VARIAN RT REPORT

2021年7月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.4

Halcyonにおける乳房接線照射のプランニング

奥  洋平(大船中央病院放射線治療センター)

はじめに

2017年11月,国内において製造販売承認を取得した新しい放射線治療装置である「Halcyon」(バリアン社製)は,画像誘導による強度変調放射線治療(IMRT)におけるワークフローの手順を簡素化し,強化するように設計されている。特にkV cone beam CT(CBCT)撮影時間が最短17秒に短縮された。照射野を形成するmulti-leaf collimator(MLC)には,新設計の「Dual-Layer MLC」が搭載されている。上下段のMLCがそれぞれ5mmずれることで,リーフ間の漏洩線量を0.01%以下に抑えながら,対向のリーフが互いにフルトラベルし,5cm/sという高速MLC移動を実現している。ガントリ最大回転速度4rpmなども含めたこれらのHalcyonの特徴が,従来型リニアックに比べ治療時間の短縮と線量分布の改善を可能とした。
Halcyonの対象症例でまず思い浮かべるのは,強度変調回転放射線治療(VMAT)症例と思われる。従来型リニアックよりも簡便に治療を遂行することが可能となり,以前の半分程度の時間で照射が終了するため,症例あたりの治療時間が7割程度に短縮するといったうれしい誤算が生じた。そこで,光照射野がないことを逆手に取り,皮膚マーキングを書けないといった短所を長所に変えるべく,Halcyonにおける乳房照射の可能性について検討を行った。最も重要視した点は,従来型リニアックにおける乳房接線照射の線量分布と同等,もしくはそれ以上とすることである。本稿では,当院で行っているHalcyon〔flattening filter free(FFF)〕における乳房接線照射の治療計画方法について紹介する。

Halcyonにおける三次元原体照射(3D-CRT)

Halcyonでは,FFFビームをMLC駆動によって,あたかもflattening filter(FF)ビームのように照射野内線量分布を均一にする“Flattening Sequence”というMLCの動きがプログラムされている。この機能を使用することによって,従来型リニアックで行っていたfield in field(FinF)法にて乳房接線照射の治療計画が可能となる。しかし,FFFビームはFFビームに比べ実効エネルギーが低く,照射領域内の線量分布を均一にすることが困難な場合があることから,当院では使用していない。Flattening Sequenceについては割愛する。

FFFビームによる乳房接線照射

これまでのFFビームを使用した乳房接線照射においては,physical wedge法,FinF法共に体表外側までを均一に照射することにより,胸壁の呼吸性移動が生じても照射野から外れることなく照射できていたと考える。従来型リニアックによるFinF法を用いた乳房接線照射の線量分布を図1に示す。Halcyonによる乳房接線照射は図1の線量分布と同等,あるいはそれ以上に均一に照射することが望まれる。
また,体表近くのターゲットに対するIMRT治療計画では,計画標的体積(PTV)を体表内側数mmまでとして最適化するのが一般的であり,従来の治療計画方法では体表外側まで照射範囲を拡大することはできない。この問題を解決する方法が,pseudo skin flashテクニックを使用することである。また,irregular surface compensatorまたは最適化計算によるフルエンスマップ作成および修正が,線量分布の改善に有用である。よって,上記2つのテクニックを駆使することで,FFFビームによる乳房接線照射の治療計画の質が向上すると考える。

図1 「CLINAC iX」(バリアン社製)によるFinF法の線量分布と各ビームのBeam’s Eye View

図1 「CLINAC iX」(バリアン社製)によるFinF法の線量分布と各ビームのBeam’s Eye View

 

乳房接線照射治療計画の実際

具体的な手順を下記に示す。
(1) 体表外側に仮想的にボーラスを作成し,最適化計算に必要な関心領域を体表外側へ拡大したstructure setを作成する(図2)。当院では体表外側に10mm厚ボーラス,relative electron density(RED)≒0.6(CT値:-400),最適化用PTVとして体表の5mm外側に拡大している。
(2) 拡大した関心領域に対して最適化計算を行い,均一な分布を作成する(図3)。体表外側まで線量分布が作成されていることが確認できる。
(3) 計算されたフルエンスマップを元のstructure setに戻し線量計算(dose calculation)を行う。線量計算用structure setに戻した時のフルエンスマップ,および線量分布を図4に示す。当院では105%線量(50Gy処方の場合52.5Gy)以上の領域をなくす努力をしている。図4の中央に示した茶色の領域が,105%以上の領域となる。
(4) 線量過多となる領域のフルエンスを修正する。
(5) 再度線量計算を行う。
(6) 目的の線量分布となるまで(4) (5)を繰り返す。
(4)〜(6)の手順を行った最終的なフルエンスマップと線量分布を図5に示した。
pseudo skin flashテクニックを用いた治療計画では,最適化計算用と線量計算用の2つのstructure setを用意する必要がある。これは,ボーラスを適用する(最適化計算用)か否か(線量計算用)と同等の考え方である。まず,最適化計算用のstructure setで最適化を行うことで,MLC照射野を拡大することができる。最適化計算用のstructure setで作られたMLC照射野を,そのまま線量計算用のstructure setに移行することで,体表外側まで線量分布を均一にすることができる。

図2 最適化用structure set(左)と線量計算用structure set(右)

図2 最適化用structure set(左)と線量計算用structure set(右)

 

図3 最適化計算用structure setでの最適化計算

図3 最適化計算用structure setでの最適化計算
左から最適化パラメータ,最適化によって得られたフルエンスマップ,その時の線量計算結果

 

図4 最適化計算用structure setを線量計算用structure setに変更し線量計算した結果

図4 最適化計算用structure setを線量計算用structure setに変更し線量計算した結果
左と中はフルエンスマップ,右は線量分布である。

 

図5 フルエンスマップを修正後の線量分布

図5 フルエンスマップを修正後の線量分布
心臓,消化管,対側のフルエンスを削除し,105%線量以上のフルエンスを減少させた。

 

鎖骨上リンパ節を含む3門照射への応用

Halcyonの照射野は28cm×28cmであり,鎖骨上リンパ節を含む3門照射では頭尾方向に照射野が足りず,2アイソセンタとなることをよく経験する。しかし,Halcyonは2つのアイソセンタ間距離が8cm以下であれば,その間で位置照合画像取得,アイソセンタ移動をシステマティックに行える機能があり,あたかも1アイソセンタかのように照射が可能となる。通常,3門照射においては,上腕骨頭数cm尾側にアイソセンタを設定したハーフ照射(乳房は接線,鎖骨上は前後)となるが,Halcyonにおいても基本的なビーム配置は変わらない。乳房部は前項で示した接線照射で線量分布を作成する。鎖骨上においては,接線照射で作成した線量分布をベースにして均一な線量分布を最適化計算によって作成し,全照射野を合算して線量分布の評価を行えばよい。これまでの経験上,鎖骨上の照射野は接線照射に対して90°方向からMLCを入れると,均一な線量分布が作成しやすい。

まとめ

FFFビームによる乳房接線照射の治療計画法について紹介した。Halcyonのみならず従来のFFビームの治療計画においても,フルエンスマップの修正およびpseudo skin flashテクニックを使用することで線量分布の改善が可能となる。また,VMAT治療計画でも使用可能であり,呼吸性移動のある体表近傍のターゲットに対する治療計画では必須のテクニックと考える。今後,放射線治療計画装置にpseudo skin flashテクニックが標準で搭載されることを期待する。

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