VARIAN RT REPORT
2023年11月号
人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.18
転移性脊椎腫瘍に対する体幹部定位放射線治療の普及に向けて
中島 祐二朗(駒澤大学/東京都立駒込病院)
はじめに
体幹部定位放射線治療(SBRT)は,肺・肝腫瘍に広く用いられてきたが,2020年4月の診療報酬改定で脊椎転移に対しても保険適用となった。それから3年半が経とうとしているが,肺SBRTのように脊椎SBRTが一般的になったかというと,そうではないと感じている。これは,脊椎SBRTではリスク臓器である脊髄と,標的である脊椎が隣接しており,急峻な線量分布を作成し治療を行うため(図1),治療計画から照射までの各工程を高精度に行う「超高精度放射線治療」が必要になるためであると考える。
TrueBeamで変わった脊椎SBRT
東京都立駒込病院では,2013年8月に脊椎SBRTを開始してから,毎年,多数の症例に脊椎SBRTを実施している(図2)。治療開始から2021年5月までは,step-and-shoot法による強度変調放射線治療(IMRT:フラットニングフィルタあり)を実施しており,治療時間は60分ほどを要していた。東京都立駒込病院では,治療の10分ごとにcone beam CT(CBCT)を撮影し,intra-fractional errorを評価・補正しており,この当時はビーム間で合計3回のCBCT撮影を行っていた。2021年6月からは,バリアン社の放射線治療装置「TrueBeam」が導入され,全例に強度変調回転放射線治療(VMAT:フラットニングフィルタフリー)を行っている。その結果,治療時間は10分程度,照射時間は3分程度で完結できるようになり,より多くの患者を治療できるようになった。また,線量分布に関してもTrueBeamと放射線治療計画システム「Eclipse」(バリアン社製)を用いることで,標的への線量カバレッジと線量集中性に関して,より優れた線量分布が作成可能になった。例えば,2023年6月までに脊椎SBRTが実施された541症例(TrueBeam: 121症例, TrueBeam以外: 420症例)の治療計画を後方視的に解析したところ,TrueBeam導入前後でcoverage compromise index(D95/処方線量)の平均値および標準偏差は,0.85±0.12から0.95±0.08と大きく増加しており,標的への線量カバレッジが大きく改善された。TrueBeamの導入によって,治療時間,線量分布,位置照合,すべての面でより良い治療を患者に提供できるようになったと実感している。
これまでの脊椎SBRTの普及に向けた取り組み
脊椎SBRTの本邦での普及に向けて,東京都立駒込病院の伊藤 慶先生とともにさまざまな取り組みを行ってきた。例えば,脊椎SBRTのノウハウをまとめた原稿の執筆である。脊椎SBRTを本邦に広めたいという一心で,『脊椎SBRTパーフェクトガイド』を雑誌の特集としてまとめ,出版された1)。執筆したのは2021年であるが,2023年10月現在でも実臨床で役立つ内容となっている。
また,伊藤先生と協力して多くの講演や論文執筆を行ってきた2)〜6)。バリアン社主催のセミナーとしては,2021年に「第3回 Varian Live!」で講演を行い,300名を超える方にご聴講いただいた。これらの講演で多くの方に知識をお届けできた一方,本邦で脊椎SBRTの普及が十分でないのは,知識だけで実臨床に取り入れるのは難しいためであり,技の共有も同時に行うのが重要であると考える。そこで,バリアン社主催の脊椎SBRTのワークショップである「Varian SBRT PRACTICE for Spine Metastasis」を開催してきた(図3)。このワークショップでは,参加施設に事前にCT画像とMR画像を渡して,輪郭描出および線量分布最適化を行っていただいた。当日のワークショップでは,各施設が実施したCT-MRフュージョン,輪郭描出,線量分布最適化に対して,Eclipseを実際に操作しながら修正点やポイントのレビューを行った。このワークショップは,2022年に仙台,東京,福岡で開催しており,多くの施設から好評を博したとうかがっている。また,2023年には,事前課題なしの初級編のワークショップを東京と大阪で開催した。初級編のワークショップでは,当日に参加者全員で,CT-MRフュージョン,輪郭描出,線量分布最適化を行い,適宜アドバイスおよびレビューを行い,参加者全員のスキルアップをめざした。なお,バリアン社と相談して,脊椎SBRTのワークショップを継続的に開催したいと考えている。ワークショップの開催日および申込方法は,バリアン社のメールマガジンで配信される予定なので,ぜひ多くの方にご参加いただきたい。
これからの脊椎SBRTの普及に向けた取り組み
さらなる脊椎SBRTの普及に向けて,以下の2点について取り組む予定である。
(1) 『脊椎SBRTパーフェクトガイド』の改訂
この2年半で多くの論文報告があり,最新の情報を加えたいと考えている。また,MRIの撮像シーケンス,線量分布の最適化,患者QA(品質保証)に関する情報が十分でないため,加筆したいと考えている。
(2) 治療計画トレーニングシステムの構築
日本医学物理士会で治療計画トレーニングシステムを準備している。脊椎SBRTの線量分布最適化についても準備を進めており,目標値に対して線量分布を最適化することで,線量分布を最適化する力を訓練可能なシステムを構築したいと考えている。
●参考文献
1)伊藤 慶,中島祐二朗:脊椎SBRTパーフェクトガイド〜600症例の経験から〜. Rad Fan, 19(5): 8-1, 47-83, 2021.
2)日本放射線腫瘍学会:第23回放射線腫瘍学夏季セミナー, 2022.
3)Ito, K., Taguchi, K., Nakajima, Y., et al. : Incidence and Prognostic Factors of Painful Vertebral Compression Fracture Caused by Spine Stereotactic Body Radiotherapy. J. Clin. Med., 12(11) : 3853, 2023.
4)Ito, K., Sugita, S., Nakajima, Y., et al. : Phase 2 Clinical Trial of Separation Surgery Followed by Stereotactic Body Radiation Therapy for Metastatic Epidural Spinal Cord Compression. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 112(1) : 106-113, 2022.
5)Ito, K., Nakajima, Y., Ikuta, S. : Stereotactic body radiotherapy for spinal oligometastases : A review on patient selection and the optimal methodology. Jpn. J. Radiol., 40(10) : 1017-1023, 2022.
6)Ito, K., Ogawa, H., Nakajima, Y. : Efficacy and toxicity of re-irradiation spine stereotactic body radiotherapy with respect to irradiation dose history. Jpn. J. Clin. Oncol., 51(2) : 264-270, 2021.