東芝メディカルシステムズ(株)は2012年9月15日(土),ウェスティンホテル大阪において「Global Standard CT Symposium 2012」を開催した。本シンポジウムは,2011年10月の東京での開催に続いて2回目となる。
はじめに,代表取締役社長の綱川 智氏が挨拶に立った。綱川氏は,同社の「CT撮影は低被ばくであるべき」との思いから,逐次近似法を応用した低線量撮影技術“AIDR 3D”を,7月に発売された新製品Aquilion LB/New Generationのリリースをもって同社の4列から320列のすべての装置に標準システムとして搭載を完了し,既存システム145台のうち132台へのインストールが完了したことを報告した。また,Aquilion ONEの累積生産500台達成や,7月1日に160mm幅0.275秒/rotの高速撮影を実現したAquilion ONE/Vision Editionが国内で販売を開始するなど,低被ばく撮影が可能な装置の開発・普及を進めていると述べた。綱川氏は,AIDR 3DとAquilion ONEを礎にして,日本の医療被ばくを一気に半減させたいと,東芝の思いを強調した。
続いて,CT開発部の杉原直樹氏が技術紹介を行った。まず,Aquilion ONEとAIDR 3Dを概説し,さらに進化したAquilion ONE/Vision Editionを紹介した。Aquilion ONEと比べ,スキャン時間が0.35秒/rotから0.275秒/rotに向上したことにより,心臓撮影の1回転で適応可能な心拍数が75まで期待でき,少ない回数で撮影できることで被ばく低減にもつながると述べた。回転速度が上がったことで装置自体の強化や振動低減を図り,消音機構を搭載している。開口径は780mmと拡大し,最大出力は90kW,データ収集レートが最大2910view/秒と,Aquilion ONEと比べ20%程度向上している。画像再構成性能も向上し,ボリュームスキャンでは32fpsから64fps,ヘリカルスキャンでは35fpsから50fpsへと高速化を実現。豊富なアプリケーションを搭載し,使いやすさを追究した装置であることをアピールした。
1つ目のシンポジウム「Aquilion ONEの各領域における臨床」では,富山憲幸氏(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室)が座長を務め,3名のシンポジストによる講演が行われた。
1題目は,立神史稔氏(広島大学病院放射線診断科)が,「心臓領域におけるAIDR 3D」をテーマに講演した。立神氏は,AIDRとFBP,AIDR 3Dの画像を比較し,AIDR 3Dはストリークアーチファクトの低減効果が高いこと,線量不足の画像のノイズ改善が可能なこと,被ばく線量を下げて同等の画像が得られることを述べた。さらに,冠動脈狭窄モデルを用いて視覚評価によるAIDR 3Dの検討を行い,十分な画像評価を行うためにはSD25程度の画質が必要であること,SD35程度の画像に対しては,AIDR 3Dを比較的強くかけることで評価可能な画質改善が見込めるとした。そして,線量が十分な場合は,AIDR 3Dを使用しても視覚評価に大きな改善は見られず,線量が低すぎるとノイズ低減は認められても視覚的な改善は期待できないという結果を述べた。そして,低線量撮影に関しては,画質や病変の検出能を十分に検討することが必要であると強調した上で,個々の体格や検査目的に合わせて,効果的にAIDR 3Dを活用する必要があるとした。
続いて,本多 修氏(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室)が,「胸部領域における臨床」をテーマに講演した。本多氏ははじめに,Aquilion ONEの特徴であるvolume scanについて,モーションアーチファクトが少なく撮影できることから新生児が良い適応であると述べ,小児の胸部CTでは,ヘリカルスキャンと比較して,18〜40%の線量低減と,5〜24倍速い撮影が可能との研究を紹介した。さらに,volume scanを繰り返すwide volume scanは,3回で大人の胸部撮影が可能であり,ヘリカルスキャンよりも画質が若干良いこと,また,心電図同期を用いることで被ばくを増加させることなく,拍動の影響が少ない画像を作成可能であると述べた。また,wide volume scanのMPRにおける画質の検討では,アーチファクトを低減する画像再構成手法“ConeXact”とその改良版“VolumeXact+”,ヘリカルスキャンを比較し,VolumeXact+では,位置ズレや濃度ムラがなく,画質はヘリカルスキャンと同等以上であることを報告した。そして,症例画像を提示し,AIDR 3Dは低線量での画質が著しく改善することから,従来のFBPの画質を求めるのであれば,線量を50%低減できる可能性を示唆した。さらに,4D-CTについても触れ,肺がんの胸壁浸潤評価や胸膜癒着診断において,AIDR 3Dを用いることで,非常に低線量でも有用な画像を得られることを示した。
次に,小林達伺氏(国立がん研究センター東病院放射線診断科)が,「腹部領域」をテーマに講演した。同院では,がん画像診断におけるAquilion ONEの有用性を検証しており,小林氏は,肝CT perfusionの検討結果を報告した。Aquilion ONEに搭載された非剛体位置合わせソフトウエア“Body Registration”により,perfusion解析用の撮影に息止めが不要となったことを紹介。また,AIDR 3Dについては,perfusion解析には影響しないものの,元画像である造影CT画像にAIDR 3Dを用いて画質を向上させ,小病変の描出を明瞭にすることで,perfusionとの比較検討を容易にする利点があるとした。小林氏は最後に,perfusion研究はまだ始まったばかりであり,共通撮影プロトコールでの症例を蓄積することができれば,臨床的有用性を明らかにしていくことができるだろうと展望を語った。
2つ目のシンポジウム「Aquilion ONE/Vision Editionの各領域における臨床」では,似鳥俊明氏(杏林大学医学部放射線医学教室)を座長に,3名のシンポジストが講演した。
はじめに,佐藤修平氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科放射線医学)が,「小児循環器 Pediatric Cardiology」をテーマに講演した。同院では,先天性心疾患患児の造影CTの件数は年々増加し続けており,2011年6月からの1年間でのべ291例に施行した。佐藤氏は,2012年8月に導入したAquilion ONE/Vision Editionの先天性心疾患における有用性について述べた。従来の造影CTは,被ばく線量が10〜20mSvと多く,また,患児の血液循環状態や末梢ルートの位置,検査目的などによって,撮影の至適タイミングが異なり,造影剤到達前にスキャンしてしまう“空振り”現象が起こるなどの問題があった。Aquilion ONE/Vision Editionの導入により,real prepを用いて至適タイミングに撮影することが可能となったことや,造影剤の吸収値が高いことを利用し,造影剤量を低減するトライアルを行っていることを報告。128列から320列のAquilion ONE/Vision Editionにすることで,造影剤量は30〜40%の減量,被ばく線量は1/10程度に低減することが見込めるという。また,小児撮影においては,寝台がほとんど動かず,安全に撮影できることも有用であると述べた。
次に,真鍋徳子氏(北海道大学病院放射線診断科)が,「Aquilion ONE/Vision Editionを用いた心筋Perfusion CT」をテーマに講演を行った。MRIでの心筋虚血評価は,厚さ8mm,間隔10mmの3スライスのみの撮像で,心筋全体のvolume dataではなく,左室心筋全体のダイナミック撮像が不可能であるといった限界があった。同院ではこれらを克服するため,Aquilion ONE/Vision Editionを用いて,wide dynamic volume scanを心臓へ応用し,CTで虚血を見る研究に取り組んでいる。心筋perfusion CTは,冠動脈形態と機能の同時評価,位置ズレがない画像を得られるなどのメリットがあるが,64列MDCTなど従来使われてきた装置では,被ばく量やモーションアーチファクト,ビームハードニングなどの課題があった。そこで真鍋氏は,ADCTでは,目的心位相のみを1回転で撮影でき,被ばく線量が従来の1/4程度に低減できることから,冠動脈インターベンションの代表的な実効線量15mSvをめざして,プロトコールを開発。新たに開発した解析プログラムで,心筋血流の定量評価のゴールドスタンダードである水PETとのvalidationができ,心筋perfusion CTを用いた心筋血流定量評価の可能性が期待できることを報告した。
続いて,吉岡邦浩氏(岩手医科大学医学部放射線医学講座)が,「循環器(冠動脈)」をテーマに講演した。同大循環器医療センターでは,2008年にAquilion ONE,2012年7月にAquilion ONE/Vision Editionを導入し,循環器領域における先進的な研究を行っている。吉岡氏は,Aquilion ONE/Vision Editionの初期経験を,75bpmまで適用可能な1心拍撮影と,小焦点撮影が350mAまで可能となった点に注目して,症例を提示しながら,その有用性について述べた。心拍数については,85bpmの症例を報告し,paddingを35〜80%に広げて撮影し,収縮期46%で再構成したところ,観察可能な画像を得ることができた。paddingは広げているものの1心拍で撮影可能であるため,被ばく線量は1.86mSvに抑えることができている。被ばく線量をONEと比較すると,65bpm以上においてVision Editionの方が大きく低減することが可能となっていると述べた。また,3mmのステントを撮影した症例においては,340mAの小焦点,1.38mSvの被ばく線量で観察可能な画像を得ることができている。また,サブトラクションCoronary CT(W.I.P.)についても紹介し,3mSv以下でのサブトラクション撮影が可能となることを報告した。
最後に,杉村和朗氏(神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野)を座長に,片田和広氏(藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室)が「面検出器CTーCT進化の必然」をテーマに講演を行った。片田氏はまず,ヘリカルCTから面検出器CTへのパラダイムシフトにより,いったん,X線強度の不均等分布や散乱線の増加,動態機能検査による被ばく増大といったネガティブファクタが発生したものの,Aquilion ONEは絶え間ない改良によりそれらを克服してきたと紹介し,Aquilion ONE/Vision Editionが第2世代の面検出器として,臨床的に高い有用性を提供するであろうと期待を述べた。そして,各領域での有用性を概説し,なかでも動脈瘤の低線量での拍動評価,嚥下運動の評価における有用性について解説した。終わりに,面検出器CTがCTの進化の姿として正しいものであり,今後より普及していくだろうと述べた。 |