VARIAN REPORT

2019年3月号

がん医療における放射線治療最前線 No.2

Ⅲ期非小細胞肺癌の放射線治療 ~免疫療法併用の新時代を迎えて~

中山優子(国立がん研究センター中央病院放射線治療科)

はじめに

Ⅲ期非小細胞肺癌に対する標準的治療は,化学放射線療法である。これまでの臨床試験は化学療法と放射線療法の併用時期の検討から始まり,放射線治療と同時に併用する薬剤レジメンの検討が主になされてきた。しかしながら,約20年の間,どのレジメンでも治療成績に大差はなく,治療成績の向上は見られなかった。一方,胸部照射については,通常分割照射法を用いた1回線量2Gy,総線量60Gyが長く用いられてきた。そこで,肺がん局所に対する治療強度を高めるべく,胸部照射に高線量を用いる第Ⅲ相試験が施行された。残念ながら,74Gyの高線量照射は60Gyの標準照射線量に比して予後が劣っていたという結果であった1)。この臨床試験では,約半数に強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT)が用いられていた2)
このような現状の中で,2017年に,Ⅲ期非小細胞肺癌の根治的化学放射線療法後に維持療法として免疫チェックポイント阻害剤を使用することにより,無増悪生存期間(progression free survival:PFS)が有意に良好であったと報告された3)

胸部照射の方法~線量と照射野~

化学放射線療法において,胸部照射の線量として,多くの臨床試験で60Gy/30分割が用いられてきた。照射野に関しては,予防的リンパ節照射(elective nodal irradiation:ENI)が従来から日常臨床では広く行われてきたが,最近ではENIを省いた病巣部照射野(involved field:IF)を用いた照射が試みられるようになってきた。この背景には,PET/CTを用いた臨床的リンパ節転移診断能が向上したことや,IFにより腫瘍への高線量照射が可能になることなどがある。近年,局所の放射線治療強度を高めるためにIFを用いた,標準線量60Gyと高線量74Gyの生存延長効果を比較した第Ⅲ相試験(RTOG 0617)の結果が報告された1)。
高線量74Gyによる同時化学放射線療法は,標準線量60Gyの場合よりも局所再発リスクと死亡リスクをそれぞれ37%と56%有意に上昇させたという結果であった。したがって,現在もⅢ期非小細胞肺癌に対しては,少なくとも60Gyが標準照射線量として推奨されている4)。日常臨床では60Gyから66Gyを用いることが多い。
照射野に関しては,ヨーロッパやNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインなどではIFが勧められているが,一律にIFを用いるには,いまだ根拠に乏しい。日常臨床では,腫瘍の進展範囲に合わせたある程度のENIを施行することが多い。高齢者の場合や腫瘍の進展範囲が広範で正常組織の線量が高くなる場合には,IFを用いていることも少なくない。

肺がんに対するIMRT

高精度放射線治療の一つであるIMRTは,三次元原体放射線治療(3D-CRT)に比して良好な線量分布が得られるため,前立腺がん,頭頸部がんなど広く用いられるようになった。しかし,肺がんに対するIMRTは,低線量が正常肺に広く照射されることによる放射線肺臓炎のリスクが高まる懸念や呼吸性移動対策の難しさなどにより,日本ではあまり行われていない。
RTOG 0617は,肺がんに対する放射線治療の方法としてIMRTを許容した初めての臨床試験であった。参加施設が任意に照射方法を選択した結果,3D-CRTが53%,IMRTが47%の症例に用いられていた。そこで,両治療法を比較した解析結果が報告された2)。治療成績については,両治療法で差がなかったものの,IMRT群には進行症例が多く含まれていた。また,重篤な肺臓炎(Grade3以上)の発生頻度は,3D-CRT症例で8%,IMRT症例で3.5%であり,3D-CRT症例で有意に高く(p=0.046),肺の低線量域(V5)は関連していなかったと報告された。以上より,肺がんに対するIMRTは推奨されるべき治療法であると述べられている。肺がんへのIMRTの適応・安全性については,さらなる検討が必要であろう。

肺がんに対する陽子線治療

IMRTでは正常肺の低線量域が広くなる欠点があるが,粒子線治療は線量分布において低線量域が広くならずに有利である。粒子線の中でも陽子線は,X線と生物学的効果比がほぼ等しいため化学療法と併用しやすく,局所進行肺がんに対して化学療法併用陽子線治療の臨床試験が行われている。米国で行われた局所進行非小細胞肺癌に対する同時化学放射線療法におけるIMRTと陽子線治療のランダム化第II相試験の結果が報告された5)。12か月以内のGrade3以上の放射線肺臓炎の頻度と局所再発率を比較したが有意差は見られず,陽子線治療の有効性を明らかにできなかった。しかし,この臨床試験の種々の問題点を改善した上で,現在,米国では局所進行非小細胞肺癌に対する化学放射線療法におけるX線治療と陽子線治療を比較する第Ⅲ相試験(RTOG 1308)が進行中である。

免疫チェックポイント阻害剤と放射線治療

根治的な化学放射線療法後42日以内に,デュルバルマブによる地固め療法を用いた群(デュルバルマブ群)とプラセボ群とを比較する第Ⅲ相試験(PACIFIC試験)が行われた。デュルバルマブによる地固め療法は,プラセボに比較して主要評価項目であるPFS(16.8か月 vs. 5.6か月)および全生存期間(overall survival:OS)(未到達 vs. 28.7か月)の有意な延長効果が認められた3),6)。サブグループ解析では,プログラム細胞死リガンド-1(PD-L1)発現(25%未満,25%以上,不明)によらず有意な傾向であったことから,デュルバルマブはPD-L1の発現にかかわらず承認された。本試験における日本人サブセット解析でのOSは,ハザード比:0.96で差が認められなかった7)が,解析時点でのOSイベントが両群ともに少ないことから,今後のフォローアップによる報告が待たれるところである。
放射線療法後に免疫チェックポイント阻害剤を使用することが,毒性,特に放射線肺臓炎や免疫介在性肺炎の発症のリスクを増加させる可能性が懸念されていた。試験の中で,肺臓炎または放射線肺臓炎の発症頻度は,全Gradeではデュルバルマブ群33.9%でプラセボ群24.8%よりもやや多いが,Grade3以上の重篤な肺臓炎についてはデュルバルマブ群4.5%,プラセボ群4.3%で明らかな差は認められなかった。日本人集団における肺臓炎の発症頻度は,デュルバルマブ群73.6%,プラセボ群60%で,Grade3以上の重度の肺臓炎はデュルバルマブ群7%,プラセボ群5%であり,発症頻度は全体集団より高いものの,その多くが軽症であり重症例の発症頻度は同様の結果であった。ただし,この試験では,化学放射線療法後にGrade2以上の肺臓炎が認められている患者は除外されていることに注意が必要である。

おわりに

放射線治療の技術的進歩により,副作用の少ない根治照射が可能となった。しかし,局所進行肺がんに対する放射線治療に関しては,治療成績向上へと結びつく照射方法の進歩は見られていない。高線量照射の利益は示されず,また,IMRT・粒子線治療の肺がんへの適応はこれからの課題である。
一方,Ⅲ期非小細胞肺癌に対する根治的化学放射線療法後の地固め療法としてのデュルバルマブの有効性が示され,Ⅲ期非小細胞肺癌の標準的治療として用いられるようになった。これにより,照射による抗原性の誘導が一気に注目されるようになった。腫瘍の一部を照射すると照射野外の腫瘍が何ら治療することなく縮小消失する現象は,古くからabscopal effectとして知られていた。現在,Ⅳ期非小細胞肺癌に対しても,局所照射と免疫チェックポイント阻害剤を併用する臨床試験が多く行われている。肺がんに対する放射線治療は,照射部位への局所効果を目的とした局所療法として用いられてきたが,今後は,腫瘍の一部に照射して免疫効果を高める全身療法としての役割が加わるであろう。

●参考文献
1)Bradley, J.D., Paulus, R., Komaki, R., et al. : Standard-dose versus high-dose conformal radiotherapy with concurrent and consolidation carboplatin plus paclitaxel with or without cetuximab for patients with stageⅢA orⅢB non-small-cell lung cancer(RTOG 0617); A randomized, two-by-two factorial phase 3 study. Lancet Oncol., 16, 187〜199, 2015.
2)Chun, S.G., Hu, C., Choy, H., et al. : Impact of intensity-modulated radiation therapy technique for locally advanced non–small-cell lung cancer ; A secondary analysis of the NRG Oncology RTOG 0617 randomized clinical trial. J. Clin. Oncol., 35, 56〜62, 2017.
3)Antonia, S.J., Villegas, A., Daniel, D., et al., PACIFIC Investigators. : Durvalumab after Chemoradiotherapy in StageⅢNon-Small-Cell Lung Cancer. N. Engl. J. Med., 377・20, 1919〜1929, 2017.
4) 肺癌診療ガイドライン2018年版. 日本肺癌学会編, 東京,金原出版, 2018.
5)Liao, Z., Lee, J., Komaki, R., et al. : Bayesian adaptive randomization trial of passive scattering proton therapy and intensity-modulated photon radiotherapy for locally advanced non-small-cell lung cancer. J. Clin. Oncol., 36, 1813〜1822, 2018.
6)Antonia, S.J., Villegas, A., Daniel, D., et al. : Overall Survival with Durvalumab after Chemoradiotherapy in StageⅢNSCLC. N. Engl. J. Med., 379, 2342〜2350, 2018.
7)厚生労働省 : 最適使用推進ガイドライン デュルバルマブ(遺伝子組換え)(販売名 : イミフィンジ点滴静注120mg,イミフィンジ点滴静注500mg)〜非小細胞肺癌〜.

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