2021-1-28
オンライン記者発表会で公開された
デモンストレーションの様子
オリンパス(株)は,国内初の薬機法承認を取得した人工知能(AI)搭載内視鏡画像診断支援ソフトウエア2製品を,2021年2月5日に国内で同時発売する。大腸の浸潤がん診断用AI技術を搭載した「EndoBRAIN-Plus」と,潰瘍性大腸炎の炎症活動性評価用AI技術を搭載した「EndoBRAIN-UC」の2製品で,520倍の接触観察が可能な超拡大内視鏡「Endocyto」と内視鏡システム「EVIS LUCERA ELITE」(いずれもオリンパス社製)と組み合わせて使用し,リアルタイムに医師の診断をサポートする。昭和大学横浜市北部病院と名古屋大学,サイバネットシステム(株)が共同開発を行い,2020年にサイバネットシステムが製造販売承認を取得。同社から,オリンパスが独占販売権を取得した。すでに発売されている,がんなどの大腸病変検出支援ソフトウエア「EndoBRAIN-EYE」と大腸病変判別支援ソフトウエア「EndoBRAIN」と合わせた「EndoBRAINシリーズ」として,大腸内視鏡診断の包括的な支援をめざす。2021年1月27日(水)にはオンライン記者発表会が行われ,新製品の概要や有用性,販売戦略などが紹介された。
今回発売されるEndoBRAIN-UCは,EndoBRAINシリーズでは初の潰瘍性大腸炎を対象としたソフトウエアで,潰瘍性大腸炎の炎症度を超拡大内視鏡画像を基にAIが自動で評価し,リアルタイムで診断支援を行う。潰瘍性大腸炎は国が指定する難病の一つで,年々患者数が増加しているが,発症原因はいまだ解明されていない。記者発表会で登壇した慶應義塾大学医学部内視鏡センター教授・センター長の緒方晴彦氏は,潰瘍性大腸炎の症状や診断基準などについて解説し,診断や治療方針の決定には,内視鏡診断や生検による組織学的診断が重要になると述べた。
緒方氏の解説を受け,昭和大学横浜市北部病院消化器センター助教の前田康晴氏が,潰瘍性大腸炎診断におけるEndoBRAIN-UCの有用性について解説した。潰瘍性大腸炎の組織学的診断で必要な生検は,(1)出血や穿孔などのリスクのほか,(2)病理医の労力やコストがかかる,(3)その場での診断が不可能,などデメリットがある。それに対し,超拡大内視鏡はそれらのデメリットが回避できることに加え,組織学的寛解の診断や再燃予測が可能であるが,一般の消化器内科医への普及は進んでいないのが現状であった。このように指摘した上で,前田氏は,EndoBRAIN-UCは1ボタンでリアルタイムにAIが画像を解析し,炎症活動性評価を数値で表示するため,検査中にストレスなく活用できると述べた。また,炎症粘膜に直接接触・観察する超拡大内視鏡とNBI(狭帯域光観察)の併用により,高精度に診断支援を行うことができるとその有用性を評価した。
続いて,昭和大学横浜市北部病院消化器センター講師の三澤将史氏が,EndoBRAIN-Plusについて解説を行った。EndoBRAIN-Plusは,既存2製品と同じく大腸がんを評価対象とするソフトウエアで,染色後の内視鏡画像をテクスチャ解析により312次元の特徴量に変換してAIにより解析,病変の非腫瘍/腺腫/浸潤がんを判別する。大腸がんの浸潤度は治療方針の検討に重要な要素であることから,三澤氏は,「病変検出を支援するEndoBRAIN-EYEと,病変判別を支援するEndoBRAINと組み合わせることで,腫瘍の検出から診断,治療法の選択まで一気通貫の支援が行える」と期待を述べた。なお,EndoBRAIN-Plusに搭載されたAIの学習には,がん研究会有明病院や東京医科歯科大学など,国内の内視鏡先進施設6施設から収集した約7万枚(従来のEndoBRAINと合わせて約11万枚)の画像が使用されており,三澤氏は,「高精度かつロバスト性が高い画像で学習できた」と評価した。
最後に,昭和大学横浜市北部病院消化器センター長の工藤進英氏が「内視鏡AIの現状と将来展望」と題して講演を行った。工藤氏は,EndoBRAINシリーズの開発の経緯を振り返り,これらの製品群により包括的に大腸内視鏡診断を支援できると期待を示した。
また,オリンパスの内視鏡事業国内マーケティングVice Presidentの小林 功氏が,同社の医療事業の中での新製品の位置づけなどを紹介。既存2製品が一般病院やクリニック(9000施設)をターゲットとするのに対し,今回発売の2製品は,基幹病院(1500施設)を主な販売層として想定。3年で150台を販売し,シリーズ全体で1000施設での導入を目標とすることなどが発表された。
●問い合わせ先
オリンパス(株)
https://www.olympus.co.jp/