特別企画 2010年度診療報酬改定で何が変わる 放射線医療における改定のポイントと評価
チーム医療の加算や「デジタルエックス線撮影料」の新設など,医療専門職,診療放射線技師への評価が大きな成果 次回改定に向け診療放射線技師の技術についてエビデンスを示していくことが重要 北村 善明 氏 社団法人日本放射線技師会会長,中央社会保険医療協議会委員,チーム医療推進協議会代表
政権交代による変化が期待された2010年度の診療報酬改定では,中央社会保険医療協議会(中医協)の委員として,初めて医療専門職から,日本放射線技師会会長,チーム医療推進協議会代表の北村善明氏が選任された。医療専門職の声を直接,届けることができる意義は大きい。今回の改定を受けて北村善明氏に,チーム医療,放射線医療それぞれの観点から,内容の評価と次回の改定に向けた展望について,お話をうかがった。

─政権交代後,初の診療報酬改定は10年ぶりのプラス改定となりましたが,どのように評価されていますか。

北村:昨年の10月に長妻厚生労働大臣より中医協の専門委員として任命され,会議に参加してきました。医療専門職の立場から,多様な職種の代表として意見を述べてほしいということで,選ばれました。医師,歯科医師,薬剤師,看護師の4職種以外の代表が中医協委員になるのは初めてです。
  今回の診療報酬改定は,+0.19%とわずかですが,10年ぶりのプラス改定になったことは評価できます。特に,救急や産科・小児医療,手術などの点数が引き上げられました。今回の中医協の人事によって委員が大きく変わったことで,議論の中身に変化が起きたのだと言えるのではないでしょうか。

─医療専門職の立場から発言されたとのことですが,どのような主張をされ,何が認められたのでしょうか。

北村:今回の議論の中では,医療専門職をいかに評価するか,また,チーム医療の役割,実践に対する評価という観点から発言しました。チーム医療に関しては,これまで緩和医療に対して点数がついていましたが,より多くの医療専門職がかかわるチーム医療の論議が本格的にされたことは,大きな前進と考えております。今回の改定では,栄養サポートチーム(NST)加算,呼吸ケアチーム加算が,多職種からなるチームの取り組みとして新設されました。また,医療安全対策においても,感染症の専門知識を持つ職種で構成される医療チームや,介護関連におけるケアマネジャーと看護師との連携が加算になる点などもありました。

─これまでの中医協では,チーム医療に関する発言・議論はなかったのでしょうか。

北村:ほとんどなかったはずです。今回は,私が代表を務める「チーム医療推進協議会」からのチーム医療に関する資料や医療職種の要望や課題を議論の場に提出しましたが,このこと自体,中医協の歴史の中でも初めてのことでした。

─チーム医療推進協議会はどのような活動をしているのでしょうか。

北村:2009年3月に,医療ジャーナリストの福原麻希氏が医療専門職をテーマにした取材で当技師会を訪れたのですが,その際,「医療専門職について国民が知らない」「患者さんから見えていない」という話を聞かされました。日本放射線技師会としても,患者さんから診療放射線技師という職種が理解され,また,信頼を得るためには,私たちの職業を知っていただかなければならないとして,6年ほど前から「国民から見える職業へ」をテーマに名刺に顔写真を入れるなど,いろいろな事業を進めてきました。さらに,昨2009年からは,「国民から必要とされる職業」として活動をしています。このように国民に知ってもらうこと,国民から見える職種になることが大切だとの認識から,チーム医療推進協議会を発足しました。2009年6月から準備を行い,9月には第1回目の協議会を開催しています。メンバー構成は,12の職能団体と日本病院会を合わせて13団体,さらには患者さんの立場から乳がんの患者会・山梨まんまクラブ,アドバイザーとしてテレビや新聞社というマスメディアの方々が集まっています。
  一方で,2009年8月から厚生労働省が,「チーム医療の推進に関する検討会」をスタートさせています。しかし,この検討会では医師と看護師の役割分担が主なテーマでした。そこで,チーム医療と銘打っている以上,多くの職種が関係した方がよいとの考えから,12月に要望書を提出し,説明をしました。また,今年1月には協議会主催のシンポジウムを行い,各職種についての広報を行うとともに,実際にチーム医療が行われている事例を紹介したほか,メディカルスタッフについての著書がある福原氏にも講演していただきました。これ以外にも,指定発言として,患者さんの立場から見たチーム医療について意見を出していただきました。

「デジタルエックス線撮影料」など診療放射線技師の技術が評価された今回の改定

─日本放射線技師会会長の立場から,今回の改定をどのように受け止めていますか。

北村:今回の改定で一番評価しているのは,「デジタルエックス線撮影料」が新設されたことです。これは診療放射線技師の撮影手技が評価されたものだと考えています。デジタル化によって,撮影が容易になると考えられがちですが,適切な撮影を行い,その後の検像までもしっかりやっていかなければなりません。つまりデジタル化によって,われわれ診療放射線技師の責任が大きくなったと言えます。現在,国の政策としてもデジタル化,フィルムレス化を進めており,診療所でもデジタル装置が普及してきています。こうした状況を踏まえ,次回の改定では,さらにわれわれの技術が評価されるような方向にもっていきたいと思います。
  また,今回の改定では,16列以上のマルチスライスCTの評価が新設され,MRIも1.5T装置の点数が引き上げられました。これについて,日本放射線技師会としては,単にスライス数や磁場強度という区分だけで評価されてしまうのは,問題ではないかと考えています。診療放射線技師の撮影手技の技術料や,臨床における効果,患者さんのQOL(Quality of Life)も含めた総合的な判断で点数をつける必要があります。

─検査にかかわる診療放射線技師の能力の評価が重要だということでしょうか。

北村:そのとおりです。装置が進歩しても,われわれの技術や業務の重要性は同じであり,いままではその評価がされていません。ただし,今回の改定では,当該月の2回目以降の撮影料が,従来の650点という固定された点数から,「所定点数の100分の80」となりました。これについては,われわれが従来から主張してきたことであって,業務に対する評価として認められたのだと思います。

─そのほかの改正内容については,どのようにお考えですか。

北村:医療機器の安全管理については,医療機器安全管理料2(放射線治療機器)の点数が引き上げられました。しかし,中医協でも説明したのですが,われわれとしては日常的に医療機器の保守点検,品質管理を行っています。X線が正確に出るか,造影剤注入用のインジェクタが正しく動作するかということなどに日々取り組んでおり,これについて評価されていないことは残念です。CTやMRIの保守点検のコストは非常に大きく,医療機関にとっても大きな負担となっています。2005年の薬事法改正と2007年の医療法改正により,医療機器の安全管理が義務化されたにもかかわらず,一部の医療機器にしか安全管理料が加算されないのは,おかしいのではないかと思います。

─装置の買い替え年数が延びていたり,放射線治療のニーズも高まっているだけに,安全管理はますます重要になってきています。

北村:X線撮影装置の更新年数は10年を超えていますが,放射線被ばくが伴う以上,常に品質管理をしていく必要があります。また,放射線治療にしても,がん診療連携拠点病院では品質管理者を置かなくてはいけない規定になっています。しかし,品質管理を行う人材が不足しているのも現実です。ですから,人材を育成していくことも,日本放射線技師会の大切な役割だと思っています。

診療放射線技師の卒後臨床研修などを民主党に要望

─人材育成については,日本放射線技師会として行政などにも働きかけをされています。

北村 善明 氏 社団法人日本放射線技師会会長,中央社会保険医療協議会委員,チーム医療推進協議会代表北村:がん対策推進基本計画に基づき,文部科学省ではがんプロフェッショナル養成プランにおいて放射線治療品質管理士などを育成しようとしていますが,参加大学院数が少ないので,増やさなければいけません。一方,診療放射線技師を育成する大学では,現在多くが大学院を設置し,卒業生の2,3割が進学しています。その多くは画像をテーマにしていますが,今後は放射線治療の品質管理を行える人材を育てていく必要があるので,その仕組みをつくるよう要望しています。また,がん対策推進基本計画では,2011年度までに検診の受診率を50%とすることを目標に掲げていますが,人材や装置が不足しているため,計画どおり進んでいるとは言い難い状況です。このような状況を踏まえ,マンモグラフィ精度管理中央委員会(精中委)などと相談しながら,診療放射線技師の技術の底上げを図っていく必要があります。しかし,日常業務に追われ,人手も不足しているのが現在の医療機関の状況であり,講習会などにも参加するのが難しいという実態があります。われわれとしては,講習会などに参加しやすいシステム,環境を医療機関につくってもらうように働きかけていかなくてはいけません。
  これらのことは,診療放射線技師だけに限らず,すべての医療専門職についても言えます。臨床工学技士の数は,全病院数の1/3程度しかいないので,医療機器安全管理料1が加算できるのは,限られた病院しかないのです。こうした点も踏まえ,人材を育てる環境を整えていくことが重要です。

─診療放射線技師の卒後臨床研修も要望されているようですが。

北村:医療専門職の養成教育年限は,ほとんどが3年制です。これを4年制にしてほしいと,民主党に要望書を提出しました。診療放射線技師の教育については,現状では専門分野のカリキュラムが多すぎて,チーム医療や医療倫理を教えるということがあまり行われておらず,医療の現場に即したものになっていませんでした。このような内容をカリキュラムに加えるとなると,4年制にせざるえないでしょう。
  また,看護師では,昨年の「保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部を改正する法律」によって卒後臨床研修が努力義務化されましたが,診療放射線技師も卒後研修が非常に大切になってきています。施設によっては1,2名しか診療放射線技師がいない場合があり,現場で教えるのが難しいことがあるので,卒後臨床研修の義務化の意義は大きいと思います。
  日本放射線技師会では,放射線管理士放射線機器管理士を認定しています。放射線管理士は被ばくに関する患者相談,外部の被ばく事故にも対応できる人材,放射線機器管理士は日常の医療機器の保守点検・管理を行える人材を認定するものです。この認定を受けている診療放射線技師数は3500人程度ですが,今後すべての医療機関に1名ずつ配置するとなると,さらに必要になります。日本放射線技師会としては,診療放射線技師一人ひとりのレベルアップを図っていくことが,今後の課題だと考えています。さらに,放射線管理士,放射線機器管理士がその役割を果たせる場をつくるためにも,行政から医療機関に働きかけるように要望しています。

次回の改定に向けてエビデンスを示していくことが重要

─2012年度の改定に向けて,今後,チーム医療推進協議会として,どのような活動,提言をしていく予定でしょうか。

北村:次回は医療と介護との同時改定となりますが,介護分野でもチーム医療がかかわってきますから,もっとチーム医療が評価されるようになるべきだと考えています。また,今回の改定では,病院勤務医の負担の軽減を目的にチーム医療が評価されましたが,この考え方は間違っていると思います。チーム医療とは,医師の役割分担をするものではなく,お互いが専門性を生かして,患者さんにとって一番良い医療を行うことです。現在の医療は,チーム医療でなくては成り立たちません。かつては医師を頂点とした「医療チーム」で医療が行われていましたが,それぞれの職種がしっかりと発言できるような「チーム医療」に変えていかなければいけないと思います。そして,チーム医療を進めていくためには,人材が必要です。チーム医療を担う人材を雇うためにも,診療報酬上で評価してもらうことが重要です。

─その観点から,医療費の引き上げについて,国民の理解も必要になってくると思いますが,いかがでしょうか。

北村:チーム医療推進協議会では,国民にチーム医療を知ってもらうために,しっかりと情報を発信していかなければいけません。シンポジウムをはじめ,広報活動にも取り組んでいきたいと考えています。また,まだお互いの職種についての理解が不足している面があると思います。特に,今後は地域医療連携が進み,介護や在宅医療も含め,より多くの職種が協力し合っていくことになるので,お互いを知り,信頼を高めていくことが必要です。

─日本放射線技師会としてはどのように取り組んでいく予定でしょうか。

北村:われわれの業務を評価してもらうには,エビデンスを示すことが重要です。今回,「デジタルエックス線撮影料」が新設されましたが,デジタル化によって業務量がどのように変わったかなどを検証して,来年の中医協に提出します。また,救急における撮影,脳卒中や心臓検査の画像処理などにおける診療放射線技師の技術については,これまで評価されてきていません。時間がかかり,技術も必要なだけに,エビデンスを示して評価してもらえるようにしていきたいと思います。
  また,厚生労働省のチーム医療の推進に関する検討会の報告書において,専門性を生かす観点から,診療放射線技師が読影の補助や検査に関する説明・相談を行うなど,役割の拡大が明示されました。こうした動きにも対応していきたいと思います。

安全・安心の医療のためにも診療放射線技師のさらなる資質の向上を

─最後に関係者に向けてメッセージをお願いします。

北村:日本放射線技師会では,診療放射線技師の資質の確保を最も重視しています。その観点から,生涯学習システムを構築しており,会員以外の方も対象としているので,ぜひ受講していただきたいと思います。安全・安心の医療が国民の要望であり,これを実現していくためにも,われわれは常に学習していかなければなりません。診療放射線技師は医療現場において,放射線に関する唯一の職種です。それだけに常に知識を身につけながら,しっかりと放射線管理,被ばく管理をできるようにしていただければと思います。

(2010年3月取材:文責inNavi.NET)

◎プロフィール
1973年東北大学医学部附属診療放射線技師学校を卒業後,順天堂大学附属病院,虎の門病院,厚生中央病院に勤務。95年5月より日本放射線技師会常務理事,同専務理事を経たのち,2008年6月より同会長に就任。現在,厚生労働省中央社会保険医療協議会専門委員,国民医療推進協議会理事,医療機器センター評議員,医療研修推進協議会評議員,画像診断コンソーシアム副会長,鈴鹿医療科学大学理事も務める。

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