VARIAN RT REPORT

2021年9月号

ETHOS Therapy Adaptive Intelligenceの幕開け 1.適応放射線治療:放射線治療の未来はどう変わるか

原  毅弘(Varian, a Siemens Healthineers company, Senior Manager of Product Marketing, Asia Pacific and Japan India)

バリアンが2021年3月に発表した適応放射線治療のトータルソリューション「ETHOS」は,人工知能(AI)を取り入れることで,適応放射線治療における再治療計画の飛躍的な効率化を実現した。患者がカウチ上に寝た状態のまま,コーンビームCT撮影から再治療計画,治療実施までを行う,AI技術を駆使して実現したワークフローによるETHOS Therapyを実現している。そこで,9月号,10月号の2回にわたり,ETHOS Therapyが切り開く適応放射線治療の未来を展望する。

放射線治療:これまでの道のり

放射線治療は,19世紀末にX線が発見され,1940年代に超高圧X線治療が開発されて以来,大きく発展してきた。医療従事者,研究者,および産業界は,過去60年の間,リニアアクセラレータの性能を向上させるためにたゆまぬ努力を重ね,放射線治療の精度,安全性および有効性を向上させてきた1)。具体的には,位置決めX線,MVおよびkVコーンビームCT,動体管理システム,体表トラッキングシステム,そして治療計画システムが挙げられる。その上で,現在,強度変調放射線治療(IMRT),強度変調回転放射線治療(VMAT),画像誘導放射線治療(IGRT),定位放射線治療(SRS)および体幹部定位放射線治療(SBRT)などの先進的な治療が多くの施設で行われるようになったが,これからの10年において,放射線治療はがん患者にどのような恩恵をもたらすことができるのだろうか。

がん医療の未来:個別化治療

放射線治療と同様に,がん治療もまたこの20年で大きく進化した。“画一的”な方法は過去のものとなり,すべての患者に対して個別のがん治療が求められることが当然のことになってきている。遺伝子の表現型の決定や他の先進的な技法は,単にがん診断および予後に関する情報を得るためだけでなく,がん治療の個別化を促進するためにも用いられるようになってきている。このような患者に合わせたアプローチは,ホルモン治療,免疫治療および分子標的治療の重要性を向上させてきた。
同様に,適応放射線治療は,放射線治療において患者に合わせて個別化するアプローチの一つである。適応放射線治療とは,周囲臓器の変化による腫瘍の形状および位置のマクロ的変化,および膀胱の変化などの生理学的変化を毎回の治療で考慮し最適化する(図1)。つまり,治療の過程を通して生じる患者の反応や変化に合わせ,より効率的にがんをねらい撃ちするよう調整する治療アプローチである(図2)。
適応放射線治療では,個々の患者の状況によって個別化された治療方針を作成する。また,患者体内の解剖学的状態や治療効果に関する最新の情報を定期的に評価し,患者個々に作成された治療方針に基づいた照射が適切に行われるよう適宜調整する。

図1 治療期間中の時間経過による体型変化の例

図1 治療期間中の時間経過による体型変化の例
治療計画時の輪郭(a)を数週間後に取得した画像に移し込む(b)と,再輪郭描画と再治療計画の必要性が確認できる。

 

図2 適応放射線治療の例

図2 適応放射線治療の例
a: 治療当日の患者CT画像を基に,当初の治療計画を照射する場合の線量分布
b:治療当日の患者CT画像を基に再治療計画を行い,照射する場合の線量分布
再治療計画を行った図(b)は,ターゲットに線量分布がフィットしているのが確認できる。

 

適応放射線治療:実現できたのだろうか?

適応放射線治療は,いまだ開発初期の状況にあると言える。現状,適応放射線治療の導入は,多額の資本を必要とする設備の導入や,医療従事者に対する何時間にもわたるトレーニング,高度かつ幅広い知識と経験を持つ熟練した医療従事者が必要,といったコストと時間のかかるプロセスとなっている。つまり,医療従事者や患者を含め,多くの人々にとってはまだまだ手の届かないものである。より多くの患者にこの適応放射線治療を提供するためには,これらの障壁を乗り越える必要がある。高度に個別化された治療形態を誰にでも適応可能にするために,この治療法を進化させることが必要である。
適応放射線治療において,人工知能(AI)を取り入れたアプローチが活用されれば,予後改善の可能性まで期待できるだろう。また同時に,それは患者の無病生存期間の延長への期待にもつながると考えられる。さらに,適応放射線治療は,がん治療における治療機会の拡大や,研究および進歩への扉を開く一助となりうる。
なお,現状の適応放射線治療における個別化医療の普及に対する障壁には,以下が挙げられる。
○ 資本の集約:今日の適応放射線治療はコストのかかる資本設備を必要とし,かつ非常に多くの人々にとってはけた違いな費用がかかる。
○ 広範囲のトレーニング:治療プロセスにおいて,高度かつ幅広い知識と経験を持つ熟練した医療従事者を必要とする。
○ 治療の長時間化:現在の適応放射線治療の時間は40分を上回ることもある。各医療施設において,このシステムの導入と利用が遅れているのは,患者にとって,この適応放射線治療がきわめて長い治療時間を要するからである。治療の間,患者は治療台の上でじっとしていなければならないことから,時間のかかる適応放射線治療は患者にとって負担に感じる可能性がある。
○ テクノロジーの黎明期:今日まで,適応放射線治療のツールとソリューションは黎明期にあった。このプロセスを実施することは可能ではあるものの,実用化されておらず効率的ではない。膨大なデータの簡素化および意思決定の一助となる利用可能なAIの活用が限られているため,医療従事者に負担がかかっている。

適応放射線治療の未来

現段階での適応放射線治療は,完全ではないかもしれない。しかし,個別化医療の変革においては1段階次のステージにある。今後,AIを用いることで,その将来を変えることができる兆しが見えつつある。この適応放射線治療という先進的で質の高い治療法を,あらゆる種類のがん患者に広く適応できるようにするためには,以下の事項が未来を支える柱となりうるだろう。
○ 迅速な治療:より多くの患者が利用できるよう,従来のような治療時間で行うことができる治療にすること
○ 手頃な費用:巨額の設備投資やインフラ集約的投資に頼らない,無駄がなく臨機応変なソリューション
○ リソース損失の低減:時間を費やす業務を自動化し,医療従事者から作業負担を省くための,AIおよび他の新規テクノロジーの利用
上記の3本の柱によって,適応放射線治療の効率性,柔軟性および手頃さが確保されるようになれば,この治療法がより多くのがん患者に広く適応されるようになるだろう。
治療を適応させ,さらに進化させていくために,たゆまぬ努力を続けていく必要がある。現在の適応放射線治療は,より多くのがん患者に個別化した効果的な治療を提供する可能性を含んでおり,この治療が現状を一変させることになるだろう。
10月号では,適応放射線治療に関するバリアンのソリューションについて述べる。

●参考文献
1)https://humanhealth.iaea.org/HHW/MedicalPhysics/Radiotherapy/Topicsofspecialinterest/HistRT/index.html

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