2017-11-24
大会長:武田 裕 氏
(滋慶医療科学大学院大学)
第37回医療情報学連合大会の2日目の2017年11月21日(火)には,開会式に続いてA会場で大会長講演が行われ,浜松医科大学の木村通男氏を座長として武田氏が学会テーマである「医療情報学が紡ぐ『いのち、ヒト、夢』」をタイトルに講演した。武田氏は,医療情報学会の活動方針の中にも挙げられているバイオメディカル・インフォマティクス(Biomedical and Health Informatics)への取り組みについて,Biomedicalは“いのち”,Health informaticsは“ヒト”にあたるとしていのちからヒト,そして“夢”へと医療情報学が果たす役割を概説した。武田氏は,“いのち”における医療情報学のミッションは,生命現象と疾病発症の本態を解明することだが,そのためにはモノ(gene)の情報だけでなく,コト(生きるという現象そのもの,informatics)を同時に連携して解明することが重要だと述べた。いのちを保つ(ホメオスタシス=生体恒常性)ために必要な概念としてサイバネティックスとフィードバック理論を示し,センサ,プロセッサ,エフェクタを総動員して出力を基に入力に反映させるシステムのメカニズムが重要で,この最適制御のためにこそinformaticsが必要とされるとした。武田氏は,このサイバネティックスのフィードバック理論は,“ヒト”の疾病を治すヘルスケアシステム,サービス産業としての病院の構成,さらに医療と介護を結ぶ地域包括ケアシステムにおいても重要な考え方であり,情報を感知し,伝達,変換してコントロールすることを科学することが医療情報学の役割だとまとめた。
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学会長講演では,武田氏を座長として大江氏が「あるべき診療記録ができる電子カルテシステム再考—新たなる挑戦の必要性」を講演した。大江氏は,医療情報学会の活動を紹介したあと,現在の電子カルテシステムの普及状況を示した。電子カルテデータの2次利用の取り組みとして,国立研究開発法人国立国際医療研究センターと日本糖尿病学会のJ-DREAMS(Japan Diabetes compREhensive database project based on an Advanced electronic Medical record System)や,独立行政法人医薬品医療機器総合機構のMID-NET(Medical Information Database Network)などを紹介し,電子カルテの普及のみならずデータの利用が可能な環境が整備されつつあるのは大きな進歩で隔世の感があると述べた。しかし一方で,大江氏は電子カルテシステムのデータはそのまま2次利用してよいのかと疑問を呈し,2次利用系にデータを出す“データ処理パイプライン”は元データを正確に反映しているか,あるいはそれをどうやって検証するのか,またそもそも電子カルテに記述されたデータはどの程度正確なのかを今一度考え,検証するべきだと述べた。MID-NETのデータでは,元の病院情報システムと抽出された統合データソースでは,例えば処方データは67%しか反映されていないなどの齟齬があり,原因を探りデータを修正するなどデータベースの構築にもクォリティマネジメントが必要だとした。また,カルテの記述内容の正確性はアメリカでも問題となっており,“e-Phenotyping”と呼ばれるアルゴリズムで病名などを特定してデータを抽出する手法が開発されていることを紹介し,電子カルテデータの精度自体を向上する方法を考えていくことも必要だと述べた。大江氏は,医療分野のAI利用でもきれいに構造化されたデータが必要とされており,今後ますますデータの重要性が高まることが考えられ,学会としても“データ駆動型アプローチによる医学医療の再構築”に取り組んでいくとまとめた。
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21日のE会場では学会企画シンポジウム「医療AIに向けた医療画像データベース基盤構築の新しい動向」が,大江氏と木村氏を座長として行われた。2016年度の日本医療研究開発機構(AMED)の「ICT技術や人工知能(AI)等による利活用を見据えた、診療画像等データベース基盤構築に関する研究」に採択された日本消化器内視鏡学会,日本病理学会,日本医学放射線学会の医療画像データベース基盤構築の概要と,3事業の共通インフラ構築を行う国立情報学研究所(NII)から報告があった。
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最初に京都第二赤十字病院の田中聖人氏が,「全国消化器内視鏡診療データベースと内視鏡画像融合による新たな統合型データベース構築」を講演した。日本消化器内視鏡学会では,2015年から多施設内視鏡データベース構築プロジェクトである“Japan Endoscopy Database Project(JED)”に取り組んできた。JEDでは,消化器内視鏡検査にかかわる施行日や患者基本情報,検査種別と行った情報を二重入力などの手間なく収集できる仕組みを構築し,9施設68万件のデータ(テキストデータ)が収集されている。今回のAMEDでの事業では,このJEDのデータベースを拡張しテキストデータと連結した形での画像データベースを構築し,胃がんの病変の検出と胃の部位,臓器の自動認識をAIで行うことをめざしている。構築に当たっては,先行4施設から病理診断のついた胃がんの画像1万4000枚の提供を受け,病変部をマーキングして取り込む作業を行っている。また,正常粘膜画像80万枚について部位や臓器ごとに画像のグルーピング,タギングを行って自動認識のためのデータ構築を進めている。田中氏は,構造化されたテキストデータと画像を連結することで,良質なデータベースの構築が可能になり,今後のさまざまな内視鏡画像データベースの基盤となるシステムを構築したいと述べた。
続いて,「AI等の利活用を見据えた病理組織デジタル画像(WSI)の収集基盤整備と病理支援システム開発-Japan Pathology AI Diagnostics Project(JP-AID)」と題して,東京大学医学部附属病院の佐々木毅氏が講演した。佐々木氏は,JP-AIDはNIIの人工知能開発の事業として始まったものだが,その背景には病理専門医の慢性的な人材不足があると述べた。今回のデータベース事業では,病理組織デジタル画像(Pathology-Whole Sliding Imaging:P-WSI)を収集する基盤を整備してAIによる病理(自動)診断支援システムの開発や,病理医不足の解消や1人病理医,女性病理医支援のための病理診断支援ツールを開発することをめざす。P-WSIは,バーチャルスライドスキャナで取り込まれたデジタルデータで,z軸に深度を変えて取り込むことで拡大や縮小にも対応する。スキャナは2017年9月から薬事承認の対象となっている。JP-AIDのプラットフォーム構築では,大学病院16施設,市中病院7施設などから10万件を超えるP-WSIデータを収集し,病理学会/NCD(National Clinical Database)のサーバにアーカイブ,匿名加工処理後,NII側に提供し画像管理DBの構築やAI開発を行う。ガラスの病理標本は経年によって色あせることもありデジタル化が望まれるが,一方でP-WSIはデータ容量が大きい(500MB〜1.2GB)ことから個々の施設での管理にも限界があり,アーカイブの方法も含めて検討していきたいと佐々木氏は述べた。
3番目の演題として国立国際医療センター国府台病院の待鳥詔洋氏が「画像診断ナショナルデータベース(Japan Medical Imaging database:J-MID)について」を講演した。待鳥氏はまず画像診断を取り巻く環境について言及し,海外諸国に比べて飛び抜けて多いCT,MRIの導入台数に比べ,画像診断専門医が少ない状況を説明。さらに,日本学術会議から2017年8月に「CT検査による医療被ばくの低減に関する提言」が出されるなど,さらなる医療安全や医療技術の向上が求められている現状を解説した。日本医学放射線学会では,“ICT化を推進し,ビッグデータやAI等を利活用した医療の構造改革”が必要だとして,「Japan Safe Radiology」をスタートした。その中で画像診断の装置からオーダ,撮影,診断の各領域の安全性や効率性を一気にトータルで向上させるシステムのベースとなるのがJ-MIDである。J-MIDでは,連携施設のPACS・レポートサーバから全CT検査のデータを自動的にGWサーバに出力,匿名化処理を行ってJ-MIDセンターのサーバ(VNA)に登録する。このサーバと連携してCDS(Clinical Decision Support)やDIR(被ばく管理),J-QIBA(画像の標準化)などのシステムを構築する。AIについてはNIIのシステムにデータを送信し,頭蓋内出血,活動性肺結核について解析を行う予定であることを紹介した。
最後に,これらの3事業を支えるインフラを提供するNIIの合田憲人氏が「医療画像ビッグデータクラウド基盤」について講演した。NIIは研究と事業を車の両輪として運営されており“情報学による未来価値を創成”することを理念とする。事業としては大学や研究機関が必要とする情報基盤を構築しサービスとして提供している。学術情報基盤として提供されているサービスには,クラウド活用支援,コンテンツ流通,セキュリティ強化などがあるが,その中で柱となっているのが今回の事業で画像データの通信基盤として提供されている学術情報ネットワーク(SINET)である。SINETはすべての都道府県を超高速の100Gbps回線で網羅し,堅牢かつ高いセキュリティを担保したクラウドセンターとの接続を可能にして各事業の医療画像データベースの構築を支援している。合田氏は,NIIでは,2017年11月に医療ビッグデータ研究センターを設置し研究推進体制を強化したことなどを紹介した。
最後にディスカッションと会場からの質疑応答があり,医療分野でのAI活用の現状と,実際の臨床応用への懸念など率直な意見が交わされた。
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大阪大学大学院医学系研究科情報統合学講座(医療情報学)
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