VARIAN RT REPORT
2018年8月号
ここまでできるがん放射線治療シリーズ No.7
TrueBeam3台の使用経験
小口 正彦/吉岡 靖生(がん研究会有明病院放射線治療部)
はじめに
公益財団法人がん研究会は,日本で最初の放射線治療施設であり,1923年に深部X線治療装置「ラジオレッキス」を,1935年にラジウムを用いた小線源治療装置とテレキュリー治療装置を,1964年に本邦初のリニアックを設置した(図1)。2005年に東京都豊島区大塚から有明病院に移転し,リニアック3台と遠隔操作密封小線源治療装置(RALS)などを一新して整備し,三次元治療から強度変調放射線治療(IMRT),画像誘導放射線治療(IGRT),画像誘導小線源治療(IGBT)へと高精度化に舵を切ってきた。2008年頃から患者数が増加した上に,時間のかかる高精度放射線治療を行うことによって3台のリニアックでは対応できなくなってきた。1人の患者に十分時間をかけて照射するなどの放射線治療の安全性を担保することも考慮して,経営改革に合わせて放射線治療棟の増設と機器の増加を検討してきた。2016年に新棟が完成し,リニアック室を3室増設して,バリアン社製の「TrueBeam」3台をそろえた(図2)。新棟は本館と地下1階でつながり,放射線治療部は2倍の規模になった。
放射線治療部のポリシーとTrueBeam3台をそろえた理由
がん研究会有明病院放射線治療部は,(1) 適切な放射線治療を適切な時に行う,(2) 基本に忠実に確実な治療を実践する,(3) 一般病院で購入可能な汎用放射線治療機器を用いて高精度放射線治療を日常臨床で行うことを基本原則にしている。
TrueBeam3台をそろえた理由は,(1) 故障時も休まないで治療できる,(2) 汎用型リニアックで統一し,操作手順などを単純化して少なくすることでヒューマンエラーが減り医療安全を担保する,(3) 操作・マニュアル・QA/QC手順などを統一し効率化を図る,(4) 機器操作を単純化して誰でもできるようにし,操作以上のこと,すなわち放射線治療内容や個別配慮を考える余裕をつくる,(5)共有部分が増えることで経済的負担を減らす,(6) IGRTを行うことで治療精度が高くなり,マージンが減って遅発性毒性が低くなる,(7) 疾患別に専用リニアックを決めて放射線治療の精度・品質を高くする,などである。
順次機器を更新することで,バリアン社製の放射線治療データ管理システム「ARIA」のバージョンアップをスパイラルに継続できる利点もある。結果として,放射線治療担当の診療放射線技師(以下,専門技師)全員がTrueBeamの習熟者になりつつあり,笑顔が多くなった(図3)。実際に,難しい症例において困難に遭遇した場合には,隣のリニアックの先輩が助けてくれるらしい。専門技師が自信を持って放射線治療内容の一端を患者に説明するようになったことも大きい成果である。TrueBeamの長所を表1に示す。
Machine overrideの活用例
TrueBeamの特長の一つにMachine overrideがある。これは,故障によりその装置が使用できなくなった時に,同等のビーム特性を有する別の装置で治療を実施できる機能である。
Machine overrideは次の点で有用である。(1) 故障時のリニアック振り替え対応により,休止しないで放射線治療を継続できる。特に頭頸部がん,婦人科がん,肺がん,食道がんでは,休止期間が治療成績に影響するので重要な意味を持つ。(2) 各疾患によって放射線治療内容や留意点が異なるので,複数リニアックにおいて治療を分担する主な疾患を決めている。紹介患者数は変動があるため,リニアック間での就業時間に不均衡が発生することが少なくない。Machine overrideにて,放射線労務管理上の就業時間平均化が可能となった。(3) IMRT/VMAT(強度変調回転放射線治療)検証などを合理化できる可能性がある。
故障時対応の経験
2016年の導入以降,これまでにリニアック故障が3件あった。故障時対応の一例を表2に示す。
患者の視点からの故障とその対応について,多数の意見が部長のもとに寄せられた。機械だから故障は仕方ないものの,治療装置が故障したことにより信頼性が低下する不安があったが,放射線照射を受けられないことで再発しないかとの不安は,Machine overrideにて払拭されたようであった。職員の自信のある説明と対応,すなわち,専門技師によるデータに基づく説明と看護師による不安傾聴,医師の臨時診察などにより,患者から「動じない姿勢・体制が安心である」と高い評価を得た。
〈謝辞〉
深夜・休日に保守・点検・整備を実施されているバリアン社のサービス部技術者および高精度放射線治療機器の開発者の皆様に深謝する。
*本稿は,2018年2月10日に開催された,日本放射線腫瘍学会第31回高精度放射線外部照射部会学術大会における株式会社バリアンメディカルシステムズ共催ランチョンセミナーでの講演内容をまとめたものである。