2017-4-21
シーメンスヘルスケアブース
シーメンスヘルスケアは,2016年1月にシーメンス・ジャパンからヘルスケア部門が独立して発足し,さらに2016年5月には,新しいブランド名“Siemens Healthineers”を発表するなど,ヘルスケア分野において新たな施策を矢継ぎ早に行い,事業の強化を図っている。ブランド名に使われているHealthineersは,シーメンスのパイオニア精神(pioneering)と優れたエンジニアリング(engineering)を組み合わせた造語。このブランド名の下,ヘルスケア分野にシーメンスのDNAであるイノベーションを起こしていくという,メッセージが込められている。今回のITEMでは,“Engineering success. Pioneering healthcare. Together.”を展示テーマに掲げて,各診療科に変革をもたらすイノベーション,医療システムの変革を支えるサービス,医療業界に変革をもたらすチームで,ユーザーをサポートしていく姿勢を示した。
ITEMに先立つ4月11日(火)に,報道関係者向けに行われた事業戦略説明会において,森 秀顕代表取締役社長兼CEOは,日本での展開について説明した。この中で森CEOは,戦略と方向性として,(1)事業ポートフォリオの拡充とサービスの強化,(2)製品ポートフォリオの拡充,(3)顧客のニーズ,購買プロセスの多様化に対応,の3つを挙げた。(1)については,M&Aによる成長分野での事業拡大,遠隔放射線科サービスなどのデジタルヘルスサービスや,コンサルティング・アウトソーシングなど医療機関経営にもかかわるエンタープライズサービスの新設がある。(2)としては,従来のハイエンドクラス市場だけでなく普及価格帯市場向けの製品強化と,女性医療や循環器系疾患などの疾患別マーケティングアプローチを進める。(3)は,医療機関の意思決定にかかわる経営層向けのサービス,パートナービジネスや主要施設への対応を強化する。
この戦略に基づき,ITEMに合わせて多くの新製品発表や,サービスの拡充が行われた。ブース内には,普及価格帯の新製品として,タブレットからほとんどの操作が可能なCT「SOMATOM go」,ハイエンドクラス装置のアプリケーションを搭載しつつ,コストパフォーマンスに優れた1.5T MRI「MAGNETOM Sempra」が展示された。また,前回のITEMで発表された検査データの可視化で放射線部門の業務効率を向上するクラウドサービス「teamplay」も新機能が紹介された。このほかにも,新製品としてハイブリッド手術室向けに開発され,2017年3月に発表されたばかりの血管撮影装置「ARTIS pheno」やハイエンドクラスのDSCT「SOMATOM Drive」,オープンボアX線CT装置「SOMATOM Confidence RT Pro」もPRされた。さらに,女性医療や循環器系疾患における検査,診断,治療といったトータルソリューションを紹介するコーナーを設けられた。
●CT:タブレット操作でワークフローを革新するSOMATOM go
CTのコーナーで最も注目を集めたのが,ITEM直前に発表されたSOMATOM goである。ガントリの前面パネルにある着脱可能なタブレットとリモートコントローラを用いて,患者登録から条件設定,撮影,画像確認,転送までの一連の操作をほとんどタッチパネルで直感的に行える。このため,装置本体のある撮影室と操作室の間を何度も行き来することがなくなり,検査スループットが向上し,ワークフローの改善を図ることができる。また,従来操作室に設置していたシステム制御や画像再構成を行うコンピュータをガントリ横に組み込んだため,操作室を必ずしも設置しなくても撮影が可能。これにより,設置場所の省スペース化にもつながる。さらに,持ち運びが自由なタブレットから操作することで,撮影時以外は被検者の近くにいることができ,小児や高齢者の場合も,介助者がいなくても検査を行える。一方で,従来装置よりも低被ばく化が図られており,「SOMATOM Force」などのハイエンドクラス装置に採用されている“Spectrum Shaping”を搭載した。Spectrum Shapingは,「錫」のフィルターによって,不要な低エネルギー成分を除去するだけではなく,X線スペクトラムの形状そのものも最適化され胸部単純X線撮影と同等の線量で撮影できる技術。低線量肺がんCT検診などへの適用も期待される。SOMATOM goは,ほかにも新型のX線管“Chronon”や“Stellar Detector”を搭載するなど,新技術が数多く採用されている。
前回のITEMで参考出品されたSOMATOM Driveは,2016年8月に国内で発表され,製品としては今回が最初の展示となった。X線管“Straton MX Sigma”を採用しており,管電流は最大1.5A(750mA×2)で,低電圧撮影でも高画質画像を得ることが可能。また,管電圧は,70〜140kVの間で10kVごとに設定でき,被検者や撮影内容によって,最適な管電圧を選択することで,よりいっそうの被ばく低減が図れるだけでなく,造影剤使用量も減らせて,低電圧撮影をルーチンで行える。さらに,臨床・研究用の最上位機種「SOMATOM Force」と同じ検出器“Stellar infinity Detector”が搭載され,スキャンスピード458mm/s,時間分解能75msの高速撮影に対応。小児・高齢者などの静止画が困難な被検者や高心拍症例でも検査を行うことができる。このほか,ガントリの操作パネルにタッチパネル方式を採用し,直感的な操作が可能となっている。
ITEM初日14日に発表されたSOMATOM Confidence RT Proは,会場内の液晶ディスプレイで説明が行われた。治療計画用CTとして,新しい画像再構成技術“DirectDensity”を搭載。治療計画を作成する上で重要となる線量分布計算において,従来は同一の管電圧を用いて撮影しそのCT値を電子密度に変換していたが,DirectDensityでは撮影条件によらず一定の電子密度へ変換できるため,被検者の体格や部位など条件を変更して撮影を行える。また,金属アーチファクトを低減する“iMAR”を搭載しているほか,dual energy撮影も可能である。
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●MRI:臨床的有用性と経済性のバランスが高次元でとれているMAGNETOM Sempra
MRIの新製品MAGNETOM Sempraは,3T装置「MAGNETOM Skyra」や1.5T装置「MAGNETOM Aera」といったハイエンドクラスMRIに搭載されるソフトウエアバージョン“E11”を採用している。画像の歪みと位置ズレを軽減し,拡散強調画像を提供する“syngo RESOLVE”,静止の困難な小児や高齢者,動きのある臓器の撮像において,モーションアーチファクトを抑えた画像が得られる3D撮像“StarVIBE”が使用できる。同じくE11のソフトウエアである“Advanced WARP”は,金属アーチファクトを抑制でき,安定した画質を実現する。また,ハードウエアとしても,高いSNRと高速撮像を可能にするコイル技術“Tim4G”やガントリ内の磁場均一性を確保し,FOV全域で安定した画質を得られる“TrueForm”を搭載している。さらに,独自の静音技術である“Quiet Suite”により,従来装置に比べ最大97%以上のノイズを除去することができ,小児MRIにおける鎮静剤を使用しない検査も可能。このほか,撮像断面の自動位置決めなどワークフローを効率化するとともに,検査画質を安定化させる“DotGO”も使用できる。
MAGNETOM Sempraは,医療施設経営の観点からも優れた技術を搭載している。マグネット構造と優れた冷却システムによって気化したヘリウムを循環して再び液化することで消費量をゼロにする“ゼロボイルオフテクノロジー”により,ランニングコストを抑えた運用が可能である。さらに,マグネット内の液体ヘリウムの蒸発状態をモニタリングして不必要な循環を止める“Eco-Power”技術により,前機種から最大30%消費電力量を抑えられる。このほかにも,最小設置面積を28m2と省スペース化しており,設置コストも含めて,経済性に優れた装置と言えるだろう。
MRIコーナーのもう一つの大きなトピックスとしては,「MAGNETOM Skyra」や1.5T装置「MAGNETOM Aera」に,圧縮センシング(compressed sensing:CS)のアプリケーション“Compressed Sensing Cardiac Cine”が搭載されたことが挙げられる。“E11C”に搭載されたCompressed Sensing Cardiac Cineは,少ないサンプリングデータから画像を再構成する技術で,心電図同期をすることなくシネMRIの撮像が可能。心臓MRIの検査時間を大幅に短縮できる。従来,長い検査時間を要する心臓MRIは,大学病院など一部の医療施設でしか施行できなかったが,Compressed Sensing Cardiac Cineによって,ルーチン検査でも行えると期待される。ブース内では,愛媛大学,済生会松山病院との共同研究の成果などが紹介された。
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●血管撮影装置:ハイブリッド手術室向けに開発されたロボティックCアームを持つARTIS pheno
血管撮影装置の新製品として展示されたARTIS phenoは,ハイブリッド手術室向けに設計された。2008年に発表されたArtis zeegoの上位機種となる。天井にレールを配置しないため,HEPAフィルタのレイアウトを妨げず,清潔な手術環境を実現する。ロボティックCアームは,X線焦点と検出器(FD)の距離(SID)を130cmに広げ,内径をArtis zeegoから13cm拡大。95.5cmのフリースペースを確保した。これにより,術者は透視併用の手技においても患者にアクセスしやすくなり,周辺の手術器具との干渉もなくして安全性を確保しつつ,手技に集中できるようになる。また,Cアームの内径を拡大したことによって,従来以上に深い角度での透視・撮影が可能になった。加えて,アイソセンター可変機構である“FIS”によって,患者を動かさずに全身の透視・撮影ができるほか,テーブルの傾きに追従して,投影方向やFDと患者との距離を一定に保てる。
ARTIS phenoでは,もちろん画質の向上も図られている。新型FD“zen40HDR”とX線管“GIGALIX”により,さらに低被ばくかつ高画質での透視・撮影が可能になり,撮影だけでなく透視でも2Kイメージングに対応した。また,CTライクイメージング機能である“syngo DynaCT”も回転撮影時間が短縮され,造影剤量を減らすことができる。さらに,造影剤が禁忌の患者に対しても,四肢のCO2造影が可能。“StructureScout”により寝台を傾けても鮮明な造影画像を得られる。
テーブルは,4方向に傾斜させることができ,耐荷重は患者の体重が280kg,心肺蘇生時にはさらに60kgの加重にも対応する。また,Trumpf社やMaquet社の手術寝台と組み合わせることもでき,幅広い手術に対応する。
なお,ブース内では,ARTIS phenoの55インチモニタ背面に,ケーブルレス超音波診断装置「ACUSON Freestyle Elite」を取り付けた仕様で展示された。
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●イメージングIT:放射線部門の効率化や病院経営に貢献する「teamplay」
2016年のITEMで同社が最も力を入れてPRしたクラウドサービス「teamplay」の機能がさらに強化された。イメージングITのコーナーでは,この新機能を中心に展示が行われた。teamplayは,CT・MRIなどの他社も含めた画像診断装置の検査情報を,装置本体やPACSからデータセンターにアップロードする。そのデータをベースに撮影線量情報を管理する“Dose Management”,装置の利用情報を分析する“Usage Management”,検査プロトコールを管理する“Protocols”といったアプリケーションを利用して,各種の分析を行える。Dose Managementでは,部位や装置など検査内容ごとの線量情報をリアルタイムで表示して,DRLs 2015と比較するなど,最適な線量の設定に役立てられる。Usage Managementでは検査数・時間などを装置や撮影者ごとに分析でき,効率的な装置の利用を図れる。また,Protocolsでは,撮影者ごとのバラツキをなくし,検査の標準化が可能となる。これらのアプリケーションに加え,新たに“Images”が利用できるようになったほか,“Protocols”でのシーメンス社製装置のプロトコール集中管理が可能になった。Imagesは,検査画像をデータセンターにアップロードして,多施設に画質についてのセカンドオピニオンを求めることができる。また,“Protocols”でプロトコール集中管理が可能になったことで,グループ施設間で同一条件での撮影が行え,検査の質の向上が図れる。
このほか,読影支援システムの「syngo.via」の新バージョンも紹介された。最新の“VB20”では,研究用の「syngo.via Frontier」でのみ可能であった“Cinematic Rendering”が可能となり,新たに“Cinematic VRT”として提供される。
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●分子イメージング:定量計測が可能な核種が広がったSPECT・CTと画質向上を図ったPET・CT
核医学に関するトピックスとして今回紹介されたのが,SPECT・CTの定量化技術である。SPECT・CT「Symbia Intevo」に搭載される再構成技術“xSPECT”を用いた定量化技術“xSPECT Quant”によって,従来99mTcの定量計測が可能であった。その後,さらに対応する核種が拡大し,123I,111In,177Luでも定量化できるようになった。定量計測を行うことで,腫瘍の検出だけでなく,変性疾患の鑑別や治療計画にも有用な情報を提供することが可能となる。浜松医科大学が新バージョンの装置を導入しており,すでに123Iの定量計測を行っている。
一方,PET・CTでは画質の向上がPRされた。マトリックスが512×512へと拡大したほか,CTの金属アーチファクト低減後術“iMAR”を搭載できるようになった。iMARを減弱補正にも用いることで,アーチファクトを低減するだけでなく,高画質化を図れる。iMARは「Biograph mCT」と「Biograph Horizon」に搭載され,導入ずみの施設へはバージョンアップで対応する。
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●疾患別ソリューション:女性医療や循環器疾患のトータルソリューションをPR
シーメンスの事業戦略として,疾患別マーケティングアプローチを進めることから,ブース内では女性医療と循環疾患のトータルソリューションの紹介するコーナーが設けられた。
女性医療のコーナーでは,デジタルマンモグラフィ「MAMMOMAT Inspiration」と「MAMMOMAT Fusion」が展示された。精密検査対応機種になるMAMMOMAT Inspirationには,新しいトモシンセシス機能“High Definition Breast Tomosynthesis(HDBT)”が搭載された。HDBTでは,トモシンセシス画像から合成2D画像を作成する“Insight2D”,逐次近似再構成法とFBP法を組み合わせたトモシンセシス画像“EMPIRE”,角度を変えながらトモシンセシス画像を回転表示する“Insight3D”が可能となった。シーメンス独自のInsight3Dでは,画像を回転させながら観察でき,より病変を検出しやすくなっている。既存ユーザーには,バージョンアップで対応する。
このほか,女性医療に関しては,ボリュームデータの取得により,診断に再現性を持たらすことのできる超音波画像診断装置「ACUSON S2000 ABVS」や,妊娠の可能性を診断する尿中hCGをその場で測定できる「クリニテック ステータス プラス」,臍帯血のpH,pO2測定などの測定が行える血液ガス分析装置「ラピッドポイント500」が展示された。
また,循環器疾患のトータルソリューションについては,早期発見から診断・治療前プランニング,治療,経過観察までのクリニカルパスに沿って,シーメンスが提供できる装置が紹介された。
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●お問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
住所:品川区大崎1-11-1 ゲートシティ大崎ウエストタワー 5F
TEL:0120-041-387
URL:www.siemens.co.jp/healthineers