地域医療福祉情報連携協議会は,2012年6月27日(水),第4回シンポジウム「医療介護同時改定が地域医療にどのような影響を与えるか〜災害復興における医療ITと地域医療福祉情報連携の新たな方向性」を,東京医科歯科大学M&Dタワー(東京都文京区)で開催した。同協議会は,地域医療連携の全国的な推進を目標として2011年1月に設立されたが,直後の東日本大震災の発災を受けて,重点を“被災地の復興後の医療IT体制構築”の支援に移して活動してきた。今回のシンポジウムでは,災害復興に加えて,今回の医療・介護の同時改定が与える地域医療への影響や医療ITの方向性について,行政や医療現場の最前線からの報告を行った。
午前中に行われた第1部,第2部では,協議会会長の東京医科歯科大学教授の田中博氏による「活動報告」のほか,総務省,厚生労働省からの「今後の医療政策の展開」についての講演が行われた。
午後のプログラムは,第3部の特別講演でスタートし,「HITECH法実施後の米国:オバマ政権下で急速に普及した電子カルテ」と題して,医療コンサルタントのグレッグ・L・メイヤー氏が講演した。メイヤー氏は,2009年にアメリカで施行されたHITECH法(Health Information Technology for Economic and Clinical Health Act:経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律)と,2010年にオバマ政権下での医療保険改革法である患者保護および医療費負担適正化法(The Patient Protection and Affordable Care Act law:通称オバマケア)の概要と課題について解説し,医療ITシステムに与える影響について述べた。
第4部は,「医療介護同時改定が地域医療にどのような影響を与えるか(地域包括ケアの先進事例)」。最初に,祐ホームクリニック理事長の武藤真祐氏が「在宅医療・介護ネットワークの構築 〜シームレスな情報連携」を講演した。武藤氏は,2010年1月に東京都文京区で,震災後の2011年9月に石巻市で在宅医療専門の診療所を開設した。多くのスタッフ(医師30名を含めて約60名)と,病院と異なり地域に点在する患者の情報共有と診療支援のため,クラウド型の在宅医療支援システムを富士通と開発し,スマートフォンやタブレット端末,カーナビなどと連携して在宅特有の課題や運用をサポートしている。武藤氏は,急激な高齢化と独居や孤立などが進む被災地域の状況は,都市部の高齢化の近未来像だとして,医療や介護だけでなく生活まで支援する新しい地域コミュニティモデルが必要であり,そのための情報連携システムの構築が必要だと述べた。
続いて,董仙会理事長・恵寿総合病院院長の神野正博氏が登壇し,「医療介護同時改定が地域医療に与える影響〜けいじゅヘルスケアシステムの取組み」を講演した。神野氏は,医療介護をめぐるキーワードとして,“人口減と少子高齢化”,“医療崩壊と地域崩壊”,“社会保障費削減”の3つを挙げ,2012年の医療と介護の同時改定のポイントと、それに対応する医療機関側の戦略、戦術を解説した。神野氏は,同時改定のねらいは“病院の役割機能分化と在宅重視”であるとして,これを実現するには医療だけでなく,介護,福祉情報を共有する仕組みが必要だとした。その上で,董仙会グループで構築している「けいじゅヘルスケアシステム」や,実証事業として取り組んでいる「どこでもMY病院」のプロジェクトの内容を紹介した。
第4部の最後は,名古屋大学医学部附属病院准教授の水野正明氏による「愛知県で進めている地域包括ケアシステム:いきいき笑顔ネットワーク」。水野氏は,高齢者が自立し,自ら健康づくりに励むことができる環境が重要だとして,高齢者の支援では,自己決定権の尊重,生活の継続性,自己能力の活用に配慮しながら,高齢者と支援者の双方が情報共有ができるネットワークの構築が必要になると述べた。そういった環境が整った上で地域包括ケアシステムが動くことで初めて効果が出るとして,現在,愛知県豊明市を中心に,東名古屋医師会,愛知県医師会などが連携して運用されている「いきいき笑顔ネットワーク」について紹介した。
第5部は,「災害復興における医療ITの宮城モデル」。最初に東北大学医学系研究科神経外科学分野教授の冨永悌二氏が「宮城県における医療福祉情報連携システムの構築について」を講演した。冨永氏は,東日本大震災によって病院のBCP(業務継続)が改めて問われることになったが,日本では災害拠点病院の要件定義(耐震耐火構造,資器材の備蓄,病院機能を喪失しない自己完結性など)はあるが,それ以外の大学病院などでもBCPを策定することが早急に求められるが,国レベルで病院のBCPガイドラインがなく今後の対応になると述べた。さらに,震災復興のプロジェクトとして立ち上がった「東北メディカル・メガバンク構想」の事業概要と,「みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会(MMWIN)」とのデータ連携の考え方などを概説した。
続いて,その「みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会(MMWIN)」の設立と総務省東北地域医療情報連携基盤構築事業について、広南病院副院長の清水宏明氏が講演した。宮城県では,震災前から地域医療再生計画の一環として東北大学などを中心に仙台,気仙沼,石巻などの二次医療圏で医療連携ネットワークを構築する計画が進められていた。発災を受けて,被災地域を中心に災害に強い医療連携基盤構築のために協議会を設立して,行政と現場が連携した組織作りを進めてきた経緯を紹介した。
第6部は,「地域医療福祉連携の将来の発展に向けて」として2題の講演が行われた。最初に札幌医科大学大学院医学研究科生体情報形態学教授の辰巳治之氏が「医療クラウドによる戦略的防衛医療構想」と題して,クラウドコンピューティングやIPv6などを利用して,災害に強い新しいネットワークを構築することを提案した。続いて,島根県立中央病院外科診療部長兼情報システム管理室室長の小阪真二氏が,「島根県医療情報ネットワークの挑戦 ─医療ネットしまねから全県ネットワークへ」を講演し,2002年から出雲医療圏で構築されていた“医療ネットしまね”を島根県全県のネットワークとして発展させた経緯と今後の課題を概説した。
また,講演会場前のロビーでは展示会も行われた。展示したのは,デル,日本電気,NTT東日本,インターシステムズジャパン,久保田情報技研,オリンパスビジネスクリエイツ,富士通,メディオ・テック,シード・プランニングの各社。 |