VARIAN RT REPORT

2017年10月号

No.10 肺癌:技術編

神奈川県立がんセンター:肺癌に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の実際 ─治療計画とIGRTにおける物理的アプローチ─

黒岡 将彦(神奈川県立がんセンター放射線治療品質保証室)

はじめに

手術不能の肺癌に対して,体幹部定位放射線治療(stereotactic body radiation therapy:SBRT)は有効な治療方法である。手術可能なI期の非小細胞肺癌の標準治療法は手術であるが,近年の臨床試験の報告で,SBRTも有効な治療法であることが示されている1)。高齢化の進む現代において,非侵襲的治療であるSBRTの重要性は今後も増していくと考えられる。
本稿では,放射線治療装置「Trilogy」および放射線治療計画システム「Eclipse」(共にバリアンメディカルシステムズ社製)を用いた,当センターの肺癌に対するSBRTについて概説する。

呼吸性移動対策とCT撮影

肺癌のSBRTでは,呼吸性移動対策が必須である2)。当センターでは,腫瘍の呼吸性移動量が10mmを超える場合は,腹部圧迫による呼吸性移動抑制を用いた全呼吸位相照射,もしくは呼吸同期照射で治療を行う。4D-CTを撮影する際,呼吸同期照射症例の場合は音声による呼吸コーチングを実施するが,コーチングを実施すると呼吸が深くなり腫瘍の移動量が増大するため,全呼吸位相照射症例の場合は自由呼吸下で撮影している。4D-CTは,腫瘍が移動する範囲に絞って撮影している。撮影時間を短縮することで,撮影中の呼吸波形の乱れが最小限に抑制され,位相画像再構成の不確かさが低減する。そのため,アーチファクトの少ない画像を得ることができる。

治療計画

4D-CT撮影で得られた各呼吸位相の画像シリーズのうち,照射位相のシリーズで作成された平均画像(AIP)で線量計算を実施している。当センターの場合,4D-CTを腫瘍の移動範囲に絞って撮影しているため,線量計算用の画像シリーズは,4D-CTと同じタイミングで自由呼吸下で撮影したヘリカルスキャンのシリーズも利用して作成する(図1)。
自由呼吸下画像(FB),AIP,最大値投影画像(MIP)のうち,肺癌SBRTの線量計算に最適な画像を検討した報告がある3)。この報告によると,FBとAIPの間には顕著な線量分布の差は生じないが,FBはAIPよりも強いアーチファクトを発生しやすいこと,また,MIPはターゲットの体積を過大もしくは過少評価してしまうことから,肺癌SBRTの線量計算にはAIPを使用するのが最適であるとしている。

図1 線量計算用画像シリーズの作成

図1 線量計算用画像シリーズの作成

 

位置照合(IGRT)

治療室での画像誘導放射線治療(image-guided radiotherapy:IGRT)のワークフローを図2に示す。呼吸性に移動する腫瘍に対して腹部を圧迫する目的は,吸気時の腹部膨張と横隔膜挙上運動に伴う肺腫瘍の運動を抑制することである。しかし,圧迫する位置やその圧力のわずかな相違によって,骨構造に対する腫瘍の相対位置が変動する可能性があるため,照射直前にcone beam CT(CBCT)を用いてターゲット位置を三次元的に照合しなければならない4)図3)。また,肺腫瘍と横隔膜の動きの間には相関があるという報告5)を根拠として,「On-Board Imager(OBI)」(バリアンメディカルシステムズ社製)の透視で横隔膜運動を観察し,横隔膜が治療計画CT撮影時と同等の運動範囲にあることを確認している(図4)。CT撮影時の横隔膜位置は,最大吸気時および最大呼気時の横隔膜とCT撮影中心間の距離を計測して取得する。その範囲をEclipseでsetup fieldとして再現し,OBI撮影時にfield apertureを透視画像上に表示させて横隔膜運動の観察を支援する。

図2 腹部圧迫法でのIGRTワークフロー

図2 腹部圧迫法でのIGRTワークフロー

 

図3 CBCTによる腫瘍の三次元位置照合

図3 CBCTによる腫瘍の三次元位置照合

 

図4 患者セットアップ時の横隔膜運動の観察

図4 患者セットアップ時の横隔膜運動の観察
図中の赤線は位置決め時に計測した横隔膜の運動範囲(上赤線:最大呼気時の横隔膜位置,下赤線:最大吸気時の横隔膜位置)。患側(この症例は右側)の横隔膜が赤線の範囲内で運動していれば,圧迫位置・圧力が適切と判断する。

 

今後の展望

肺癌SBRTは,腫瘍の局所制御に有効である一方で,間質性肺臓炎や中枢気道壊死など,生命にかかわる重大な有害事象を発症させる危険もはらんでいる。近年では,4D-CTで取得した各呼吸位相の画像で線量計算をそれぞれ実施し,各位相の線量を合算することで,実際に投与される線量の予測の正確度の向上をめざす四次元線量計算の研究も進んでいる6)。また,4D-CTで作成した肺換気画像を利用して活動性の領域を避けて照射することで,グレード3の肺臓炎の発生を低減できるという報告もあり7),今後,これらの新しい技術が臨床導入されることで,より安全なSBRTの実施が可能になることが期待される。

●参考文献
1)Chang, J.Y., et al. : Stereotactic ablative radiotherapy versus lobectomy for operable stage I non-small-cell lung cancer ; A pooled analysis of two randomized trials. Lancet Oncol., 16, 630〜637, 2015.
2)Brandner, E.D., et al. : Motion management strategies and technical associated with stereotactic body radiotherapy of thoracic and upper abdominal tumors ; A review from NRG oncology. Med. Phys., 44, 2595〜2612, 2017.
3)Tian, Y., et al. : Dosimetric comparison of treatment plans based on free breathing, maximum, and average intensity projection CTs for lung cancer SBRT. Med. Phys., 39, 2754〜2760, 2012.
4)Mampuya, W.A., et al. : The impact of abdominal compression on outcome in patients treated with stereotactic body radiotherapy for primary lung cancer. J. Radiat. Res., 55, 934〜939, 2014.
5)Cervino, L.I., et al. : The diaphragm as an anatomic surrogate for lung tumor motion. Phys. Med. Biol., 54. 3529〜3541, 2009.
6)Starkschall, G., et al. : Potential dosimetric benefits of four-dimensional radiation treatment planning. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 73, 1560〜1565, 2009.
7)Faught, A.M., et al. : Evaluating the toxicity reduction with CT-ventilation functional avoidance radiotherapy. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., Published online, 2017.

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