VARIAN RT REPORT

2024年7月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.22

IDENTIFY Systemの使用経験と今後

中村 和正*1/小西 憲太*1/坂本 昌隆*2/鈴木 健之*2/矢田 隆一*3/上島 佑介*4(*1 浜松医科大学放射線腫瘍学講座 *2 浜松医科大学医学部附属病院放射線部*3 浜松医科大学地域医療学講座 *4 浜松医科大学地域創成防災支援人材教育センター)

はじめに

2023年8月に,すでに稼働していた放射線治療装置「TrueBeam」に「IDENTIFY」が設置され,同年12月より稼働を開始した。IDENTIFYは,体表面画像誘導放射線治療(surface-image guided radiation therapy:SGRT)を実現するシステムであり,放射線治療時のセットアップのサポート,および治療中の患者体表のモニタリングや呼吸管理が可能である。われわれにとって初めてのSGRTの運用であり,戸惑いながらも徐々にSGRTがどのようなものなのかが理解できてきた。本稿ではIDENTIFYの紹介と,われわれが考えている展望について述べたい。

SGRTの基本とシステム

SGRTシステムであるIDENTIFYは,3台のカメラを有し(図1),サブミリメートルの精度で患者の体表面情報をリアルタイムに表示できる。IDENTIFYでは,患者の肌の色に影響されないように青色の可視光のパターンを照射し,そのパターンの歪みから体表面を認識する。ターゲットが動いた場合,画面上では基準画像より前にあるか(赤),後ろにあるか(青)が表示され,6軸の移動距離が表示される(図2)。特定の閾値を設定することが可能である。カメラによるポジショニング精度については,並進1.0mm未満,回転0.5°未満の精度とされている。表面画像の認識速度(frame rate)は後述する関心領域(region of interest:ROI)のサイズに影響を受けるが,1秒間に5~10フレームの画像を取得するとされている。
基準表面画像の取得には,治療計画で取得されたCT画像から得られたsurface renderingの画像を用いる場合と,SGRTシステムで体表面の画像を直接取得し,画像上でROIを設定して,ROIに限定した体表面との照合を行う場合がある。前者の場合には,システムエラーと毎回の治療でのランダムエラーをチェックすることができるが,後者の場合は,毎回の治療でのランダムエラーをチェックすることに主眼が置かれており,両者の違いを認識しておく必要がある。
IDENTIFYは体表面から得られる呼吸性移動の情報をリアルタイムに表示することもできる。患者用のサブモニタ(Visual Coaching Device)を有し,患者はサブモニタ上で息止めのタイミングを把握することが可能となっている。
IDENTIFYは,単にSGRT専用の装置ではなく,放射線治療の業務プロセス自体をより良いものにするべく開発されたシステムで,ハンドヘルドデバイスによって放射線治療情報システムとの患者情報通信が可能な点なども特長の一つである。

図1 浜松医科大学の放射線治療室におけるIDENTIFYの設置状況

図1 浜松医科大学の放射線治療室におけるIDENTIFYの設置状況
a:TrueBeamと3台のSGRTカメラ(→)
b:SGRTカメラ
c:ヒト型模型に照射された青色のパターン

 

図2 体表面のモニタリングと位置ズレの表示

図2 体表面のモニタリングと位置ズレの表示

 

SGRTの利点

SGRTの利点は,X線被ばくなく,体表面の三次元的な情報をリアルタイムに把握し,位置決めができることである。患者表面上のラインなどのマークを基準点としていた従来の位置決めと比較して,位置決め精度が向上することが報告されているが,単に精度が向上するだけでなく,マーキングやそれを維持する作業自体,医療スタッフにとって大きな負担となっていた。患者にとっても放射線治療に対する心理的なストレスを減弱し,治療中の生活の質を向上させる可能性がある。また,患者の体表面をリアルタイムに観察できるため,治療中の体動や呼吸のモニタリングにも応用できる。
SGRTは,当初はターゲットが体表面またはその近くにある乳房や,体表面の凹凸がはっきりしており,表面と治療ターゲットの相関が高い部位,すなわち頭部・頭頸部の治療での優位性が示されていたが,現在では,一般的な部位のポジショニングにも広く用いられるようになっている。頭部や頭頸部での治療ではオープンフェイスマスクを着用するため,患者の快適性が向上することが期待されている。

今後の展望

On-Board Imager(OBI)による画像誘導放射線治療(image-guided radiotherapy:IGRT)では,治療計画CTからリニアックまでのコミッショニングがしっかり行われていれば,医師がオーバーレイされた「画像」を見て位置合わせの精度を直感的に確認することで,問題なく精度を担保することができた。現在の診療報酬では,最終的な位置照合結果の判断は医師によって行われる必要があるとされている。しかし,SGRTではさまざまな不確定要素を内包しており,単に最後に医師が確認してOK,という代物ではない。
SGRTでは,部屋の照度,肌の色などによって検出精度が異なる可能性がある。ROIの設定においては,治療計画CT画像から得られた表面画像をセットアップに用いるのか,SGRTシステムのカメラから得られたROIをモニタリングに用いるのかによって設定する閾値も異なり,おのおのの利点と欠点を理解しておかなければならない。治療計画CT画像から得られた表面画像は,CTの撮影速度や呼吸状態,surface renderingする時のハンスフィールド値などによっても影響される。ROIは,局面を含む十分なマッチング情報を含むことが条件であるが,ROIを大きく取るとframe rateは低下してしまうため,どのくらいまで許容なのかを医療スタッフ間で共有する必要がある。カメラがガントリなどで遮蔽されると,照合精度が低下することがある。メーカーからは詳細な参考資料は配布されているが,SGRTの性質を理解するために,医療スタッフ間でいろいろなパターンを検証しておく必要がある。ESTROのガイドライン1)では,「SGRT implementation should be led by a core multidisciplinary team, usually consisting of radiation therapists, medical physics experts and radiation oncologists…. All team members should principally be familiar with each step of the workflow so that they can intervene in case of unforeseen events or the need for rapid troubleshooting.」と記載されており,実際の治療に当たる診療放射線技師や医学物理士だけではなく,放射線腫瘍医もSGRTの基本原理とその運用について習熟しておくことが重要となる。
われわれの施設では,今後,スタッフの習熟度の向上に合わせて,マーカーレスでの運用,左側乳房照射時の深呼吸保持での照射,頭頸部や頭部照射時のオープンフェイスマスクの使用などを並行して進めていく予定である。

おわりに

SGRTの導入により,マーキングをしたり,セットアップに長い時間をかけて治療したりすることはある意味「侵襲的」であることを,放射線治療に携わる医療スタッフは自覚するべきと改めて感じた。SGRTは,セットアップの精度を向上させ,患者の生活の質を向上させる大きな可能性を秘めている。しかし,SGRTを使いこなすには十分な知識と経験が必要であり,今後しっかりとした教育プログラムを充実させることが重要であろう。

●参考文献
1)Freislederer, P., Batista, V., Öllers, M., et
al. : ESTRO-ACROP guideline on surface guided radiation therapy. Radiother. Oncol., 173:188-196, 2022.

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