東芝メディカルシステムズ(株)は,「Global Standard CT Symposium 2011-Aquilion ONE & AIDR 3D」を10月8日(土),丸ビルホール(東京都千代田区)で開催した。
最初に,同社代表取締役社長の綱川 智氏が「Aquilionシリーズ7000台達成に対する感謝と低線量撮影への思い」についてコメントした。Aquilionシリーズは,1998年に0.5mmのシングルCTとして発売され,99年に0.5mm4列のマルチスライスCT,2007年に320列のエリアディテクタCT(ADCT)の発売と多列化CTの最前線を走ってきた。綱川氏は,ADCTであるAquilion ONEは次世代のCTのスタンダードになると確信していると述べ,さまざまな施設が導入できるように製品のラインナップを広げているとした。また,逐次近似法を応用した低線量撮影技術であるAIDR 3D(エイダースリーディー)をAquilionシリーズに搭載していくことを発表し,AIDR 3Dを世界に負けない技術として開発を続けていくこと,同時に日々の臨床に使える技術として広く普及することをめざし,今後発売されるAquilionシリーズに標準機能として搭載すると述べた。
シンポジウムは,最初に技術紹介として同社CT開発部の杉原直樹氏による「Aquilion ONEとAIDR 3Dの技術」でスタートした。杉原氏は,Aquilion ONEについて1回転で1臓器のボリュームスキャンを行うことをめざして開発されたCTであり,ひとつの理想に向かって多くの技術的な課題をクリアして実現した装置であると述べた。さらに,新しい画像再構成法であるAIDR 3Dの基本となる逐次近似(IR)法の原理を解説し,AIDR 3DはIR法のエッセンスである,スキャナモデル,統計学的ノイズモデル,アナトミカルモデルを用いてノイズ低減と画質向上を実現した技術であると解説した。
続いて,臨床講演として2題が行われた。最初に,吉川秀司氏(大阪医科大学附属病院放射線部)が,「AIDR 3Dが低線量画像をここまで変える」と題して講演した。吉川氏は,大阪医科大学附属病院で8月から導入したAIDR 3Dの初期経験を基に,実際の撮影における低線量化と画質の評価を概説した。AIDR 3Dでは,(1) 線量不足の画像のノイズを下げる,(2) 被ばく線量を変えずに画質を向上する,(3) 画質は同等で被ばく線量を低減することが期待されるが,吉川氏はAIDR 3Dを適用した画像についてCT値,MTF,SD値,CNR,NPSなどさまざまなパラメータで評価を行った結果を示し,特に高コントラスト画像では75%,低コントラスト領域では50%程度の線量低減が可能になると述べた。臨床での使用では,AIDR 3Dはスキャン連動であり,エキスパートプランにあらかじめ組み込んで適用することも,検査後に生データ処理による再構成も可能で使い勝手が良いことを挙げ,再構成についてもFBP法とほぼ変わらない時間で終了し,日常の診療に組み込むことができると評価した。吉川氏は,分解能を上げるためには,AIDR 3Dだけでなく再構成関数も工夫して総合的に画像を作っていくことも重要だとした。
臨床講演2は,森谷浩史氏(大原綜合病院附属大原医療センター放射線科)による,「胸部領域におけるエリアディテクタCTとAIDR 3D導入のインパクト」。森谷氏は,Aquilion ONEによる胸部撮影にはz軸方向にずらして2回撮影し広範囲のデータを得る“ワイドボリュームスキャン”と,同じ位置で繰り返し撮影することで動態を観察する“ダイナミックボリュームスキャン”の,2つの方法があることを紹介し,ボリュームスキャンによる反復撮影はAquilion ONEの優位性が発揮される部分だが,被ばく線量が問題で,その最適化と従来法と比べた検証が必要で胸部領域での多施設共同研究を行っていることを紹介した。さらに,原発事故に伴い受診者の被ばくに対する意識が高まっており,AIDR 3Dには胸部のダイナミックボリューム撮影時の画質改善だけでなく,一般臨床撮影時の被ばく低減が期待されていると述べた。同センターでは,9月よりAIDR 3Dが導入されているが,パイロットスタディとして胸部の二次精検でAIDR 3Dを使って撮影し,その許容性を検討している。これまでの78症例の検討では,20〜30mAs以上であれば画質は許容できる印象だとした。森谷氏は,AIDR 3DはAquilion ONEの優位性を活用するための基盤技術であると同時に,現在の放射線被ばくに対する漠然とした不安へのひとつの光明となることを期待すると総括した。
最後に,特別講演として片田和広氏(藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室)が,「Aquilion ONE—なぜ面検出器CTなのか?」を行った。片田氏は,改めてAquilion ONEの開発の経緯を振り返り,ひとつの臓器を1回で撮影する,動態を得るためには面検出器であることが必要であり,それまでの技術の延長ではない大きな進化を遂げた製品となったと述べた。テレビがSDからHDに徐々に高画質化したように,Aquilion ONEは最初から完璧な状態のスタートではなかったが,2007年の発売から現在まで常に新しい技術,開発の成果が投入されており,特に画質や被ばく線量低減において大きな進歩を遂げていることを臨床画像を含めて紹介した。さらに,片田氏は,動態撮影で一番問題になるのが被ばく線量であり,モデルベースドの逐次近似法であるAIDR 3Dは,Aquilion ONEのための技術といっていいだろうと述べた。初期のCTの画像再構成法は逐次近似法であり,それがFBPになり大きく画質が向上した。FBP法は,コンピュータの処理能力不足を補う再構成法だったが,画像を作るフィルタの設定にルールがないことが問題だった。IR法では,その課題を散乱線や統計学的なノイズモデルなどのモデルを導入して,逐次近似計算をより正確なものにすることで解決する。現状では,各社とも画質と演算量の妥協点を探している状況だが,CTの“C”のコンピュータの発展とともにさまざまな開発が進められていくことを期待していると語った。 |