FEATURE
1.5T MRI「ECHELON Smart」による精度の高い検査で診療の質が大きく向上
メディカルモールでの共同利用で地域に“総合医療”を提供
まえだ脳神経外科・眼科クリニック
オープンMRIからECHELON Smartへ─更新ドキュメント Vol.2
2018-9-25
2017年10月に稼働開始したECHELON Smart
前田健二院長(左)と谷水久夫技師(右)
佐賀県小城市のまえだ脳神経外科・眼科クリニックは2017年10月,永久磁石型0.4TオープンMRI「APERTO Inspire」を1.5T超電導MRI「ECHELON Smart」に更新した。前号(『磁遊空間』Vol.35/2017年8月発行) では,更新に当たってECHELON Smartへの期待について,前田健二院長,谷水久夫技師にインタビューした。更新からもうすぐ1年となる同クリニックを再訪し, ECHELON Smartの臨床使用の実際について取材した。
検査スループットが向上し共同利用で地域に貢献
2008年に「メディカルモールおぎ」(佐賀県小城市)に開業したまえだ脳神経外科・眼科クリニックは,永久磁石型0.4TオープンMRI「APERTO Inspire」を導入し,脳神経領域を中心に活用してきた。2015年にAPERTO Inspireをアップグレードし,画質や撮像スピードが向上。翌年には,さらに高度なMRI検査をめざして高磁場MRI導入に向けた検討が始まった。そして採用されたのが,限られたスペースにも導入が可能な1.5T超電導MRI「ECHELON Smart」だ。
MRI検査休止期間を経て,ECHELON Smart は2017年10月1日に稼働を開始した。休止期間中はCT検査や近隣病院への紹介で対応していたが,前田院長は,「歩いて来院するような軽症の急性期脳梗塞はCTではわかりにくいため,検査休止期間はMRIの必要性を改めて痛感しました。装置更新では,APERTO Inspireが入っていた検査室を増改築することなくECHELON Smartを設置でき,非常に満足しています」と話す。
ECHELON Smartへの更新により,検査スループットは大きく向上し,検査の幅も広がった。以前は,1件あたり約40分だった検査時間が15〜30分に短縮。これにより,1日に10件程度の検査をコンスタントに実施できるようになり,月間の検査件数は160〜200件に増加した。検査の80%以上が頭頸部領域であるが,メディカルモールで共同利用を行っていることもあり,整形領域の脊椎や関節,消化器領域のMRCPや肝臓など,検査の対象領域や内容が広がっている。
メディカルモールでの共同利用では,当日検査にも柔軟に対応している。患者は同クリニックを訪れて検査を受け,ディスクに記録した検査画像をモール内の主治医のもとに持ち帰り,そのまま診察を受けられる。検査費用も主治医の施設でまとめて会計されるため,利便性が高く好評だ。モールには2018年6月に整形外科クリニックも開業し,脳神経外科,眼科,小児科・アレルギー科,消化器内科・外科,耳鼻咽喉科,皮膚科,調剤薬局がそろった。その中で,同クリニックのMRIとCTを共同利用することで,メディカルモール全体が総合病院のような診療環境を提供することが可能になっている。
空間分解能の向上により期待以上に診療がレベルアップ
更新に当たり前田院長は,臨床上のニーズからECHELON Smartにさまざまな期待を寄せていた。実際に臨床で使用するようになったいま,ECHELON Smartの有用性を次のように評価する。
「MRAは非常に明瞭な画像を広範囲に撮像できるようになり,動脈瘤や脳動静脈奇形などの検出能,視認性が向上しました。また,頸動脈エコーで狭窄率が中等度以上の症例に対しては,頸動脈プラークイメージングで質的診断を行うことにより治療方針を決定しやすくなっています。何より,ECHELON Smartの高い空間分解能は予想以上で,内耳道内の前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)のような,限局する数mmの腫瘍が見つかるとは思ってもいませんでした。スライス厚を薄くできるので椎骨動脈解離も発見しやすく,画像から得られる情報量が格段に増えました」
また,受診者数が年々増加している認知症検査では,VSRADも活用し,診断や患者説明に役立てている。前田院長は,「高画質化とシーケンスや機能の拡充で,診断により有用な画像を得られるようになったため,自信を持って患者さんに説明できることが増えました。より早いタイミングで,適切な治療を提供することにつながっていると思います」と述べる。
このほかにBSI(磁化率強調画像)も実施しており,微小脳出血が非常に良好に描出されている。どの程度の出血で治療方針を変更するかなどの検討を重ね,今後,臨床にフィードバックしていく予定だ。
静音化技術で快適な検査を提供するECHELON Smart
ECHELON Smartは,撮像時間や画像処理時間が短縮しただけでなく,ワークフローも大きく改善し,検査スループットの向上に貢献している。セッティングにおいては,頭部コイルと脊椎コイルが寝台に据え置きとなり,検査に応じて頸部や腹部,関節などのコイルを組み合わせるだけで,スムーズに検査に入ることができる。谷水技師は,「検査数の多い頭頸部検査は,APERTO Inspireでは2回に分けて撮像していましたが,今は1回のセッティングで一度に撮像できるようになり,手間が軽減されました。また,以前は考えられなかった全脊椎の検査も,ECHELON Smartでは1回のセッティングで可能です」と述べる。また,消化器領域などの息止め検査では自動アナウンスを活用しており,一人で検査を回している谷水技師には強い味方となっている。
ガントリがトンネル型になることで検査の受容性が低下する可能性も懸念されたが,静音化技術“Smart Comfort”による静かな検査環境が,患者に与える圧迫感や不安感の軽減につながっている。前田院長は,「ECHELON Smartにしてよかったと実感していることの一つが,子どもの検査です。静音化と撮像時間の短縮により,鎮静することなく検査が可能になりました」と話す。また,谷水技師は,「患者さんからは,以前より検査時間が短くなってよかったという声が多く聞かれます。ガントリ内が明るく,送風機構があることも心理的な負担の軽減に役立っているようで,途中で耐えられなくなって検査が中断することもなくなり,検査する側にとってもメリットが大きいです」と,患者の快適性と検査効率が両立している現状を説明した。
■症例1:左聴神経腫瘍
■症例2:左内頸動脈プラーク
■症例3:未破裂椎骨動脈解離
さらに検査の幅を広げ精度の高い診療をめざす
稼働開始から約10か月,同クリニックのECHELON Smartは検査の高度化を実現し,共同利用により地域医療にも大きく貢献している。メディカルモールに整形外科クリニックが開院したことで,今後は共同利用の増加も見込まれる。共同利用では検査だけを受けに患者が来院するため,谷水技師は,「身体所見を見ながら検査を追加するなど,質の高い検査の実施に努めていきたいと思います」と述べる。
前田院長は,ECHELON Smartを活用した今後の展望について,「ASL(arterial spin labeling)を脳梗塞だけでなく,てんかんの診断に利用するなど,新しいことにも取り組みたいと思います。疾患の早期発見など精度の高い診療をめざし,地域医療に貢献していきます」と語る。ECHELON Smartは今後,同クリニックの診療をさらに発展させていくだろう。
(2018年6月28日取材)
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