GE横河メディカルシステムから,フルデジタル汎用超音波診断装置「LOGIQ」ブランドの最上位機種である「LOGIQ E9(ロジック・イーナイン)」が発売されました。10月25日の日本超音波医学会第20回関東甲信越地方学術集会のランチョンセミナーにおいて初めてお披露目され,米国から駆けつけたGEヘルスケアの超音波部門副社長であるテリー・ブレゼンハム氏が挨拶に立ちました。LOGIQ E9は「人に優しい」をコンセプトに開発されたフラッグシップモデルで,2008年度グッドデザイン賞も受賞しています。LOGIQ E9に代表されるGEヘルスケアの超音波開発戦略について,また,世界で日本でどのような事業展開を行っていくのかについて,テリー・ブレゼンハム氏にお話をうかがいました。
●フラッグシップモデルとして期待される「LOGIQ E9」の開発コンセプトや主な特徴についてご説明ください。
今回,新しく次世代の超音波診断装置として発表させていただいたLOGIQ E9は,現状のニーズに応えるだけではなく,将来的な必要性が見込まれる機能を併せ持つ製品づくりということを基本のコンセプトとしています。ポイントの1つは,Bモードにおけるイメージクオリティ(画質)を格段に向上させたことです。特にこれから,4D技術(電子4Dプローブにより3Dイメージをリアルタイムに表示する)の分野などを開発していくことで,さらなるアプリケーションの拡がりが期待できると思います。これはどちらかというとLOGIQ E9だけのことではなく,超音波診断装置の今後の方向性と考えています。
LOGIQ E9で医療を変える革新的な技術として“Volume Navigation(ボリューム・ナビゲーション)”が挙げられます。CTやMRIなど他のモダリティで撮像した画像と超音波画像とを同一画面に表示しフュージョンすることによって,低侵襲性に優れた超音波をうまく活用しながら,医療のワークフローの改善や効率の向上を実現できるのではないかと期待しています。診断精度の向上はもとより,例えば,術前にCTで見つけた病変部を術後にリアルタイムに超音波で見ていくことによって,治療効果の判定やフォローアップが可能になります。
●ソナゾイドによる腹部の造影検査についての新しい機能も搭載されているとうかがっています。ソナゾイドが認可されているのは未だ日本だけだと思いますが,これは日本向けに開発された機能と言えるのでしょうか。
新開発の“Amplitude Modulation(アンプリチュード・モジュレーション)”機能は,従来の造影検査の課題である深部の感度向上と不必要な組織の抑制を実現するもので,肝腫瘍の鑑別診断や治療効果判定における精度を向上させることができます。ただ,これは必ずしも日本向けに限った機能ではありません。ソナゾイドは日本での臨床応用が進んでいますので,その経験や実績を世界に広げていきたいと考えていますし,今後,造影検査のニーズはますます高まってくると思いますので,そのための技術開発には非常に力を入れています。また,将来的には,造影剤を利用したモレキュラーイメージングの実現を視野に入れた検査技術を開発していくことは,GEヘルスケアとしてもきわめて重要だと認識しています。
●ソナゾイドの欧米での認可の見通しはいかがでしょうか。
1か月前までであればかなり厳しいと言わざるを得なかったのですが,関連学会が動き始めているので,かなり近い将来,認可が下りるのではないかと期待しています。
FDAには,日本での臨床応用の実績,特に患者さんにとってのメリットなどの研究データが資料として提出されています。ソナゾイドについては,日本のデータがアメリカの薬事承認に寄与しているという状況です。
●今回は,LOGIQブランドの最上位機種を発表されましたが,今年の4月にはコンパクトタイプの2機種(LOGIQ P6,Vivid S6)が発売されました。GEは,汎用が「LOGIQ」,循環器が「Vivid」,産婦人科・乳腺が「Voluson」という3ブランド体制をとっています。これら超音波診断装置全体の戦略的な方向性,そして,グローバルな展開および日本での展開をお聞かせください
GEと他社との戦略の違いは,消化器や内科などの汎用,循環器,産婦人科・乳腺という3つのセグメントできっちり特徴づけられた製品群を展開していることです。そしてまた,麻酔や手術分野,リウマチなど,今まで超音波が使われていないような領域にもフォーカスしています。いわゆる一般的な,すべてのニーズを満たせるような製品ということよりも,それぞれの診療科によって異なるニーズにきめ細かく応えられる専門の製品を目指して,今後も開発を進めていきたいと考えています。GEは,会社の規模としても継続的な投資が続けられますし,そのことが,細分化されたお客様のニーズに合わせた製品づくりという強みにつながっているのです。
●そのような戦略に基づく製品開発は,国や地域によって展開が変わっていくことがあるのでしょうか。
先ほどお話させていただいたのは,特にそれぞれの診療科に応じた,非常に専門化した異なるニーズに応えていくということが最初のステップでした。そして,その次のステップとして,地域的に異なるニーズに対応していくことを考えています。ご存知のとおり,日本は超音波の中で2番目に大きな市場であり,GEは日本をきわめて重要な市場ととらえております。また,日本のお客様は,性能や画質の期待値が格段に高いので,それに応えていくことができれば,世界の多くのお客様のニーズを満たすことができると考えております。
●2006年からユビキタス超音波を提唱されていますが,その方向性は変わらないのでしょうか。
ユビキタス超音波では3つのポイントがあります。1つ目は,特に小型化していくことによって得られる利点として,やはり機動性に優れることです。環境に依存せず,狭い場所でも超音波を使っていただけるようになります。
2つ目は新しいユーザーの獲得です。特に撮影領域が固定され,ある一定の機能だけが必要だというニーズに対しては,大型の装置ではなく小型の装置が必要になってきます。
3つ目は,他のモダリティとの統合です。例えば,手術室に麻酔装置と超音波装置が2台並んでいるとすれば,技術的に小型化が進められれば,麻酔装置の中に超音波装置が組み込まれた製品も可能になると思います。このように今後,他のモダリティとの統合を進める上でも,小型化の技術は必要になってくるだろうと考えています。
●最近,他社からも続々とポータブルタイプ(簡易タイプ)の超音波診断装置が発売されていますし,
新規参入企業もいくつかありますが,どのように見ていますか。
私たちは,他社がポータブル分野に参入してくることについてはポジティブにとらえています。
1つ目の理由としては,ユビキタス的な製品が普及していくことは,医療全体にとって非常に良いことだと理解しているからです。
2つ目には,限界値を超えてさらに成長していくという観点からも,当然のことながら競合他社と切磋琢磨する方が,良い刺激を受けると思うからです。そういう意味で,他社の参入については歓迎します。
3つ目の理由としては,私たちは長期にわたる経験があり,お客様のニーズを理解していると自負しています。臨床現場でどのような使われ方をしているのかという部分も含めて,これまで広範囲にわたる経験を積み重ねてきましたので,その優位性を生かしてさらなる成長を図りたいと思っています。
また,なかには,ハイエンドの製品を扱っておらず,ポータブルタイプだけの販売という会社もあると思いますが,GEの強みは,ハイエンド製品で培った技術をポータブル製品に組み込んでいくことができることです。その強みを十分生かしていきたいと思っています。
●先ほど,CTやMRIなどとの統合というお話がありましたが,逆にハイエンド装置では他のモダリティと競合するという場面が出てくるのではないかと思います。統合と競合というパラドックスに関してはどのようにお考えですか。
私たちとしては,超音波が他のモダリティのリプレースになるというような考えはもっておりません。オーバーラップすることなく共存できると思っています。例えば今回,LOGIQ E9に搭載したボリューム・ナビゲーションという機能は,CTやMRIで発見した病変部について,超音波のリアルタイム性という優位性を生かして,より診断力を高めることに貢献します。より臨床的な診断価値を付加するという意味で,イメージの統合が進んでいくだろうと考えています。
●各種モダリティの中で超音波診断装置というのは,どのような役割でどのような位置付けとお考えですか。また,それに関連して,今後どのような方向性で事業を展開されていくのでしょうか。
超音波の技術は実はまだまだ発展途上です。だからこそ,エキサイティングな素晴らしい未来があると思っています。リアルタイム性,放射線を使わない安全性,3D/4Dイメージなどのボリュームデータ,診断を助ける造影剤を使った検査など,超音波のメリットを生かしてより一層成長する余地があります。
また,ユビキタス超音波のコンセプトを発展させてスペシャリティを増やすことによって,一段とマーケットが広がる可能性があると思っています。
世界中には,超音波の恩恵を受けることができない人々がたくさん存在するのが現実です。そのような国々に対する超音波の普及が私たちの義務とも言えるでしょう。それはまた違う意味での将来展望です。
●特に,日本の市場に向けてはどのような展開になるのでしょうか。
今まで以上に,LOGIQシリーズとしてはやはり,腹部への対応です。特に肝臓の疾患が日本では多いので,腹部は重要な分野です。また,残念ながら血管関係の疾患が日本でも増えていく中で,今後は血管領域に対する技術開発を進めていきたいと考えています。それから,女性のがんで増え続けている乳がんについても,超音波をフルに活用した技術開発を進めていきます。腹部,血管,乳腺の3つの分野を中心に開発投資を加速させていきたいと思っています。
国によって疾患のトレンドが当然違いますので,やはり日本の疾患,疾病に合った技術の発展を今後も続けていきたいと思います。
●GEは創薬から診断,治療に至るまで,トータルなヘルスケア事業を展開していますので,例えばモレキュラーイメージングへの展開など,将来の超音波はどのように進化しているでしょうか。
将来的には,GEヘルスケア全体を考えた場合,発症後に治療するという今までのリアクティブな医療ということではなく,予見する,あるいは予兆に基づいて対処するといったアーリーヘルスをより一層進めていきたいと考えています。より早く予見ができれば,トータルの医療費削減にもつながると思います。
また,医療のコスト対効果や効率性を高めていく分野でも今後,貢献していきたいと思っています。その中の1つには,ITという要素があります。いわゆる検査のプロセスの改善です。今回,LOGIQ E9に搭載した“Scan Assistant(スキャン・アシスタント)”という機能は,検査手順をプログラム化して,検査時間を短縮するものですが,このようなワークフローで全体を変えていくことで医療の効率を上げていくことができます。世界的に医療費が増え続ける今,世界共通のニーズである医療のコスト効率性を高めることに寄与していきたいと考えています。予防も含めたより早期の診断とコスト効率性の追究の2つが今後の方向性と考えています。
●この度の米国発の金融危機は世界的な実体経済まで脅かしていますが,ヘルスケア市場に影響が出ていますか。
今現在,その影響を受けているとは思わないですが,医療機関に対しては今の状況がネガティブに作用してくるだろうと認識しています。その中でもちろん私たちとしては,先ほどもお話したことですが,コストの削減など,より経済効率を高めていくようなサポートを提供していくことで,お客様に対して貢献していくことができると考えております。
医療費はどの国々でも上がり続けていますし,人口も増え続け,なおかつ高齢化が進んでいるという状況の中で,私たちがどのような手助けを行うことができるかということを常に考えていきたいと思います。それはまた,それぞれの製品にとってのチャレンジも増えていくということになります。
一方,GE全体の中では,こういう状況を好機ととらえて積極的にM&Aを展開するなど,ヘルスケア事業についてもまだまだ投資が進んでいくのではないか考えています。
●では最後に,日本のユーザーの皆様にメッセージをお願いします。
日本のお客様には,私たちは必ず必要なサポートをしていくことをお約束したいと思います。実はこの度,11月1日付でGEYMS内に超音波統括事業本部を新設します。その中に,“In Japan, For Japan”を目指し,日本にフォーカスした超音波の専任チームを創ります。営業・マーケティング・開発・製造の各部門が1つのチームとしてこれまで以上に緊密な協力を図ることで,世界的な市場動向や顧客ニーズに一段と的確かつ迅速に対応できる体制を構築し,世界第2位の規模を誇る日本の超音波市場における事業拡大を目指します。
GEヘルスケアがグローバルカンパニーとかアメリカの会社ということではなく,日本の企業として認知してもらうことが,私の夢です。
(2008年10月28日取材:文責inNavi.NET)
◎ Terri S. Bresenham氏略歴 GEヘルスケア ダイアグノスティック・ウルトラサウンド&IT事業部バイスプレジデント/ ゼネラル・エレクトリック・カンパニー カンパニーオフィサー 米テキサス大学生物医学工学科修士課程修了。 1990年,エジソン・エンジニアとしてGEメディカルシステム(現GEヘルスケア)に入社。 グローバルのPETやCT事業においてエンジニアリングと製品統括のポジションを歴任。 その後,米国におけるウーマンズヘルスのセールスおよびマーケティングマネージャーを務めた後,2000年に骨密度測定装置事業のリーダーに就任。 米ルナー社買収を成功裏に完了させたほか,年15%を超える成長の実現と事業全体の収益性の向上に貢献。 2004年から現職。 |
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