地域医療福祉情報連携協議会は,2012年2月4日(土),第3回シンポジウム「福島における地域医療再生と情報連携〜放射線と健康リスクをいかに考えるか?」を,東京医科歯科大学M&Dタワー(東京都文京区)で開催した。地域の医療・福祉・健康分野の情報連携を行うための意見交換の場として発足した同協議会では,震災直後から厚生労働省,総務省などと協力して被災地の復興後の医療IT提供体制のあり方などについて検討してきた。今回のシンポジウムでは,津波だけでなく原発事故によって大きな被害を受けた福島県の復興と再生について,震災から11か月を迎える現在の状況と放射線と住民の健康リスクの考え方を中心に講演とディスカッションが行われた。総合司会を務めた名古屋大学の水野正明氏は,「福島に対してわれわれ医療関係者が,何ができるのか,何をしなければならないのかを改めて考える時だ。このシンポジウムが今後の方向性を示し,実行への具体的な道筋が見えることを期待する」と述べた。
※2月14日掲載分まで「福島の医療関係者が何ができるのか,何をしなければならないのかを改めて考える時だ。このシンポジウムが今後の方向性を示し,実行への具体的な道筋が見えることを期待する」とありましたが誤りでした。改めて訂正するとともに,関係者にお詫び申し上げます。
最初に,「地域医療再生と情報連携−福島県の災害復興を支援して」について,同協議会会長の田中博氏が講演した。田中氏は,未曾有の災害に対して医療ITと地域連携の視点からいち早く支援を行ってきたとして,7月に行われた第2回シンポジウム(震災復興に地域医療ITは何ができるか?)や,厚労省,総務省をはじめ宮城・福島両県庁,みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会や福島医科大学と協力して復興のための支援を行ってきたことを紹介した。
今回,『もう失くしたくない!私のカルテ』をキーワードに,災害に強い医療IT提供体制の構築のための指針を発表したことを紹介し,福島県では福島原発事故による被ばくの長期的影響の追跡のために全県民を対象とした健康管理調査が始まっており,これらの取り組みは生涯にわたる健康医療情報の蓄積を行うEHR/PHRの先駆けになる可能性があると医療ITの果たす役割について説明した。また,同時に相双地域,いわき地域における“4原則”に基づいた,高齢化,過疎,医師不足という地域の課題を解決する医療IT体制の構築が必要だと述べた。
続いて,福島医科大学救急医療学講座被ばく医療班の長谷川有史氏が「原発事故と放射線医療の最前線において」を講演した。震災発生当初は情報が錯綜し現場が混乱したと長谷川氏は述べ,受け入れ体制や準備もないまま被ばく医療に取り組むことになった苦労を紹介した。その上で,今回の緊急時の対応に不足していたのは,“communication”と“education”だったとして,長谷川氏は被ばく医療班で,緊急被ばく医療の再構築を行い,消防署員などの公務危機介入者に対する放射線影響管理を含むフォローアップ,そして福島に暮らす住民とのリスクコミュニケーションを責務ととらえて取り組んでいると語った。
「生物学・防護学(基礎)」を講演した京都大学名誉教授の丹羽太貫氏は,放射線がもたらすさまざまな影響のうち,生物学的影響と健康リスクをもとにした防護の考え方について概説した。
最後に登壇した福島県立医科大学副学長の山下俊一氏が「低線量放射線健康影響と福島県民健康管理調査事業」について述べた。山下氏は,震災直後から福島県に入って放射線の影響について積極的に情報発信を行い,7月から副学長兼福島県民健康管理調査検討会座長に就任した。福島県では全県民を対象にした“県民健康管理”をスタートしており,外部被ばく線量の把握を目的として事故後の行動記録を主としたアンケート調査を行ったほか,甲状腺検査,健康診査,心のケアなどを中心とする対応が始まっていることを紹介した。
後半のパネルディスカッション「放射線と健康リスクをいかに考えるか?」は,パネリストとして菅野典雄氏(飯舘村村長),下村満子氏(ジャーナリスト),竹之下誠一氏(福島県立医科大学副理事長),田中会長が登壇し,モデレーターをフジテレビの反町理氏が務めた。スタートにあたって,厚生労働省大臣官房審議官の唐澤 剛氏が,「厚生労働省としては,福島県の地域医療提供体制を以前に戻すのではなく,新しいモデルを創設したいと考えている。困難な状況ではあるが,医療情報連携基盤の構築を含めて新しい医療提供体制のビジョンを提供したい」とコメントし,震災から11か月の取り組みと現状,放射線の健康リスクと心のケアの問題,復興に向けた今後の課題などをディスカッションした。 |