VARIAN RT REPORT
2021年10月号
ETHOS Therapy Adaptive Intelligenceの幕開け 2.ETHOS Therapyが個別化がん治療を切り拓く
原 毅弘(Varian, a Siemens Healthineers company, Senior Manager of Product Marketing, Asia Pacific and Japan India)
「ETHOS Therapy〜Adaptive Intelligenceの幕開け 1. 適応放射線治療:放射線治療の未来はどう変わるか」(2021年9月号 )では,適応放射線治療が患者に合わせて個別化した放射線治療を提供する可能性があることと,その概要について紹介した。また,適応放射線治療の普及に対する障壁として,資本の集約,広範囲のトレーニング,治療の長時間化,テクノロジーの黎明期,の4つを挙げた。本稿では,これらの課題にバリアンがどのように対処していくか詳説する。
ETHOS Therapy
2021年3月18日に,バリアンの新たな適応放射線治療(Adaptive Radiotherapy)ソリューションである「ETHOS Therapy」(図1)が,厚生労働省より製造販売承認を取得した。ETHOS Therapyは,包括的かつ革新的な適応放射線治療を提供するソリューションである。その特徴は,Initial Planningの段階からOn-couch AdaptationやTreatment Monitoringに至るまで,患者中心の個別化医療を実現していることにある。ETHOS Therapyを可能とするAdaptive Intelligenceは,がん治療に変革をもたらす。マルチモダリティ画像と人工知能(AI)を高度に統合し,医療従事者が病変部位をより詳細に見て,より深く知り,より正確に治療できるようにする。さらに,ETHOS Therapyはきわめて直感的に使用できるため,導入する施設の制限はほとんどない。イメージングには従来と同様のkVベースのプラットフォームを採用することで,追加のモダリティや特殊な技術を学ぶのに必要な,新たな集中トレーニングを実施する必要もない。患者一人ひとりを本当の意味で治療の中心に据えることができる,革新的なソリューションである。
ETHOS Therapyは,放射線腫瘍医が日々患者に対して意図した治療を達成できる,強力かつシンプルなツールを搭載している。治療ごとの患者の解剖学的状態の変化を確認しながら,治療計画を適応させ実行するという一連の治療を,標準的な治療時間枠内でできるよう設計されている。
On-line Adaptive Therapyは,もはやはかない願望ではない。複雑で時間がかかりすぎて実用的でなかったり,ほとんどの医療施設や患者にとって選択しづらかったりするものでもない。“ETHOS”の語源である,古代ギリシア語における“ETHOS”が表す意味は「いつもの場所」だが,いつの日かETHOSが適応放射線治療における“スタンダード”となることを願う。
ETHOS workflow
ETHOS Therapyでは,あらかじめ定義されたテンプレートで放射線腫瘍医が治療目標を定義し,この定義に基づいて最初の治療計画が作成される。治療当日は,腫瘍周辺臓器の変化による,腫瘍の形状および位置の変化に適応するよう治療計画を変更することができる。ETHOS Therapyは,患者を治療台に載せたまま適応放射線治療を提供することができるため,患者中心の治療を行うことができる。
また,放射線治療装置のコンソール上で,最初の治療計画に使用したマルチモダリティ画像(MR,PET,CT)を使用できるため,初回の治療計画時の環境とほぼ同じ状況でAdaptive Planning(治療中に立てる計画)を行うことができる。この技術により,当初の治療目標を毎回の治療に適用することが可能となり,迅速な照射が可能となっている。さらに,毎回の治療時の位置決めで取得するCBCT画像から,患者の最新の解剖学的状態を確認することで,放射線腫瘍医はより多くの情報に基づいた適応放射線治療を,自信を持って実施できるようになる。
AIによるシンプルな意思決定をサポートするAdaptive Intelligence
ETHOS Therapyでは,AIを搭載したAdaptive IntelligenceがOn-line Adaptive Planningにおける複雑さを解消し,数分で意思決定を可能にする。医療従事者は,治療処方決定時に使用したテンプレートを基に再計画を行い,治療時の患者状況に最も適した治療計画を日々選択することができる。日々の患者状態の変化を治療計画に適応することで,標的部位に対して計画どおりの線量を照射し,周辺臓器のリスクを軽減することも可能となるだろう。
柔軟な治療技術
ETHOS Therapyは複数の照射技法を搭載しており,患者に最適な照射法を選択することができる。
・強度変調回転放射線治療(VMAT)とスライディングウィンドウによる強度変調放射線治療(IMRT)の両方に対応
・On-line Adaptive,Off-line Adaptive,Non-Adaptive(画像誘導放射線治療:IGRT)のいずれにも対応
ETHOS Therapyの3つのステップとそれぞれの特徴
1.Initial Planning
放射線腫瘍医が治療方針を患者個々に決定する。
〈特徴〉
・ GPU(Graphics Processing Unit)による新しいインタラクティブな線量オプティマイザ“Intelligent Optimization Engine”(図2)
・ 線量プレビューにより,リスク臓器とターゲット線量のトレードオフを治療方針に基づいて評価
・ 線量計算と線量最適化の両方にGPUを使用することで,IMRT・VMAT計画を短時間で作成
2.On-line Adaptive
放射線腫瘍医の治療意図が毎回の治療で正確に実施できるよう,当日の患者状態を考慮して再計画を行ったPlan(Adaptive Plan),もしくはInitial PlanをCBCT上のターゲットの移動量に合わせ線量計算したPlan(Schedule Plan)のどちらかを選択することができる(図3)。
〈特徴〉
・CBCT画像取得が最短17秒で可能
・毎回のkV CBCT画像により,患者の解剖学的状態を容易に視覚化
・AIセグメンテーション技術による,コンツーリングおよび治療計画評価の簡便化
・患者個別の効率的なQAを患者が寝台に寝ている状態で実施可能
3.Treatment Monitoring
線量積算や,治療目標に関する今後の予測を評価する。
〈特徴〉
・適応放射線治療の複雑さを解消した高度な治療モニタリング
・線量積算および今後の線量予測を自動化し,治療の進行状況をモニタリングすることで,高度な評価を実現
上述したように,がんとの闘いは昨日までの常識から一変した。これからは,Adaptive Intelligenceの威力をがんとの闘いに活用し,さらに発展させられるよう,バリアンは支援していく。
ETHOS Therapy,この1年
2021年2月までに,バリアンは世界中で25台以上のシステムを納入した。初期に稼働した顧客のデータから,前立腺,子宮頸部,頭頸部,肺,肝臓など,多種多様な症例に対してETHOS Therapyが行われている。
現時点(2021年9月現在)におけるETHOS Therapyユーザーのデータによれば,適応放射線治療のワークフローは標準的な治療時間枠内で収まっている。これには,医師によるレビュー,ターゲットや周辺臓器の輪郭評価,および計画のレビューが含まれる。このようなデータを見れば,「治療台に患者が寝たまま,標準的治療時間内で適応放射線治療を実現する」というバリアンが掲げるキーメッセージが,現実からかけ離れたものではないことがわかる。