VARIAN RT REPORT
2023年1月号
人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.13
高線量率密封小線源治療装置「BRAVOS」国内第1号機の使用経験
小野 智博(京都大学医学部附属病院放射線治療科) / 松下 矩正(京都大学医学部附属病院放射線部)
はじめに
京都大学医学部附属病院(当院)は,バリアン社の小線源治療計画装置(TPS)「BrachyVision」および小線源治療装置「BRAVOS」を国内初導入した(図1)。若手スタッフを中心にコミッショニング作業を実施し,日本放射線腫瘍学会のガイドラインに基づいた『密封小線源治療 診療・物理QAマニュアル』1)や,さまざまな講演資料を基に検証内容を選定した。本稿では,そのコミッショニング内容と初期臨床経験について示す。
BrachyVision Version16.1のコミッショニングについて
BrachyVision Version16.1は,国内薬事承認を2021年4月9日に取得し,当院において2022年3月に国内初導入したTPSである。コミッショニング内容としては,大きく「線量計算精度の評価」「独立検証システム」「アプリケータ検出能と線源位置の評価」を行った。
線量計算精度の評価では,「Brachytherapy Dosimetric Parameters」2)(University of Valencia提供)から線源パラメータを入手し,TPS登録値との確認および線量計算値と比較することにより計算精度を検証した。比較のため,任意の停留時間にて1つの線源からの線量分布の広がりを,線源中心より±10cmの範囲内でプロファイル評価した。線源中心から0.5cm以内での誤差は±10%程度と大きくなったが,それ以外はすべて±2%以内で良好に一致した。また,過去の実臨床症例を用いてタンデム-オボイド,シリンダー合わせて10症例の線量分布を計算し,ターゲット,リスク臓器の線量指標,グリッドサイズおよびその線量計算時間を評価した。従来,当院にて稼働していた他社製TPSにて得られた線量分布と比較し,各線量指標に大きな差はなく,BrachyVisionを用いても従来と同等の線量分布を得られることを確認した。計算グリッドサイズは,CTスライスXY方向に対し2.5mm2,1.25mm2,0.5mm2を比較し,ターゲット,リスク臓器の線量指標に大きな差がないことを確認した。一方,三次元線量分布の計算時間は,おのおの0.5秒以内,4秒以内,20秒以内と差を認めた。実臨床を考慮し,計算精度が同程度であることから,最も計算時間の短い2.5mm2グリッドサイズを実臨床で用いる運用とした。独立検証システムとして,各線源位置の停留時間から評価点における投与線量(AAPM-TG43)3)の計算式を基に独自計算して比較することで,停留時間の妥当性を評価した。BrachyVisionはバリアン社の放射線治療計装置「Eclipse」とシームレスな連携が可能であり,独立検証システムをそのスクリプト機能に組み込み,2022年9月より臨床運用している4)。また,BrachyVisionで検出したアプリケータ(タンデム-オボイド,シリンダー)と実際の線源の位置関係を評価するため,付属のX線マーカー(バリソースアプリケータII)を用いてCT画像上の位置関係を評価した(図2)。事前に検証した全症例で適切にアプリケータ位置を検出し,X線マーカー位置が正しい位置であることを確認した。
上記の評価により,当院システムにおける可能なかぎりのコミッショニング作業を実施したが,BrachyVisionの計算線量と実測線量の評価について課題が残った。そこで,放射線治療品質保証研究開発応用機構による第三者評価に依頼し,ゲルファントムを用いた計算線量/実測線量の評価を実施した。試験はCT撮影から照射までのEnd to End試験を兼ね,指定の線源配置および停留時間を設定して空間的な線量分布を評価することを可能とし,機構の評価基準内にて良好に一致することを確認した。
BRAVOSのコミッショニングについて
アフターローダーシステムであるBRAVOSのコミッショニングは,『密封小線源治療 診療・物理QAマニュアル』に基づき,主に線源強度測定,線源停止位置の精度検証,線源停止時間の精度検証,End to End試験を実施した。上記のうち,BRAVOSに特徴的な方法である線源停止位置の精度検証に関してのみ本稿で紹介する。
BRAVOSには「CamScale位置確認システム(CamScale)」(図3)というシステムが付属しており,線源停止位置を簡便かつ定量的に評価することができる。BRAVOSとCamScaleを専用の移送チューブでつなぎ,検証を実施する。CamScaleの内部にはスケールとカメラが内蔵されており,90cm,120cm,150cmの停留位置におけるダミーワイヤおよび線源ワイヤの位置誤差が自動で計算される。図3 右は,上段がダミーワイヤ,下段が線源ワイヤで,左から90cm,120cm,150cmの停留位置を示す。自動かつ定量的であるため,実施者の主観にとらわれることなく安全に実施することが可能である。また,誤差が許容値を超えた場合には,ユーザーにより停止位置のキャリブレーションが可能である。キャリブレーションではユーザーによる数値の入力などが不要であるため,ミスのリスクが少ないことも特長である。
初期臨床使用経験について
BrachyVisionおよびBRAVOSのコミッショニングを終え,2022年4月28日に実臨床導入した。初期臨床症例はシリンダータイプのアプリケータを用いた症例であり,TPSを複数台用いてターゲット・リスク臓器の描出,プランニングを同時並行することで業務の効率化にも努めた。事前に作成した運用マニュアルに則り医師,診療放射線技師,看護師,医学物理士が連携し,患者の入室から治療計画,照射,退室まで大きな問題なく実施することができた。
臨床使用していく中で感じたBRAVOSの特長は,(1)安全性,(2)効率性,(3)操作性である。(1)安全性においては,チェック機構の充実が特長である。毎回の照射前にはアプリケータ先端までの距離を測定および補正するため,治療計画におけるチャンネル長の設定ミスや線源移送ケーブルの選択ミスを防止することができる。また,照射直前にコンソール画面に表示されるチェック項目をユーザー側で編集することができるため,各施設に適したチェック項目を作成することが可能となる。(2)効率性における特長の一つは,前述したCamScaleである。コミッショニングだけではなく,日常的な品質管理の効率化においても非常に有用である。もう一つの特長は,Eclipse ver.16以降ではCTデータを複製することにより,複数端末で同時に操作が可能なことである。当院では,CTデータを3つに複製し,医師によるターゲットコンツーリング,医学物理士によるリスク臓器コンツーリング,診療放射線技師によるアプリケータの再構成を同時進行することで,短時間での治療計画を実現した。(3)操作性においては,同システムはバリアン社の放射線治療情報システム「ARIA」やEclipseとシームレスな連携が可能である。当院では以前からEclipseを実臨床で運用していたことから,BrachyVisionでの治療計画に関する操作が直感的に可能であった。
おわりに
BrachyVision Version16.1およびBRAVOSのコミッショニングを実施し,国内第1号機の臨床使用を開始した。
本稿執筆現在(2022年11月)ではタンデム-オボイド,シリンダー症例以外に,付属のアプリケータである「マルチチャネルシリンダー」による加療も経験している。今後は組織内照射併用腔内照射に向けた準備や,不均質補正を考慮する計算アルゴリズム(AcurosBV),また,新規最適化計算アルゴリズム(Volume Evolutionary Gradient Optimizer:VEGO)の可能性を模索し,より安全で効率的な手法の検討を進めていく。
●参考文献
1)日本放射線腫瘍学会小線源治療部会, 編 : 密封小線源治療 診療・物理QAマニュアル 第2版. 金原出版, 東京, 2022.
2)Brachytherapy Dosimetric Parameters.https://www.uv.es/braphyqs/
3)Nath, R., Anderson, L.L., Luxton, G., et al. : Dosimetry of interstitial brachytherapy sources : Recommendations of the AAPM Radiation Therapy Committee Task Group No. 43. American Association of Physicists in Medicine. Med. Phys., 22(2): 209-234, 1995.
4)Zhou, D., Nakamura, M., Sawada, Y., et al. : Development of independent dose verification plugin using Eclipse scripting API for brachytherapy. J. Radiat. Res., 2022(Epub ahead of print).