VARIAN RT REPORT
2023年7月号
人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.16
Halcyon導入で変わった放射線治療 〜那覇市立病院の1年を振り返って〜
足立 源樹(那覇市立病院放射線治療科)
はじめに
那覇市立病院は,沖縄県那覇市の北側に位置する病床数470床の総合病院である。また,地域がん診療連携拠点病院として,沖縄県南部医療圏のがん医療をけん引する立場にもある。そのような病院であるにもかかわらず,これまで放射線治療に関しては強度変調放射線治療/強度変調回転放射線治療(IMRT/VMAT)や体幹部定位放射線治療(SBRT)を満足に提供できていなかった。なぜなら,使用している放射線治療装置は「CLINAC 21EX」(バリアン社製)で,IMRTもSBRTも行える仕様ではあるのだが,治療室の最大使用線量が非常に低かったためである(750Gy/週,7500Gy/3か月)。しかし,地域がん診療連携拠点病院の指定要件に,「強度変調放射線治療の提供が望ましい」とされていることもあり,無理にでも放射線治療の高精度化を推し進めなければいけない状況であった。
2022年4月に,2台目の放射線治療装置として「Halcyon」(バリアン社製)を導入した(図1)。同時に,光学式患者ポジショニングシステム「AlignRT」および「AlignRT Inbore」(共にVisionRT社製)も導入し,それぞれマーカーレスでの治療と呼吸性移動対策を行っている(AlignRT Inboreの稼働は2022年12月から)。Halcyon導入から1年が経過したため,当院の放射線治療の変化を分析し,Halcyonをどのように使用しているかを紹介する。
Halcyon導入の経緯
数ある放射線治療装置の中からこのHalcyonを選択した理由は,(1) 導入予定の部屋が狭かったがHalcyonは比較的コンパクトな設計で,実際に他施設で狭い部屋へ納入した実績があること,(2) 操作室も狭く,コンソールや治療計画装置などの設置スペースが十分確保できないため,既存のCLINAC 21EXと同じメーカーであるバリアン社の治療装置を選択することによって,これらの機器も共有できる部分が多いこと,(3) HalcyonがVMATの専用機である点などであった。また,Halcyonは静音性にも非常に優れていることと,ガントリ回転速度が通常のリニアックの約4倍と,治療時間の短縮が望める点も大きなメリットと考えて選定した。
なお,VMATを行うに当たり,治療室の最大使用線量の増加は必要不可欠であったので,この治療室の壁には鉄板を追加して,15000Gy/週,75000Gy/3か月まで上限を増やした。
患者内訳
Halcyonでの治療開始が2022年4月であり,2023年3月でちょうど1年が経過した。この1年の患者内訳をその前の1年(2021年4月~2022年3月)と比較した(表1)。Halcyon導入の前後で232件から312件へと増加しているが,前年の232件が少なかったと考えるべきで,コロナ流行の影響と推察している。理由は,コロナ流行以前も年間の患者数はほぼ300件であったためである。Halcyon導入の前後で変化したことは,(1) 前立腺がんの治療が増えた,(2) 肝に対するSBRTを開始したことである。
また,Halcyon導入後の1年間に関して,CLINAC 21EXとHalcyonの使い分けについても検討した(図2)。前立腺がんの治療は全件Halcyonで行った。現在,前立腺がんに関しては,金マーカー留置とハイドロゲルスペーサー留置の上,総線量60Gyの寡分割照射を基本としている。肝のSBRTと直腸がんの術前照射も全件Halcyonで行った。一方で,乳がんの術後照射は全件CLINAC 21EXでこれまでどおりの治療を継続している。緩和領域の放射線治療はどちらの治療装置でも行っていたが,CLINAC 21EXでの治療件数がやや多い印象であった。なお,当院では耳鼻科と婦人科の悪性腫瘍は基本的に扱っていないため,これらの疾患は照射依頼があったとしても緩和目的となっている。
Halcyonでの高精度放射線治療
Halcyonが導入された現在,肺および肝のSBRTには積極的にHalcyonを用いるようにしている。厳密に述べると,これらのSBRTでは,CLINAC 21EXでのノンコプラナーSBRTとHalcyonを使用したVMATでのSBRTのいずれが良いかを線量分布,線量制約などの点から検討し,良い方を選択することにしている。しかし,結果的にHalcyonを選択することが多くなっている。
現在,呼吸性移動対策は全件息止めで行っている。CLINAC 21EXでの息止め(左乳房の深吸気息止め法など)では呼吸センサ「Abches ET」(エイペックスメディカル社製)を用いているが,HalcyonではAlignRT Inboreで照射中の息止めをモニタリングしている。AlignRTは,「TrueBeam」(バリアン社製)とは呼吸と連動して照射が可能となっている。しかし,Halcyonとは現時点で連動していないため,息止めのタイミングに合わせて診療放射線技師がスイッチをon-offしながら治療を行っている。Halcyonで定位照射を行う場合,最大線量率がそれほど高くないため,息止めでの放射線治療は照射に時間を要してしまい,Halcyonのメリットであるスループットの良さが半減してしまうのが少々残念である。同様の体表面モニタリングシステムは,バリアン社にも「IDENTIFY」というシステムがあるが,現時点ではボア内カメラでモニタリングする仕様とはなっていないため,今後,連動も含めて実装されることを大いに期待している。
当院では,Halcyon導入後の1年で肺SBRTが7件であったが,このうち3件をHalcyonで行い,4件をCLINAC 21EXで行っている。CLINAC 21EXで行った4件は,低肺機能のため肺野に低線量域が広がるのを避けたかった2件と,心機能低下のため心臓を通過するビームをなくしたかった2件である。また,肝SBRTに関しては,5件すべてをHalcyonで行っている。これ以外では全脳照射を行う際に,転移巣に対しては標的体積内同時ブースト照射(SIB)で線量増加をすることもあり,これもHalcyonで施行している。
Halcyonを使用してみて
これまで当院で満足に実施できていなかった高精度放射線治療を,Halcyon導入のおかげで患者に提供できるようになった。われわれ放射線治療科医師としては,ようやく地域がん診療連携拠点病院として納得のいく放射線治療を遂行することができるようになり,非常にうれしく感じている。
放射線治療外来を受診した患者からは,「私の治療はHalcyonという新しい治療装置でできるんですか?」とよく聞かれる。これは,Halcyon導入前に院内の待合室や外来に「沖縄県初の放射線治療装置を新規導入します!」と大きなパネルを掲示したことによる効果と考える(図3)。そして,実際にHalcyonで治療した患者からは「とっても静かだね」「すごい機械だね」との感想をいただいている。一方で,「静かすぎて,何をされているのかわからない!忘れられて放置されているのかと不安だったよ!」というご意見もいただいている。このため,治療室内で不安にさせないよう,マイクを用いて適宜声かけを行っている。
診療放射線技師は,さまざまな高精度放射線治療が開始したことで初めは戸惑いも見られたが,件数をこなすにつれ操作も円滑になっている。治療装置2台が共にバリアン社製であることで,操作しやすいためである。また,故障時(CLINAC 21EXもHalcyonもこれまであまり大きなトラブルはないのだが)の対応でも利便性が良い。本土と遠く離れている沖縄県にとって,迅速なサポートは非常に重要であるため,安心して日常診療を行うことができている。Halcyonの特徴の一つで,可動部分がCTのようにカバーされている点も,点滴などがついている患者がガントリにぶつかってしまう心配がなく,安全性の面でも大きなメリットであると考えている。
筆者が担当する患者に関しては,医学物理士がHalcyonの治療計画を行っている。計画は全件「Eclipse」で立案しているが,同じバリアン社製の治療装置と治療計画装置であるから機器間の通信・連携などがスムーズに行えるため,問題点は何もない。過去に照射歴がある場合には,治療計画支援システム「Velocity」で過去の線量分布と今回の線量分布を重ね合わせて評価している。Velocityは一度使ってしまうと便利で,照射歴がある患者の場合には必要不可欠と感じている。
Halcyonのすすめ
2台目の放射線治療装置としてHalcyonが導入され,当院ではどのような依頼も断ったり他院に紹介したりせず,安心して治療を行えるようになった。地域がん診療連携拠点病院の指定要件としてIMRT/VMATの提供が強く要望されていることもあるが,そうでなくても今後の放射線治療はさらに高精度化が進んでいくことは疑いようがない。HalcyonはIMRT/VMATの専用機であり,スピード・静音性に優れている。また,治療室が狭くても比較的設置しやすい大きさである。高精度放射線治療を推し進める目的で2台目の放射線治療装置を選定するのであれば,このHalcyonを考えてみてはいかがであろうか。