2018-4-23
“ワン・キヤノン”として展示会場の1/9を占めた
キヤノンメディカルシステムズのブース
キヤノンメディカルシステムズは,2018年1月4日に社名変更し名実ともにキヤノングループの医療事業の中核を担うこととなった。ITEM2018は新社名の下での初めての展示となったが,旧・東芝メディカルシステムズの製品だけでなく,これまでキヤノングループとしてメディカル事業を展開してきた5社が一堂に会したブースとなった。展示ブースは通路を挟んで2つのコマを使う広大なものとなり,展示面積は合計で1000m2と展示会場の1/9を占めた。初日に行われた次世代Angioシステム「Alphenix」の新製品発表会で挨拶した代表取締役社長の瀧口登志夫氏はITEM2018の展示について,「今回の展示は,“Together, we make it possible”のスローガンの下,“ワン・キヤノン”としてキヤノングループが一体となってメディカル事業を推進する姿勢をアピールするものとなった。キヤノングループとなったシナジーは,さまざまな領域で形になりつつある。その成果と同時に,高精細・高画質をテーマに開発を続けてきたモダリティやITソリューション,さらには画像診断領域での人工知能(AI)技術の先進の取り組みに注目してほしい」とコメントした。
展示では,ブースの中央にHealthcareITコーナーを配置し,医療情報ソリューションの「Abiertoシリーズ」を紹介,NVIDIAと提携したAIへの取り組みなどHealthcareIT事業を強くアピールした。また,CTの「Aquilion Precision」や次世代AngioシステムのAlphenixなど,高精細・高画質をキーワードにした多くのモダリティを展示した。
●HealthcareIT:医療情報ソリューション「Abierto」を中核にAI活用まで先進の技術を紹介
●CT:ディープラーニング技術による画像再構成技術「AiCE」を発表
●X線:イメージングチェーンを一新し高精細の動画像を実現した「Alphenix」シリーズ
●DR:CXDI Wirelessシリーズと「CXDIワンショット長尺」を展示
●マンモ:トモシンセシス機能に対応したコンパクトなマンモグラフィ「Pe・ru・ru LaPlus」
●MR:3Tの高画質技術を継承したプレミアム1.5Tの「Vantage Orian」を発表
●UL:「Aplio a」「Xario g」の新ラインアップを中心に多様な臨床ニーズに応える製品を紹介
●AZE:AZE VirtualPlaceのほかノイズ低減,線量管理などのシステムを展示
●HealthcareIT:医療情報ソリューション「Abierto」を中核にAI活用まで先進の技術を紹介
キヤノンメディカルシステムズの広大な展示ブースの中心に配置されたのが,Healthcare IT(HIT)である。HITは医療情報ソリューション「Abierto」として,情報の統合(Connection)のための「Abierto VNA」,情報の共有,分析(Vision)を行うための「Abierto Cockpit」,そして情報の利活用(Intelligence)を行う人工知能(AI)を活用したさまざまな診療支援システムで展示を構成した。Abiertoは,モダリティや電子カルテ,PACSなど情報のインプットの部分に強みを持つ同社が,医療情報の分散管理による時間やコストの増大,複雑化した操作性や一覧性の低下など,システムの課題を解決することをコンセプトに新たに開発されたソリューションである。
データの統合を行うのが,ベンダーにとらわれないデータマネジメント環境を提供するAbierto VNAである。Abierto VNAによって,施設内のみならずオープンな環境でのプラットフォームの構築が可能になる。
Visonの部分を担うAbierto Cockpitは,Abierto VNAに保存された多様なデータを参照するためのビューワであり,患者を中心に時間軸に沿った情報参照を容易にする。検査結果やカルテの記載などの記録を時系列で表示したタイムラインと,その詳細な情報を表示するパネルで構成される。パネルには,画像検査,薬剤,検体検査,カルテ記載,バイタルサインなどを配置でき,診療に必要な情報を自由にレイアウトできる。Abierto Cockpitの特長の一つが,検査値の上昇などイベントが発生したタイミングの検査項目やカルテ記載を時系列に沿って表示できる時間軸連動表示である。必要な画像や検査データが表示されるため,データを探す手間を省く。さらに,各種のガイドラインに対応したルールベース診療評価エンジン(Clinical Evaluation Engine)を搭載しており,統計値に基づいた正確な情報の把握が可能になる。
また,情報の利活用(Intelligence)として,自社だけでなく協力企業の製品を含めて,AIを用いたさまざまなアプリケーションや技術を一足早く参考展示した。自社のAIとしては,骨転移の解析を行う“Bone Subtraction Analysis”,大腸ポリープの自動検出,肺結節画像診断支援システム(いずれもW.I.P.)を展示した。協力企業の製品としては,脳動脈瘤診断支援技術(エルピクセル),読影レポート作成支援システム(ワイズ・リーディング),類似レポート検索技術(スマートスケープ),肺CT類似症例検索システム(パナソニック)を紹介した。
また,キヤノンメディカルシステムズは,4月11日に高速処理,高速演算を可能にするGPUの開発でAIコンピューティングをリードするNVIDIAと,医療研究機関向けディープラーニング研究インフラの開発・販売の業務提携を発表した。医療の分野のディープラーニングの研究では,学習の元となる教師データの収集が課題となっている。Intelligenceコーナーの展示では,ディープラーニングの環境としてNVIDIAの「DIGITS」と「NVIDIA DGX Station」を利用し,キヤノンメディカルシステムズがAbierto VNAに蓄積された医療情報から学習のための教師データをより簡便に収集,生成するためのツールとして“Deep Learning学習環境”(W.I.P.)を紹介した。クラウド下ではなく,自施設の中でAIを研究する環境を提供することで,ユーザー自身の研究成果(モデル)から製品への実装をするという新しいビジネスモデルにより,AIによるアプリケーション開発を推進,加速していくとのことだ。
●CT:ディープラーニング技術による画像再構成技術「AiCE」を発表
CTは,通路を挟んだワンブロックすべてを使い,実機として昨年のITEM2017で発表した高精細CT「Aquilion Precision」,320列Area Detector CTのフラッグシップ「Aquilion ONE/GENESIS Edition」,80列マルチスライスCT「Aquilion Prime SP」を展示し,豊富なラインアップでさまざまな臨床ニーズに柔軟に応えられることをアピールした。そのほか,実機展示のなかった「Aquilion Lightning」については,VRゴーグルを使って,Aquilion Lightningを設置した検査室や操作室を移動して疑似体験できるバーチャル展示を行っていた。2017年の発売以来,0.25mm×160列,1792チャンネルの高解像度画像で大きなインパクトを与えたAquilion Precisionだが,ブースでは腹部や胸部など各領域での最新の臨床データを紹介し,高精細画像をアピールした。
CTコーナーで来場者の注目を集めていたのが,AIを用いたCT画像再構成技術の「AiCE(Advanced Intelligent Clear-IQ Engine:エース)」だ。AiCEは,AI技術の一つであるディープラーニングを用いて,MBIR(Model Based Iterative Reconstruction:FIRST)の高品質データを教師画像(目標)に設定し,さまざまなノイズのパターンと,FIRSTの各種のモデルデータを学習することで,高いノイズ低減効果と空間分解能の向上を実現する。AiCEでは,通常のMBIRでは困難だった低コントラスト領域の画質改善や,低線量での安定した画質改善効果が期待できる。さらに,MBIRに比べ計算量が少なくてすむため,3〜5倍速い画像再構成が可能になる。AiCEは,まずAquilion Precisionから搭載を予定している。
●X線:イメージングチェーンを一新し高精細の動画像を実現した「Alphenix」シリーズ
X線システムでは,次世代Angioシステムである「Alphenix」シリーズが最大の注目を集めた。ITEM初日の記者向け発表会では,X線事業部VLシステム部主任の廣瀬聖史氏が出席し,Alphenixの特長を説明した。Alphenixは,デジタル画像処理エンジンを一新し,ダイナミックレンジを従来装置から16倍拡大することで情報の欠損の少ない高精細な画像が表示可能になった。ダイナミックレンジの拡大で,ハレーションによって発生していた白飛びや画像欠損を抑えることができる。また,コーンビームCTについても,新たに開発した“AlphaCT”で画質が向上した。広いダイナミックレンジによって高精細のコーンビームCTが可能になり,血管や治療デバイスの構造を立体的に確認でき,術後のCT撮影を省略できる可能性がある。
また,Alphenixではさらなる高精細画像をめざし新たに開発された「Alphenix Hi-Def Detector」が搭載可能となっている(オプション)。Hi-Def Detectorでは,ピクセルサイズを従来の動画対応FPD(150〜200μm)に比べて2/5の76μmまで極小化した。細かい領域をモニタ上で拡大して手技を行うことが多い脳血管内治療などでは,動脈瘤内のコイルの状態やステントのメッシュまで確認でき,正確な治療をサポートできる。
そのほか,タッチパネル操作卓“Alphenix Tablet”などのワークフローを最適化する機能や,被ばく低減技術として同社の血管撮影装置で従来から提供されている“SPOT ROI”なども利用できることをアピールした(いずれもオプション)。
そのほか,X線コーナーでは,2018年2月に発売された「RADREX DRite」を展示した。RADREX DRiteはX線管保持装置を撮影位置にオートポジショニングできる機能や,保持装置のハンドルを握るだけで電動アシストが得られるパワーアシスト機能など,従来のワークフローの向上が可能になった。また,X線管保持装置のデザインはハンドル,インルームパネル,天井回りのケーブル処理に至るまで一新されている。同ステージ上には,ワンショット長尺撮影台も展示し,ワイヤレスFPDとともに新たなワークフローを展示した。
●DR:CXDI Wirelessシリーズと「CXDIワンショット長尺」を展示
ブースでは,キヤノンライフケアソリューションズが扱ってきたデジタルラジオグラフィ(DR)について,フルサイズの「CXDI-410C Wireless」,半切サイズの「CXDI-710C Wireless」,大四ツ切サイズの「CXDI-810C Wireless」などを展示した。CXDI Wirelessシリーズは,軽さと持ちやすさを追究したデザインやさまざまな環境での撮影を考慮した耐水性能などが特長となっている。また,「CXDIワンショット長尺」は,撮影台にフルサイズのCXDI Wirelessパネルを最大3枚までセットして,1回の曝射で長尺撮影ができる。また,撮影台は電動式で立位,臥位,側臥位への撮影ポジションへの移行がスムーズに行えるばかりでなく,撮影台にセットしたCXDIを取り出し,一般撮影で使用することもできる。
●マンモ:トモシンセシス機能に対応したコンパクトなマンモグラフィ「Pe・ru・ru LaPlus」
キヤノンメディカルシステムズの乳房診断関連のソリューションを紹介したBreast Solutionのコーナーでは,トモシンセシスに対応した新しいマンモグラフィ「Pe・ru・ru LaPlus」を展示した。Pe・ru・ru LaPlusは,女性による女性のためのマンモグラフィとして開発された「Pe・ru・ru」のデザインや操作性を継承し,従来同等の小型FPDの搭載により,コンパクトな装置デザインのままでトモシンセシス撮影が可能になる。Pe・ru・ru LaPlusでは,±7.5°,計15°の振り角にて,2D撮影と同じ85μmのピクセルサイズのままノンビニング収集と逐次近似再構成を行い,分解能の高いトモシンセシス画像を実現している。そのほか,撮影時に腕を置きやすいラウンド形状のアームレストや,トモシンセシス撮影時も安心して顔を預けられるようCアーム内側に装着するフェースガードなど,受診者に配慮した設計になっている。
マンモビューワの「Rapideye Saqura」も展示した。Rapideye Saquraは,シンプルで使いやすいマンモビューワで,読影のフローに合わせた画像レイアウトや表示形式などをプリセットできる“リーディングプロトコル機能”や,チェック方式でガイドラインに準じたレポート作成を可能にする機能を搭載する。Pe・ru・ruとの組み合わせでVOI LUTによって最適な濃度分解能での読影を可能にし,また,検査時に気になった点をコメントやアノテーションとして入力し診療放射線技師と読影医との連携をサポートする。その他,マンモグラフィ部門と超音波部門との情報伝達をサポートする機能として,マンモグラフィで病変位置を登録することで,超音波のボディマーク上に推定位置をラインで表示する“エコースキャンガイド”などを紹介した。
●MR:3Tの高画質技術を継承したプレミアム1.5Tの「Vantage Orian」を発表
MRコーナーでは,ITEMに合わせてリリースされた1.5Tの新製品「Vantage Orian(オライアン)」を中心に展示した。Vantage Orianは,3T MRIで培ってきた“Saturn Gradient”や“PURERF Rx”などの高画質化技術を継承し,さらに新たに開発した高精度出力予測技術の“PUREGradient”によって,傾斜磁場の発生を高度に制御し,拡散強調画像の高分解能撮像を実現している。直接sagital画像を収集するdirect sagital撮像でも,従来と同じ撮像時間でも歪みが少なく空間分解能の高い画像が得られる。
撮像時間を短縮するアプリケーションとしては,高速な3D撮像を可能にする“Fast 3D”,拡散強調画像の時間短縮技術である“MultiBand SPEEDER”,1回20秒の息止めで心臓シネ撮像を可能にする“k-t SPEEDER”,息止めや心電同期,呼吸同期を必要とせず自然呼吸下の撮像を可能にする“Quick Star”,1スキャンでマルチコントラストが得られ確実な脂肪抑制を実現する“WFS”などを搭載する。また,“ForeSee View”は計画断面をリアルタイムでプレビューできる撮像計画用のツールで,ROIを動かすことで撮像結果の事前予測を可能とし,失敗しない検査の実現が期待できる。
また,ワークフローの効率化として,ガントリからそのまま脱着が可能なドッカブルテーブルを同社のMRIとしては初めて採用。ガントリ上部に設けられたインテリジェントモニタと合わせて検査の効率化や使いやすさが向上した。さらに,検査室の最小設置面積18.3m2(操作室を含めて25m2)であり,スタンバイ時の消費電力削減と夜間の冷凍機間欠運転で約21%の消費電力削減を実現する“ECO Mode Plus”など,経済性についても最大限に考慮されたMRIとなっている。
キヤノンメディカルシステムズでは,横浜開発センターに次世代MRI開発部門を設け,Compressed Sensingやディープラーニングを用いた再構成処理などの先進的な研究開発を進めている。ボルドー大学や熊本大学との共同研究の取り組みがアナウンスされているが,ブースではMR画像のDeep Learning Reconstruction(DLR:W.I.P.)を用いた画質向上の成果や,3T装置で撮像された,1024×1024マトリクス,0.2×0.2×3mmの7T MRIに匹敵する高精細画像(W.I.P.)なども紹介した。
●UL:「Aplio a」「Xario g」の新ラインアップを中心に多様な臨床ニーズに応える製品を紹介
超音波診断装置では,新たなハイエンドシリーズとなる「Aplio a-series」,最大8時間のバッテリー稼働が可能なミドルクラスの新シリーズ「Xario g-series」を初出展した。
「Aplio a550」「Aplio a450」の2機種を展示したAplio a-seriesは,プレミアムシリーズAplio i-seriesの高性能なビームフォーミング技術を受け継ぎ,高精細なBモード画像をベースに,独自の血流イメージング技術“SMI”,“Strain Elastography”や“Shear Wave Elastography”などの各種エラストグラフィなど,豊富なアプリケーションが選択できる。その上で,本体の小型・軽量化を図っているのが特長で,Aplio i-seriesに比べてAplio a550で質量で最大約12.7%軽量化,奥行きを短くして占有面積ではAplio a450で最大20%小型化されている。
「Xario 200G」の“G”は,“Go”のGであり“Go Anywhere Anytime”をコンセプトとして,高画質や先進のアプリケーションの搭載だけでなく,病院内のさまざまな場所でいつでも使える,高い機動性を兼ね備えている。最大連続8時間駆動が可能な大容量バッテリーを搭載し,電源に接続せずに丸1日検査が行えるほか,モニタを開けば2秒で高速起動,閉じると2秒でスタンバイモードへ。また,ワイヤレスのECG電極やフットスイッチを新採用し,ケーブルの抜き差しや絡みの心配をせずに機動性良く検査を始められ,移動と検査を繰り返すような院内での超音波検査をサポートする。
●AZE:AZE VirtualPlaceのほかノイズ低減,線量管理などのシステムを展示
AZEもキヤノングループとして,同ブース内で医用画像解析ワークステーション「AZE VirtualPlace」,ポストプロセス型ノイズ低減処理ワークステーション「AZE VirtualPlace iNoir(アイノアール)」,被ばく線量管理システム「DoseSense(ドースセンス)」などを出展した。
AZE VirtualPlaceでは,全身のディフュージョン画像(DWIBS)から腫瘍の定量化を行う“DWIBS定量評価”,CTのヨード画像から心臓の細胞外腔容積(ECV)を解析する“ECV解析”,非造影の心臓CT画像から心外膜脂肪を計測してレポートを出力する“心臓周囲脂肪解析”などを紹介した(いずれもW.I.P.)。
AZE VirtualPlace iNoirは,CT,MRIのDICOM画像から後処理でノイズ低減処理ができるソフトウエア。専用筐体タイプだけでなく,AZE VirtualPlaceとの相乗りが可能なバージョンもリリースされた。また,DoseSenseは,CTDIvol,DLPについて部位別や装置別に,ヒストグラムや散布図の表示が可能で,線量管理を支援する。
●お問い合わせ先
社名:キヤノンメディカルシステムズ株式会社
住所:栃木県大田原市下石上1385番地
TEL:0287-26-5100
URL:https://jp.medical.canon/