)とRapidArc(b)における照射野のつなぎ目位置での線量イメージ 1門照射の場合,上下照射野の位置ズレによりつなぎ目の線量の変化が大きく,細心の注意が必要である。 上下の照射野をオバーラップさせたIMRT(RapidArc)では,上下の照射野の位置ズレの影響を少なくすることが可能である。

図1 1門照射(a)とRapidArc(b)における照射野のつなぎ目位置での線量
イメージ 1門照射の場合,上下照射野の位置ズレによりつなぎ目の線量の変化が大きく,細心の注意が必要である。
上下の照射野をオバーラップさせたIMRT(RapidArc)では,上下の照射野の位置ズレの影響を少なくすることが可能である。

 

従来の全脳全脊髄照射1)

全脳全脊髄照射は,全脳照射(全頭蓋照射)と全脊髄照射の2つに分けることができる。照射は腹臥位にて,全頭蓋の部分は左右対向2門,全脊髄腔は原則後方1門とする。全脳照射においては,眼部を遮蔽する。全脊髄照射においては,成人であれば上部脊髄と下部脊髄の2つに分けて照射するのが一般的であるが,後方からのビームが抜ける腹部における照射野の重なりに十分注意する必要がある。また,照射野のつなぎ目が不正確になりがちであるため,過線量または線量不足にならないような工夫も必要である。
図2に,全脳を左右方向から,脊髄を上下に分けて後方から照射した場合の矢状面線量分布の一例,および胸椎部の照射野が頭側方向に5mmずれた場合の線量分布および照射野つなぎ目位置の線量プロファイルを示す。椎体部のつなぎ目位置の照射野変更を考慮した。

図2 従来法の全脳全脊髄照射の線量分布と照射野つなぎ目位置の線量プロファイル

図2 従来法の全脳全脊髄照射の線量分布と照射野つなぎ目位置の線量プロファイル

 

RapidArcを用いた方法

放射線治療計画システム「Eclipse」(バリアンメディカルシステムズ社製)を用いたRapidArcの治療計画は,Eclipseに(標準)搭載された“Arc Geometry Tool”を用いるのが簡便であろう(図3)。標的体積を設定し,アイソセンタ数およびアーク数を設定すれば,最適*1なビーム配置の決定が行われる。つなぎ目の線量分布は,上下の照射野をオーバーラップさせて線量最適化によって作成される(図1 b)。この方法を用いることで,従来法のような,つなぎ目の過線量および線量不足になる確率を下げることが可能である。上下の照射野が計画時よりも離れた場合のつなぎ目位置の線量は20%程度減少し,近づいた場合は20%程度の線量増加となる。従来法では,上下照射野が離れた場合ほとんど線量投与されず,近づいた場合は2重に線量投与される恐れがあるが,RapidArcを用いた場合,安全な照射となることがわかる。RapidArcを用いた全脳全脊髄照射の矢状面線量分布と胸椎部の照射野が頭側方向に5mmずれた場合の線量分布,および照射野つなぎ目位置の線量プロファイルを図4に示す。
Arc Geometry Toolを用いてビーム配置を決定した場合,実際の照射位置照合はビームごとに行う必要があるが,左右腹背方向の移動はなく,頭尾方向の移動のみである。それぞれのビームに対して照射位置照合を行えば,大きな過線量および線量不足は起こらないため,位置照合時のスタッフのストレスは従来法に比べ少なくなるであろう。

図3 Arc Geometry Toolを用いたビーム配置の例 3 isocenters-3 full rotationsを選択

図3 Arc Geometry Toolを用いたビーム配置の例
3 isocenters-3 full rotationsを選択

 

図4 RapidArcにおける全脳全脊髄照射の線量分布と照射野つなぎ目位置の線量プロファイル

図4 RapidArcにおける全脳全脊髄照射の線量分布と
照射野つなぎ目位置の線量プロファイル

 

その他の症例

全脳全脊髄照射のように頭尾方向に長いターゲットに対しては,頭尾方向にビームをオーバーラップさせて線量分布を作成するが,全骨盤のように左右方向に大きなターゲットには,左右方向に照射野をオーバーラップさせて線量最適化を行う。図5に,骨盤に対する2アイソセンタRapidArcの治療計画例を示す。

図5 骨盤2アイソセンタRapidArcの治療計画例

図5 骨盤2アイソセンタRapidArcの治療計画例

 

おわりに

IMRTは照射技術の一つであり,工夫次第でさまざまな線量分布を作成することができる。また,RapidArcは超多門照射を一連で行うため,多門照射に比べ大幅な治療時間短縮も見込まれる。患者のみならず医療者側も負担軽減の恩恵を大いに受けると考える。

*1 実際の照射でカウチの移動を最小限にするようにアイソセンタが決定される。

●参考文献
1)大西 洋,唐澤久美子,唐澤克之:がん・放射線療法2017 改訂第7版. 東京,学研メディカル秀潤社,2017.

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