inNavi IHE超入門ガイド
Vol. 4 IHE ITインフラストラクチャの応用
ナビゲータ 安藤 裕 独立行政法人放射線医学総合研究所
重粒子医科学センター病院医療情報課長
Vol.4
ビジター 佐々木康夫 岩手県立中央病院副院長/中央放射線部部長
(月刊インナービジョン2007年4月号より転載)
 
Vol.1 / Vol.2 / Vol.3 / Vol.4

●マルチベンダーによるシステム構築の際に,なぜIHEが有用なのでしょうか?

Q(佐々木):
放医研では,従来からマルチベンダーによるさまざまなシステムが混在しており,今回はそうした中での電子カルテシステムやPACSの導入だったということですが,その際に,なぜIHEが有用なのでしょうか。

A(安藤):
さまざまなシステムをうまく連携させるためには,情報がスムーズにやり取りできなければなりませんが,そのためにIHEが最適だったということです。電子カルテやオーダエントリシステムで重要なのは,シームレスな情報のやり取りができるということです。なかでもSWFでは,例えば予約を伴った検査の場合,オーダした医師がその進捗状況をきちんと把握できるよう,業務フローが検討されています。従来の放医研のシステムでは,そういった点が十分検討されていなかったので,新システムの導入の際にはまず,SWFの実装が鍵となりました。また,SWFに密接に関連するのがPIR(患者情報の整合性確保)です。これにより,すべてのシステム間でスムーズな情報連携が可能になりました。例えば,電子カルテシステムのみが稼働しており,そこに新たなシステムを追加するような施設には,SWFとPIRの2つをぜひ要求仕様書に盛り込むことをお勧めします。

Q(佐々木):
放射線部門の統合プロファイルだけでもいくつもあって,資料を読んでもよくわからない部分が多いのですが,例えば,KIN(キー画像への注釈の統合プロファイル)とSINR(画像・数値を含む報告書の統合プロファイル)の関係性はどうなっているのでしょうか。

A(安藤):
KINは,キー画像に付箋をつけておき,あとで参照するときに一目でわかるようにできます。また,SINRは,レポートの中に画像や数値データを埋め込むためのものです。ただ,SINRでは進捗管理は十分できませんので,読影やレポート作成の進捗状況が管理できるRWFが必要だと思います。

Q(佐々木):
岩手県立中央病院でも,マルチモダリティによるシステム構築が行われており,さまざまなモニタが混在しています。そうした状況の中でもっとも面倒なのは,画像を参照する際に,モニタごとにいちいち表示条件を変えなければならないということです。また,一部フィルム運用も行っているため,フィルムと読影用モニタとの表示条件がぴたりと一致しないこともあり,それをどうにかしたいと考えています。

A(安藤):
放医研では実装していませんが,IHEには,CPI(画像表示の一貫性確保)という統合プロファイルがあります。これは,液晶モニタ,ブラウン管,あるいはフィルム出力をする画像であっても,見た目はすべて同じになるというものです。ただ,CPIを実装する際は,グレイスケール・スタンダード・ディスプレイ・ファンクションをサポートするようなモニタを導入する必要があります。

ページトップへ

 

●ユーザーが使いやすい相互運用はIHEで可能になるでしょうか?

Q(佐々木):
マルチベンダーでさまざまなシステムが混在している場合,IHEで操作性を改善することはできますか。

A(安藤):
放医研ではさまざまなシステムが稼働していますので,新システムでは電子カルテやPACSなど,6つのシステムそれぞれにログインが必要です。しかし,これは非常に煩雑な作業ですので,IHEのEUAを実装し,1つのシステムにログインするだけで,ほかのシステムもすべて連動してログインできるようにしました。また,PSAを実装したことで,例えば,電子カルテである患者を選択すると,PACSでも同じ患者が選択できるようになり,逆にPACSで別の患者を選択すると,それが電子カルテにも反映されるようになりました。これは,非常に相互運用性の高い方法だと言えます。
IHE以外の方法では,電子カルテの画面にアイコンを作り,それをクリックするとPACSが立ち上がるという方法がよく用いられます。機能としてはそれもEUAとPSA機能と言えるかもしれませんが,標準的な手続きではありません。また,この方法では電子カルテから情報を呼び出しているため,PACSで患者を変更しても電子カルテには反映されず,一方通行になります。

ページトップへ

 

●IHEを実装する際には,まず初めに電子カルテに実装すればよいのでしょうか?

Q(佐々木):
IHEの統合プロファイルを実装するにあたっては,施設の事情によって,一度にすべてを実装することは難しい場合もあると思います。その際は,初めに電子カルテとの情報連携の部分に,IHEを実装すればよいということでしょうか。

A(安藤):
すべてのシステム間で情報連携をスムーズに保つということが最も重要ですので,それぞれのシステムでデータの受け渡しのフォーマットや手順がきちんと定まっていることが必要です。そのために,標準規格が採用されている必要があると思いますし,最も現実的なソリューションが,IHEだと考えています。
また,すべてのシステムを一度に標準化しようとするとお金も手間もかかりますので,例えば,新しいRISを導入する際に,その部分だけIHEで示されている標準規格を採用するなど,段階的に一歩一歩進めていけばいいと思います。

Q(佐々木):
例えば,新しく導入する電子カルテにIHEを実装したいと考えた場合,ベンダーにはどのように言えばよいのでしょうか。

A(安藤):
要求仕様書に,例えばSWFに則ってアクタの何々を実装する,といったことをきちんと盛り込むことです。これは非常に重要だと思います。よく,楽だからという理由でベンダーに仕様書の作成をほとんど任せてしまうケースがありますが,その場合,後からカスタマイズのための費用が非常に高くつくことにもなりかねません。ですから,要求仕様書については骨身を惜しまず,ある程度は自分で作る必要がありますし,それなりに勉強する必要もあると思います。
実は,IHEを採用すると,要求仕様書の作成が非常に楽になるんです。通常,要求仕様書を作成する際には,かなり詳細な記載が必要です。しかし,IHEの場合は,“SWFに則ってアクタやトランザクションの何々を実装しなさい”と書くだけですみますので,それが一番大きなメリットです。

ページトップへ

 

●IHEは地域連携にも役立ちますか?

Q(佐々木):
近年では病病・病診連携が注目されていますが,IHEは地域連携にも役立つのでしょうか。

A(安藤):
米国ではRIHOsと呼ばれる地域の保険情報システムが普及しつつありますし,カナダでも医療IT推進組織Infowayが発足し,カナダ政府がそこに予算をつけ,生涯一電子カルテ制度を整備しようとしています。また,日本でも,脳卒中に関する名古屋プロジェクト,九州の周産期に関するプロジェクトのほか,放医研でも,重粒子線治療において患者紹介に関するシステムを構築しようとしています。地域連携の重要性は非常に高いと思いますし,厚生労働省なども,これからますます力を入れてくると思います。
地域連携を実現するためにはさまざまな方法がありますが,その中でもIHEが提唱しているXDSは,最も経費を抑えられ,実現の可能性が高い方法だと考えています。ただ,セキュリティについてはXDSの対象外で,定義されていないので,機能を補うことが必要です。今後,名古屋プロジェクトなどが動き始めれば,それらをお手本にして,セキュリティについても議論が進むと思われますので,より安全性の高いシステムが構築できるようになるのではないかと期待しています。

ページトップへ

 

●IHEの課題はなんでしょうか?

Q(佐々木):
IHEのメリットはわかりましたが,逆に何か問題点はありますか。

A(安藤):
まず,テクニカルフレームワークというドキュメント類が英語だということが挙げられます。われわれが何気なく使っているSWF,PIRといった用語も,IHEに詳しくない人には理解しづらい言葉です。また,もともとが米国から始まった概念ですので,日本の医療制度や保険制度と合わない部分もあります。これらは非常に大きな問題ですが,IHEを日本に最適化していくための取り組みをIHE-J委員会では行っています。今年4月からは有限責任中間法人化して“日本IHE協会”になりますので,日本の状況を国際的にもっとアピールし,さらに飛躍していきたいと考えています。

ページトップへ

・IHE-J(用語集もあります) http://ihe-j.org/
・北米IHE http://www.ihe.net/
・IHE-Europe http://www.ihe-europe.org/
*IHE-J協賛団体:
日本医学放射線学会(JRS),日本放射線技術学会(JSRT),日本医療情報学会(JAMI),医療情報システム開発センター(MEDIS-DC),保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS),日本画像医療システム工業会(JIRA),経済産業省,厚生労働省