2021-5-6
フィリップス・ジャパンブース
フィリップス・ジャパンは,“Together, we make life better”を展示テーマに掲げ,患者を中心とした正確な診断と治療,最適なワークフローを実現するためのソリューションを展示した。今回は感染対策のためにモニタを使ったプレゼンテーション展示を中心とし,内容もImage Guided Therapy(IGT),CT,MRI,ヘルスケアIT,超音波診断装置に絞ってブースを構成した。フィリップスでは,ヘルスケアにおける課題を解決するため,「患者のより良い健康の実現」「患者・家族の満足度向上」「医療従事者の環境の改善」「不要な医療コストの削減と収益改善」の4つをベースにソリューション開発を進めており,その成果が新製品・最新アップデートとして披露された。
ITEM初日の4月16日にはプレス向けのブースツアーが行われ,プレシジョン・ダイアグノシス事業部事業部長の門原 寛氏が,「フィリップスでは,人工知能(AI)を中心とした最新技術を製品・サービスに搭載することで,医療従事者の負担軽減,患者の負担軽減をめざしており,展示ではAIを活用したワークフロー改善など,新しいソリューションをご覧いただきたい」と挨拶した。
この言葉の通り,フィリップスではさまざま製品・サービスへのAI技術応用を進めており,ITEM開幕直前に発表された128スライスCT「Incisive CT Premium」もその一つだ。4つの機能を有するAIソリューション“Precise Suite”を実装し,画像再構成とワークフロー改善の両方にAIを活用している点が大きな特徴となっている。また,携帯型超音波診断装置「Lumify」は,軽量なトランスジューサとスマートデバイスによる直感的な操作性が特長で,実機によるデモンストレーションが行われた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診療現場でも活用されており,COVID-19診療に貢献する機能を搭載したコンセプトモデルも参考展示された。
●CT:AIを画像再構成とワークフロー改善に活用した新製品「Incisive CT Premium」
●超音波診断装置:リアルタイム情報共有機能も搭載した携帯型超音波診断装置「Lumify」
●ヘルスケアIT:AIを画像診断ワークフローに活用することで読影の質と効率を両立
●MRI:ヘリウムフリーの「Ingenia Ambition 1.5T」を中心に社会課題への対応やAI応用をPR
●血管撮影装置:最新プラットフォーム「Azurion R2.1」をシミュレータで紹介
●CT:AIを画像再構成とワークフロー改善に活用した新製品「Incisive CT Premium」
CTエリアでは,新製品の128スライスCT「Incisive CT Premium」とフラッグシップである「IQon Spectral CT」の最新情報を展示した。Incisive CT Premiumは,2019年に発売した「Incisive CT」にAIソリューション“Precise Suite”を実装した最新のCT装置で,4月7日から国内販売が開始された。“Tube for Life”をコンセプトに開発されたIncisive CTは,高耐久のX線管球“vMRC”や優れたワークフローが評価され,すでに世界で771台が導入されている。新製品のIncisive CT Premiumは,AI技術を画像再構成とワークフロー改善の両方に活用している点が特徴で,4つの新機能を搭載する。
AI画像再構成“Precise Image”は,ディープラーニングによるニューラルネットワークを画像再構成プロセスに採用し,最大80%の線量低減,最大85%のノイズ低減,最大60%の低コントラスト検出能の改善を実現。低線量撮影でもノイズを抑制しながら臓器の辺縁を明瞭に描出することができ,日常診療で利用可能な画像再構成スピードを有する。また,フィリップスのCTには従来から心拍変動に対応した後ろ向き心電図同期アルゴリズムが搭載されているが,Incisive CT Premiumではより高心拍の症例にも対応可能なAI心臓画像再構成“Precise Cardiac”が実装され,冠動脈CTのさらなる画質向上を可能にする。
ワークフローにおいては,AIカメラによる自動ポジショニング“Precise Position”が搭載された。天井にカメラを設置して患者の関節を認識することで,体位やセンタリングの状態を判断し,高い精度で一貫性のあるポジショニングを可能にする。従来のポジショニングと比べ,垂直方向精度の50%改善,オペレーター間のバラツキを70%改善,所要時間を23%短縮し,検査数の増加により収益向上にも貢献する。
AIを活用したインターベンションサポートツール“Precise Intervention”は,CT画像上で事前に穿刺プランを設定することで,穿刺角度のズレやターゲットまでの距離をリアルタイムに表示する。手技の時間短縮や安全性の向上,経験の浅い医師への教育などにおいて有用となる。
一方,2016年に国内発売された二層検出器搭載のIQon Spectral CTは,国内ユーザーからも多くの論文が発表され,臨床的価値が確立されていることをアピールした。展示では,IQon Spectral CTが,フィリップスがめざす「患者のより良い健康の実現」をはじめとする4つの目標を同時に実現するとして,それぞれの目標に合致したエビデンスを紹介した。仮想単色X線画像(MonoE)の低keV画像による悪性腫瘍の診断能向上や造影剤量の低減,Calcium Suppression画像による微小骨折の早期診断など,ユーザーからの報告を多数紹介した。
●超音波診断装置:リアルタイム情報共有機能も搭載した携帯型超音波診断装置「Lumify」
携帯型超音波診断装置「Lumify」は,国内ではCOVID-19対策のためのパッケージソリューションとしての先行提供を経て,2020年6月に正式リリースされた。高い携帯性・操作性で使いやすさを追究するとともに,リアルタイム情報共有機能「Reacts」により医療スタッフ間のコミュニケーションもサポートする。
Lumifyのトランスジューサは140グラム以下と軽量で,point-of-care ultrasound(POCUS)に求められる高い専門性に応えるため3種類を用意。「Lumify C5-2」(コンベックス)は肺野/腹部/産婦人科/肝臓・胆嚢,「Lumify L12-4」(リニア)は肺野/血管/整形外科/表在/軟部組織,「Lumify S4-1」(セクタ)は肺野/心臓/腹部/産婦人科/FAST(外傷)がプリセットされている。携帯性を保ちながら画質の良さも評価されて販売台数を伸ばしており,展示では心臓や胎児心,臍帯,腹部などの画像を供覧し,据え置き型装置と同等の画質を得られることをアピールした。また,すべてのトランスジューサに肺野の検査プリセットを搭載しており,COVID-19診療における肺エコーでも活用されていることが紹介された。
本体は約305グラムの軽量化されたタブレット端末で,Androidをベースとしているためスマートフォンを操作するような直感的な操作が可能だ。本体とトランスジューサをつなぐケーブルはUSBアタッチメントで,容易にトランスジューサを付け替えて使用でき,もしケーブルが断線した場合にも予備のケーブルと交換すればダウンタイムなく使用することができる。トランスジューサはタブレット端末から電源を供給するため,安定的に長時間使用することが可能である。
「Reacts」は,Lumifyで撮像している超音波画像,デバイスカメラによる映像と音声,ガイダンス機能(ポインタ)を,遠隔地とリアルタイムに共有できる機能。共有先はWindows端末,iOS端末,Android端末にReactsのアプリケーションをインストールし,インターネット経由でLumifyと連携する。Lumifyを操作する術者と上級医師などがリアルタイムに情報を共有することで,手技サポートや教育に活用でき,島しょ部などへき地医療へのサポートや,ドクターカーなどでのプレホスピタルケアでの活用が想定される。
また,肺エコーをサポートする機能を搭載したLumifyのコンセプトモデルの参考展示を行った。肺のグラフィックから領域を選択してトランスジューサを当てると,肺炎などで観察されるBラインを自動で計測し,その本数を0,1〜2,3以上に分類して表示する。COVID-19診療に貢献する機能として,近くリリースされる予定となっている。
●ヘルスケアIT:AIを画像診断ワークフローに活用することで読影の質と効率を両立
フィリップスは近年,ヘルスケアITへの投資を積極的に行い,ヘルステックカンパニーとしての領域を拡大している。2017年には,地域医療における施設間のシームレスな情報連携のためのソリューションを有するオランダのForcare社を買収。患者中心の切れ目のないケアの提供を可能にするInteroperability Solutionsとして展開しており,国内でも2021〜2022年にかけての上市をめざしている。また,2019年にCarestream Health(ケアストリーム)のヘルスケアITシステム(HCIS)事業を買収し,医用画像管理システム「Vue PACS」やRIS,統合アーカイブ(VNA),クラウドなど旧ケアストリームのヘルスケアIT製品を統合してポートフォリオを拡大している。PACS製品の国内向けのサービス・サポート体制の充実も図り,専任サービスや専用コールセンターなどによる24時間365日のサポート体制を整えている。
また,AIを画像診断ワークフローの生産性向上に活用する取り組みを進めており,PACSやVNAにAIを組み込み,院内読影と遠隔読影を統合した新しい画像診断プラットフォームを紹介した。クラウドまたは医療機関内にVNAサーバとしても運用できるPACSサーバ「Vue Archive」を構築し,“ワークフローオーケストレーター”により,検査施設に限らずほかの医療機関や自宅などさまざまな拠点にいる放射線科医への読影依頼の割り当てを最適化することで,医師ごとの負担の平準化と生産性の向上をめざす。ワークフローオーケストレーターにより,適切な時間内に,依頼元の検査施設を担当し,専門領域の合致した放射線科医,もしくは施設として指名したい医師が,緊急性も考慮した優先順位で読影することが可能になる。
このプラットフォームを構成するVue PACSは,読影ビューワや解析アプリケーション,統合参照用ビューワといった特長を持つオールインワンのPACS。読影ビューワとしては,高精度かつ高速な自動レジストレーション機能により,同期するシリーズをクリックするだけで自動レジストレーションが行われる。また,ビューワ起動時に過去画像を含めて同期された状態で表示することも可能で,迅速に読影を開始できる。
さらに,AIを活用した順位付け“AIトリアージ”も紹介。これは,画像解析AIエンジンのシステムと連携し,AIによる画像解析結果を検査リストに反映する機能で,画像を開かずに何らかの疾患の可能性が高い症例であることがわかり,優先して読影することができる。
また,4月13日より提供を開始した脳ドック用プログラム「BrainSuite」も紹介した。東北大学発のスタートアップ企業である(株)CogSmartとの協業によるもので,脳MR画像解析AI「Hippodeep」で測定した海馬体積と,東北大学データベースから得られた健常人データセット,認知機能テスト「Cantab」を用いて,認知機能低下のリスクを検出し脳健康レベルを算出する。結果レポートでは分析結果とともに,認知症を予防するための生活習慣改善のアドバイスが提供される。
●MRI:ヘリウムフリーの「Ingenia Ambition 1.5T」を中心に社会課題への対応やAI応用をPR
MRIエリアでは“The new reality in MR”をテーマに掲げ,COVID-19やヘリウムの需要増といった社会課題への対応や,AI応用を切り口にソリューションを紹介した。超電導MRIで使用されるヘリウムは世界中の消費量の約20%を占めると言われており,半導体製造などで需要も増え,輸入量減少・価格上昇の傾向が続いている。また,吸着事故が起こるとクエンチによるダウンタイムの発生,復旧費の発生など,病院経営にも大きく影響する。これらの課題に対するソリューションが,ヘリウムフリーの「Ingenia Ambition 1.5T」である。わずか7Lのヘリウムで超電導状態を維持するBlueSealマグネットを搭載することで,ヘリウム依存からの脱却を実現。ヘリウム排出管が不要であり,約900kg軽量化したことで,上層階などフレキシブルな設置が可能になっている。また,吸着事故時に施設スタッフが消磁・励磁を実施できる“EasySwitch Solution”を実装し,万が一吸着事故が起きた場合にも6時間以内での復旧が可能となる。復旧に当たってヘリウムの追加は不要で,迅速な復旧により検査や経営への影響を最小限に抑えることができる。
また,臨床アプリケーション「R5.7」(Release 5.7)の各領域に特化したシーケンスやアプリケーションも数多く展示された。脳神経領域の“iMSDE”は,Black Blood Imagingに有効なプリパルスで,ステントやコイルが留置されていても血流信号をしっかりと抑制する。展示では,大型脳動脈瘤に対するフローダイバーターステント治療の効果判定への活用を紹介し,非造影で安全・低侵襲に評価できることをアピールした。整形領域の “FRACTURE”は,皮質骨,腱,靭帯を強調したコントラストが得られるシーケンスで,骨折や腱断裂,後縦靭帯硬化症などの評価に用いることができる。CTを追加する必要がなくなり,診断の迅速化,被ばくや医療コストの抑制に役立つ。
循環器領域としては,マルチモダリティワークステーション「IntelliSpace Portal 12」で解析可能なの2つのアプリケーションを紹介した。StreamLineやPathLineで血流を可視化する“MR Caas 4D flow”は,解析時間の短縮化を実現し,バルブトラッキングによりバルブフロー定量化の信頼性が向上。フローパターンの視覚化・定量化による血流評価,心臓内の血流解析による弁機能評価,StreamLineによる大動脈瘤内の血流評価などが可能になる。また,“MR Caas Strain”は,心周期にわたる心筋のゆがみの評価や各種のグローバルストレインを算出することで,心筋症や弁膜症の診断やモニタリングを支援する。
MRI関連のAIソリューションについては,Speed,Comfort,Confidenceの3つのコンセプトに基づき紹介した。Speedでは,EasySwitch SolutionのクエンチマネージメントをAIで管理するほか,ダウンタイム発生を未然に防ぐAIを用いたモニタリングを提供。Comfortでは,撮像アシスト機能“SmartExam”やIntelliSpace Portalの心臓・肝臓セグメンテーションにAIが活用されていることを紹介した。またConfidenceとしては,高精細カメラとAIによる呼吸同期システム「VitalEye」を取り上げた。動作検知と認識アルゴリズムにAIを用いることで,咳などで波形が乱れた領域のデータは収集せずに,画質の劣化を軽減することができる。さらに,新しい取り組みとしてCTとMRIのデータセットのペアでトレーニングしたAIアルゴリズムにより,MR画像から放射線治療の線量分布計算を行う“MRCAT Brain”を展示。CTで治療計画を行った場合とほぼ同等の結果を得られることをアピールした。
●血管撮影装置:最新プラットフォーム「Azurion R2.1」をシミュレータで紹介
IGTエリアでは,2020年に循環器対策推進基本計画が閣議決定されたことを踏まえ,急性期脳梗塞治療にフォーカスしたプレゼンテーションを行い,2020年9月に発売した血管造影X線診断装置「Azurion」の新たなプラットフォーム「Azurion R2.1」を大きくアピールした。Azurionは2017年にシングルプレーン,2018年にバイプレーンをリリースし,用途に合わせたフルラインアップをそろえた血管撮影装置。低被ばく・高画質の両立,ワークフロー向上,カテーテル室のパフォーマンス向上により,医療機関の課題を解決することをめざして開発された。Azurion R2.1では,従来からの特長であったシームレスで直感的な操作性が進化するとともに,日本語表示にも対応可能になった。
ベッドサイドのタッチ式操作パネル“Touch Screen Module”は機能が強化され,2Dに加え3Dイメージの操作・解析が可能になった。これにより血管計測などの操作を,術者自身が手技中に直感的に行えるようになった。また,Touch Screen Moduleで指先やマウスを使ってライブ画像上に描画できる“Markertool”が搭載され,スタッフ間の情報共有・コミュニケーションをサポートする。さらに,計測ツールが3Dにも対応し,脳動脈瘤の塞栓デバイスの選択などをよりスピーディに行える。ワークステーションの機能も強化されており,血管解析ではストレッチビューやcurved MPRの表示が可能になったほか,血管選択時のカラーリングが10色以上使用できるようになった。
また,ハードウエアシステムには新機能“Full System APC”が実装され,ガントリポジションやSID,テーブルポジション,視野,ウェッジフィルタ,コリメータをボタン一つで再現することができる。
コーンビームCTによる3D画像の計測・解析アプリケーションを集約した“SmartCT”は,従来よりも操作性が向上した。SmartCT Angio(3D血管撮影),SmartCT Roadmap(3Dナビゲーション),SmartCT Soft Tissue(CTライクイメージ),SmartCT Vaso(高分解能CTライクイメージ)の4つのアプリケーションで構成される。SmartCT Vasoではワンクリックで骨情報を除去できる機能も新しく搭載し,瞬時に血管構造をVRで確認することができる。これらを臨床現場で活用しやすくするため,操作手順を視覚的にわかりやすく示すガイダンス機能も搭載されており,セッティングから画像取得,解析までの操作を直感的に行える。
●お問い合わせ先
社名:株式会社フィリップス・ジャパン
住所:東京都港区港南2-13-37 フィリップスビル
TEL:0120-556-494
URL:www.philips.co.jp/healthcare