VARIAN RT REPORT
2017年5月号
No.5 乳癌:臨床編
磐田市立総合病院:乳癌に対する放射線治療
今井美智子(磐田市立総合病院放射線治療センター放射線治療科)
はじめに
乳癌に対する放射線治療は,主に乳房温存術後と乳房切除術後の放射線治療となる。乳房温存術後の放射線治療は,乳房内再発を有意に減少させ生存率を向上させることを期待し,基本的に乳房温存術を受けた患者全例に適応となる標準的な治療である。また,乳房切除術後の放射線治療も,局所領域の再発予防と生存率の向上を期待し,腋窩リンパ節転移陽性例への適応が勧められる。また,T4などの局所再発のリスクが高いような症例にも,放射線治療の適応が考慮される。
それらの放射線治療計画は,日本放射線腫瘍学会編集の『放射線治療計画ガイドライン2016年版』1)に沿って行っている。ここでは,当院での放射線治療計画の実際を報告する。
当院の装置概要
放射線治療機は「NovalisTx」(ブレインラボ社製),放射線治療計画装置は,「Eclipse version13.6」(バリアンメディカルシステムズ社製)を使用している。放射線治療計画用CTは「Optima CT580 W」(GE社製)にて撮影している。
乳房温存術後の放射線治療
●体位:両側上肢を挙上し,体位の再現性向上のため,固定具として「Vac-Lok患者固定クッション」(シブコ社製)を使用し,個々の症例に合わせ成型している(図1)。
●治療計画用CT:照射野の目安として,触診により乳房外縁と皮膚正中にカテーテルによるマーキングを行い,呼吸性移動を考慮し,rotation time 4sのlong-time CTを撮影し,2.5mmスライス厚で再構成している。
●標的体積・リスク臓器の輪郭入力:臨床標的体積(CTV)は,患側乳房全体(腋窩リンパ節転移陽性例については所属リンパ節領域への照射を考慮する)としている。
●治療計画:tilting techniqueを用い,線束の広がりによる肺への照射を抑えている。照射野の前縁は,呼吸性移動を考慮し,CT上の皮膚表面から1.5cm空けるようにしている。計算アルゴリズムはAAA(anisotropic analytical algorithm)であり,標的基準点はCTV内の胸壁前方のアイソセンタとしている(図2)。
高度肥満例を除き,6MVのX線を用いて,field in field法により最大線量が110%未満(原則107%未満)となるように計画している。
全乳房への総線量は50Gy/25回/5週としている。
腫瘍床に対する追加照射は,断端陽性例や近接例に,通常電子線にて10Gy/5回/1週で行っている。
乳房切除術後の放射線治療
●体位:両側上肢を挙上し,体位の再現性向上のため,固定具としてVac-Lok患者固定クッションを使用している。
●治療計画用CT:照射野の目安として,鎖骨上下リンパ節領域の照射野の接合部である第2肋間と皮膚正中にカテーテルによるマーキングを行い,呼吸性移動を考慮し,rotation time 4sのlong-time CTを撮影し,2.5mmスライス厚で再構成している。
●標的体積・リスク臓器の輪郭入力:CTVは患側胸壁と鎖骨上下リンパ節領域としている。胸壁は乳房温存療法の場合の体表面上の広がりと同等となることが多い。
●治療計画:鎖骨上下リンパ節領域は脊髄への照射回避目的で,ガントリを10°程度傾けて計画し,照射野下縁である胸壁領域との照射野接合はhalf field法を用い,胸壁はnon-coplanarにて上縁を接合部にフィットさせ,同時にtilting techniqueにて線束の広がりによる肺への照射を抑えている。照射野の前縁は,呼吸性移動を考慮し,CT上の皮膚表面から1.5cm空けるようにしている。計算アルゴリズムはAAAであり,標的基準点はCTV内の胸壁前方のアイソセンタとしている(図3)。症例によっては,ボーラスも使用している。
6MVのX線を用い,field in field法により最大線量が110%未満(原則107%未満)となるように計画する。
総線量は50Gy/25回/5週としている。
まとめ
日常診療で多く経験する乳癌術後の放射線治療計画について,当院での流れをまとめた。体位の再現性については,さらなる検討を重ねている。治療計画から実施へのスループットは,放射線治療計画用CTから放射線治療計画装置,放射線治療機へと連携が安全に保持できており,質の高い治療を提供することができると考えている。
●参考文献
1)放射線治療計画ガイドライン 2016年版. 日本放射線腫瘍学会編,東京,金原出版,2016.
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