VARIAN RT REPORT

2017年11月号

No.11 子宮癌:臨床編

信州大学医学部附属病院:子宮癌における放射線治療の現状(臨床報告)

小岩井慶一郎(信州大学医学部附属病院放射線科)

はじめに

婦人科領域における悪性腫瘍のうち,子宮癌は放射線治療の関与が多い疾患である。特に子宮頸癌においては根治的治療手段として用いられており,その治療成績は手術と比較して遜色ないものとされている1)。子宮体癌に対しても,術後照射や,手術不能例への根治的治療として放射線治療が行われる。婦人科悪性腫瘍に対する標準的治療を提供する上で,放射線治療は不可欠な治療手段であると言ってよい2)。本稿では,当院での子宮癌における放射線治療の現状を,いくつかの症例を交えて概説する。

当院の装置概要

当院は,バリアンメディカルシステムズ社製リニアックを2台(Clinac 21EXとClinac iX)保有している。これらのうち,Clinac iXは画像誘導機能と,“RapidArc”と呼ばれる回転強度変調照射(VMAT)を実施する機能を有している。通常の外部照射はClinac 21EXで行い,画像誘導やRapidArcが必要な場合はClinac iXで行うといった使い分けをしている。
子宮癌の根治的治療には腔内照射が欠かせないが,当院の腔内照射装置はイリジウム192線源を用いた高線量率密封小線源治療が可能な,バリアンメディカルシステムズ社製「VariSource iX」である。アプリケータは,子宮頸癌に用いられる一般的なタンデム・オボイド型(フレッチャー型とヘンシュケ型)から子宮体癌用までさまざまなものを有しており,多様な病態への対応が可能である。
外部照射,腔内照射共に同じ放射線治療計画装置(バリアンメディカルシステムズ社製「Eclipse version 11.0」)で治療計画を行っている。

症例1:子宮頸癌に対する根治的化学放射線療法

臨床病期ⅢB期の子宮頸癌に対し,化学療法(シスプラチン毎週投与)併用下に10MV X線を用いた前後左右4門照射法にて全骨盤照射を開始した(図1)。40Gy/20分割投与後,中央遮蔽を置いた治療計画(前後対向2門法)に変更して50Gy/25分割まで投与した。また,中央遮蔽を置いた外部照射を開始した後に,高線量率腔内照射を開始した(図2)。腔内照射は週1回,1回6Gy(A点線量)にて3回行った(腔内照射を行う日には外部照射を休止した)。治療終了後約1か月の時点で腫瘍は消失した。

図1 症例1:子宮頸癌に対する全骨盤照射の放射線治療計画例  a:冠状断像 b:矢状断像

図1 症例1:子宮頸癌に対する全骨盤照射の放射線治療計画例
a:冠状断像 b:矢状断像

 

図2 症例1:子宮頸癌に対する高線量率腔内照射の放射線治療計画例 a:正面像 b:側面像

図2 症例1:子宮頸癌に対する高線量率腔内照射の放射線治療計画例
a:正面像 b:側面像

 

症例2:子宮体癌術後放射線治療

子宮体癌術後の補助療法としては化学療法が行われることが多いが,化学療法が何らかの理由で適応できない場合,骨盤内の再発リスクを低減させるために全骨盤照射が行われる。全骨盤照射は消化管有害事象の発生が問題となるが,当院ではRapidArcを用いて消化管,特に小腸への線量を低減させることで有害事象の軽減を図っている。本例は,原発巣周囲および所属リンパ節領域に対し,50.4Gy/28分割の投与をRapidArcにて行った(図3)。6軸での補正が可能な「ExacTrac X-ray 6Dシステム」(ブレインラボ社製)による画像誘導を併用した。治療中の有害事象は軽微であり,多少の軟便傾向を認めるのみであった。外来通院にて予定治療を完遂した。

図3 症例2:RapidArcを用いた全骨盤照射の放射線治療計画例

図3 症例2:RapidArcを用いた全骨盤照射の放射線治療計画例

 

症例3:子宮頸癌術後再発に対する救済的放射線治療

子宮頸癌にて広範子宮全摘術後,骨盤内に再発を来した症例に対し,化学療法併用にて救済的な放射線治療を行った。この際,RapidArcを用いて,骨盤内リンパ節領域には予防的線量として50.4 Gy/28分割を投与しながら,再発病巣には56 Gy/28分割を投与する,いわゆるsimultaneous integrated boostを行った(図4)。術後であることから,小腸への線量も極力低減するようにした。外部照射終了後,腟断端部に対してシリンダー型のアプリケータを用いた腔内照射も追加した。治療により再発病巣は消失し,現在に至るまで再発を認めていない。

図4 症例3:RapidArcを用いた子宮頸癌術後再発に対する救済的放射線治療計画例

図4 症例3:RapidArcを用いた子宮頸癌術後再発に対する救済的放射線治療計画例

 

まとめ

子宮癌において,放射線治療に求められるものはさまざまである。当院では週1回,放射線治療医と婦人科医が合同でカンファレンスを行うことで緊密な連携を図っている。この連携により,個々の症例において放射線治療に求められているものを把握し,リニアックと腔内照射装置を駆使することでその要望に応えられるよう努力している。RapidArcを含む多様な放射線治療の選択肢を有することは,標準的治療が実施できるのみならず,再発例などの個別化が必要なケースにおいて相応の対応を実現するために重要であると考えている。

●参考文献
1)放射線治療計画ガイドライン2016年版. 日本放射線腫瘍学会編. 東京, 金原出版, 2016.
2)子宮頸癌治療ガイドライン2011年版. 日本婦人科腫瘍学会編. 東京, 金原出版, 2011.

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