2017-11-27
地域包括ケアを支える医療情報システムを
テーマにした大会企画シンポジウム2
第37回医療情報学連合大会の3日目となる2017年11月22日(水)には,午前中に大会企画シンポジウム「(ヒト)地域包括ケアを支える医療情報システムについて」と「(夢)自然言語処理技術の最前線と医療応用の可能性」が行われた。このうち,A会場で開かれた大会企画シンポジウム2の「(ヒト)地域包括ケアを支える医療情報システムについて」では,大会長の武田氏が座長を務め,4名の演者が発表した。日本では,超高齢社会を迎える中で,個々の“ヒト”に関する医療・介護情報を多職種間で共有して,地域包括ケアを提供していくことになる。このシンポジウムでは,ITを活用した地域包括ケアの課題と今後の展望について,意見が交換された。
最初に登壇した東京大学高齢社会総合研究機構の辻 哲夫氏は,「地域包括ケアシステムにおける医療介護連携及び情報連携の展望—柏プロジェクトを通して」をテーマに掲げて発表した。辻氏は,介護保険制度の現状などの施策について解説した上で,千葉県柏市で行われているITを活用した地域包括ケアシステムの事例を説明した。柏プロジェクトでは自治体と柏市医師会が主導して,在宅医療・介護において多職種が情報を共有できるシステムを構築している。辻氏は,ITを用いて多職種が連携する仕組みをつくるには,自治体が事務局となり,医師会などのステークホルダーと話し合うことが重要であると述べるとともに,多職種連携研修会といった職種間でコミュニケーションをとる機会を設けることのメリットにも言及した。
次いで,日本病院会の大道道大氏が,「地域医療構想と地域包括ケアシステム 医療連携と医介連携のありかた」をテーマに掲げて登壇した。大道氏は,大都市部と地方における医療需給の違いを指摘した上で,現状の医療提供体制は,高度急性期が上流で,急性期,回復期,慢性期を経て在宅医療が川下になっているが,この流れを反対にして在宅を上流とする方が本来の医療の姿であると述べた。また,医療機関の病床機能報告についても触れ,高度急性期,急性期などに分けずに,“高額病床”や“標準病床”といった区分けの方が現状を反映していると指摘。その上で,医療提供体制は地域特性を把握する必要があり,全国一律にはならず,また現在の病床の区分けは実際の病院機能と合っていないと述べた。さらに,大道氏は,地域包括ケアの提供には,既存の地域医療連携をどのように生かすかがカギを握っているとまとめた。
この後,3人目の演者として登壇した東北大学の中山雅晴氏は,「地域包括ケアシステムの展望」として,東北大学などが参加する一般社団法人みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会(MMWIN)について説明した。東日本大震災を受けて設立されたMMWINは,臨床データのバックアップのほか,医介連携にも取り組んでおり,病院,診療所,薬局,介護施設間で患者の同意の下で診療情報を共有している。2017年11月現在,宮城県内の病院,診療所,薬局,介護施設の10%が参加しており,脳卒中連携パスや周産期の健診・出産連携などのサブシステムにより,参加施設数を増やしている。中山氏は,これらの概要を説明した上で,今後の展望として,コスト抑制と機能改善を図るためのリプレイスを行い,さらに画像システムの構築や総務省のEHR高度化事業への参加にも言及。地域包括ケアのための医療情報システムとして充実させていくと述べた。
本シンポジウムの最後の演者である滋慶医療科学大学院大学の宇田 淳氏は,「地域包括ケアにおける『包括』と『統合』」をテーマに発表した。宇田氏は,自身がかかわったひろしま医療情報ネットワーク(HMネット)について取り上げた。HMネットでは,利用者(患者)が自身の健康情報を記録・参照可能なポータルサイトである「ひろしま健康手帳」を運営している。患者はHMカードを取得することで,サービスを利用できる。このひろしま健康手帳のデータは,在宅医療や介護にかかわる多職種間で情報共有できるようになっている。今後はひろしま健康手帳の機能やサービスの強化進め,疾患別手帳などの作成も検討しているという。さらに,宇田氏は,将来的にはウエアラブルデバイスや見守りセンサなどを生かして患者の健康情報をPHRとして記録して,蓄積されたデータを,ビッグデータではなく“Deep Data”として,診療や介護のプロセスを評価するという方向性を示した。
4人の演者すべての発表が終わった後,武田氏が進行して総合討論が行われ,地域包括ケアの中で医療情報システムを活用するための方策が話し合われた。
本シンポジウムのように,近年の医療情報学連合大会の中では,いわゆる2025年問題の解決に向け,医療・介護分野でITを活用して効率的なサービスを提供することをテーマとして取り上げるセッションが目立つ。今回も「(ヒト)地域包括ケアを支える医療情報システムについて」の後に,C会場で公募企画シンポジウム11「質の高い在宅医療・介護におけるICT活用の位置づけと課題」が設けられた。長崎大学の松本武浩氏と山形県鶴岡地区医師会の三原一郎氏が座長を務め,まず佐渡総合病院の佐藤賢治氏が「地域医療連携システム『さどひまわりネット』を用いた医療介護統合提供体制の模索」をテーマに発表した。佐藤氏は,医療資源の不足や住民・医療従事者の高齢化といった佐渡島における医療・介護の課題を説明した。そして,訪問診療がままならない中で,通院頻度を減らすことを目標に,訪問看護や介護支援サービス,薬剤師の服薬指導などでさどひまわりネットによる情報連携・共有を図り,医療資源不足を補っていると述べた。
次いで,登壇した三原氏は,「医療と介護を繋ぐ! ヘルスケア・ソーシャル・ネットワーク『Net4U』」と題して発表した。2001年から稼働している地域電子カルテNet4Uは,2012年には医介連携のネットワークへとシステム更新され,その後「ちょうかいネット」などの県内の地域医療連携システムと接続した。現在では,医療・介護従事者の情報共有ツール「Net4U」と連携し,患者や家族も利用できる在宅高齢者見守りツールとなっている。三原氏は,これらのシステムの特徴や運用方法などを解説した。
続いて,ジャパンメディカルアライアンス東埼玉総合病院の中野智紀氏が,「地域包括ケア時代におけるとねっとの活用とこれからの可能性」と題して発表した。埼玉県利根保健医療圏の地域医療連携システムである「とねっと」では,「かかりつけ医カード」を住民に発行している。このカード活用することで,消防署が連携に参加できるようにしたほか,地域住民が自身の健康管理を行える。また,糖尿病の重症化予防などにも利用されている。中野氏はこれらについて紹介した上で,介護従事者とのSNSによる連携,運営費用や持続可能性にも言及した。
4番目に登壇した栃木県医師会の長島公之氏は,「栃木県における医療連携『とちまるネット』と医介連携SNS『どこでも連絡帳』の併用」をテーマに発表した。栃木県医師会では,地域医療連携のシステムとしてとちまるネットを運用する一方,医療・介護従事者の情報連携ツールとしてどこでも連絡帳を導入した。これについて長島氏は,医療と介護では必要とする情報が異なると述べ,両者が必要な情報だけをやりとりできるよう,2つの連携システムを導入したと説明。医介連携では,安全性やコストを考慮して専用のSNSを構築することが最適であると指摘した。
さらに,最後の演者である奥平外科医院・長崎在宅Drネットの奥平定之氏は,「在宅医療におけるあじさいネット利用の価値と課題」と題し,長崎県のあじさいネットについて,訪問診療での活用や多職種連携での利用状況などを報告した。2004年から運用が始まったあじさいネットは現在7万人を超える登録者数を有している。同意を得た患者の情報を医療機関同士が共有しているほか,在宅医療では患者ごとにスタッフを登録して,情報を共有できるようにしている。奥平氏はこの運用方法を解説した。
全員の発表後には,総合討論へと移行し,費用負担などの課題について意見を交換した。
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2日目には,このほか,国際医療情報学連盟(IMIA)の学会長であるクリス・レーマン氏の特別講演「Dreaming of a better Health Care System: Use of Secondary Data」も行われた。レーマン氏はこの講演の中で,医師として医療に取り組む中で,診療の質の向上や課題を解決するために自身が開発したアプリケーション,システムについて紹介した。
(その2) でも既報のとおり,今回の医療情報学連合大会では,AI関連のセッションも複数設けられたほか,本格的な普及を迎えようとしている遠隔診療をテーマにしたシンポジウムなども行われた。わが国の医療・介護が抱える課題の解決に向け,医療・介護従事者,研究者,技術者の最新の研究,事例が共有され,現場で生かされることが期待される。
なお,最終日11月23日(木)には閉会式が行われ,大会の参加者が目標の3000人を上回る3104人を記録したことが発表された。閉会式では,第22回日本医療情報学会春季学術大会 シンポジウム 2018 in 新潟の大会長である新潟大学医歯学総合病院の赤澤宏平氏,第38回医療情報学連合大会の大会長を務める鹿児島大学の宇都由美子氏も出席。春季学術大会は2018年6月21日(木)〜23日(土)に,朱鷺メッセ(新潟市)で開催。医療情報学連合大会は2018年11月22日(木)〜25日(日)に,福岡国際会議場と福岡サンパレスで開催されることがアナウンスされた。
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JCMI37事務局
大阪大学大学院医学系研究科情報統合学講座(医療情報学)
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