インナビネット特集 インタビュー
東芝メディカルシステムズ株式会社代表取締役社長 綱川 智 氏

画像診断機器の国内ナンバーワン企業である東芝メディカルシステムズ株式会社では,2010年6月に綱川 智氏が代表取締役社長に就任しました。Area Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE」に代表されるように,技術力で世界の最先端を行く同社は,今年国内メーカーでは初となる3T MRI「Vantage Titan 3T」を発表するなど,意欲的に製品開発に取り組んでいます。一方で,国内外の市場の低迷などにより2009年度は2期連続で減収減益となるなど,厳しい状況も続きました。そこで,インナビ・インタビューでは,米国,ヨーロッパなど豊富な海外勤務経験を持つ綱川氏に,グローバル化を進める同社の舵取りを今後どのように行っていくか,そして,海外メーカーとの競争力を強化するためにどのようなリーダーシップを発揮するか,インタビュー取材しました。


● 今年6月に社長に就任されてから2か月が過ぎましたが,これまでの感想をお聞かせください。

  本当にあっという間の2か月間だったというのが,正直な感想です。就任以降,時間の許すかぎり,日本だけでなく米国など海外の医師や診療放射線技師の先生方へのご挨拶にうかがっていました。当社は,画像診断機器市場において国内ナンバーワン,海外でも世界第4位の企業に成長していますが,これは長年支えてくださっている先生方のおかげです。ですから直接お会いしてご挨拶するために,飛び回っていました。

● 社長就任以降,社内ではまず,どのようなことに取り組んだのですか。

  社員の意識改革を重要なテーマにして,まずは50名ほどいる部門長と一対一の面談をしました。これは,社員に「危機感」を持ってもらうことがねらいです。国内ナンバーワンという意識があると,どうしても危機感が薄れてしまいますが,海外に目を向ければ,ビッグ3(編注:GE,シーメンス,フィリップス)との差は歴然としています。彼らに追いつくためには,チャレンジ精神を持って,高い壁にみんなで向かっていくことが大事です。それを徹底させるために,部門長と話し合い,お客さまとの,そして社内でのコミュニケーションの意識を変えていくことに時間を割きました。まだ目に見える成果は出ていませんが,社員たちがもともと持っていた危機感が,さらに強くなり,良い方向に向かってほしいと思っています。

● 厳しい経営状況下での社長就任となりましたが,現在の国内,海外の市場動向をどのように分析していますか。

東芝メディカルシステムズ株式会社代表取締役社長 綱川 智 氏  国内市場については,2010年度診療報酬改定がプラス改定となったこともあり,安定して伸びてきていると思います。日本画像医療システム工業会(JIRA)の2010年度4〜6月の市場統計を見ていても,CTを中心に売り上げが伸びており,良い方向に戻ってきたと分析しています。
  一方の海外市場は,米国ではCTの売り上げが落ちてきており,厳しいと感じています。この要因は2点考えられます。1つは米国で心臓などのCTの診療報酬が下がったこと,そして,もう1つはCTの過剰被ばくが新聞などで報道されたことです。しかし,その代わりにX線撮影装置,特にX線アンギオグラフィ装置は伸びており,CTが落ち込んでいる分,そこにチャンスがあると考えています。
  そのほかの国,地域では,中国が好調です。これはほかのメーカーも同様だと思いますが,成長市場なので当社としても力を入れてきたいと思っています。また,中近東のサウジアラビアやイラクでも,大型の案件を獲得できており,売り上げが伸びています。

● 最近の円高など,為替市場の影響は出ていますか。

  ドルに関しては,購入部品が安くなるので良い面もあるのですが,ユーロについては予想を超えた円高となっていて,正直厳しいというのが実感です。

● そのような状況の中で,今後どのような舵取りをされていくか,抱負をお聞かせください。

  まずは成長路線を進めることです。東芝の佐々木則夫社長も医療分野での売上高1兆円をめざすと言っていますが,そのためには,われわれとして何をしていくかが重要となります。そこで,当社の最大の強みである画像診断機器をさらに強固なものにすることをめざしたいと思っています。また,画像診断機器だけでなく,治療やヘルスケアIT,在宅医療などの分野も力を入れていきます。ただし,当社だけではできないものもあるので,そこは東芝の総合力を生かして,新しい分野に取り組んでいくつもりです。

● 国際モダンホスピタルショウ2010でも東芝の総合力をテーマにした展示をしていました。

  「病院丸ごと受注」ができることをアピールしました。これまでは,なかなか異なる事業間での協業が難しいこともあったのですが,いまは協力していく環境が整っています。

国際モダンホスピタルショウ2010では,最新の病院情報システムHAPPY ACTISや,サイトプランニングなど“病院丸ごと受注”が可能な東芝の総合力をアピールした。
国際モダンホスピタルショウ2010では,最新の病院情報システムHAPPY ACTISや,サイトプランニングなど“病院丸ごと受注”が可能な東芝の総合力をアピールした。

● ビッグ3との距離を縮めていくためには,どのようなことが必要だとお考えですか。

  王道はないので,商品力を高めて,差別化を図るためにサービス力を強化するしかないと思っています。それで少しずつでも力をつけていって,製品をお客さまにお届けしていきたいと思います。商品力といっても箱物だけでなく,医療技術として何ができるかが重要です。医療の現場で闘っている医師や診療放射線技師の先生方が持っているビジョンについて話し合い,その実現に貢献する,ということを1つずつ積み上げることが大事です。一方で,サービスが疎かになってしまっては,いままで築き上げた信頼関係が台無しになってしまうので,サービスにももちろん力を入れます。

● サービス力を高めるために,具体的にどのような取り組みをするのでしょうか。

2009年1月に完成したCSTCではユーザーの研修施設やTACコールセンタがある。
2009年1月に完成したCSTCではユーザーの研修施設やTACコールセンタがある。

  当社では現在,サポート,メンテナンスのための遠隔保守システム「InnerVision Plus」を提供しています。このInnerVision Plusについて,国内,米国ともにリモートでのサービスを行う機器の適用を拡大しているところです。
  また,2009年に那須へ本社機能を集中させたことに伴い,お客様サービスの充実を図るために,本社敷地内に「カスタマーサポート&トレーニングセンター(CSTC)」を新設しました。ここには,ユーザーやエンジニアの研修施設,カスタマーサポートの拠点として機能する「TACコールセンタ」があります。さらに,実際に診療放射線技師の方々に来ていただき,トレーニングを行っています。このような研修を提供することが,サービス力を高める上で非常に大切です。
  このほか,当社は,医師や診療放射線技師の先生方と感動や驚きを共有するということにも長年取り組んできました。毎年12月に「The Best Image」(編注:1993年に「画論」として開始)を開催し,当社モダリティの画質の良さをアピールする場ともなっていますが,臨床上の意義や患者さんに負担をかけない撮影方法なども,診療放射線技師の方々の技術を評価するものとして,皆さんが力を入れて参加してくださっています。今後も診療放射線技師の方々と協力して,こうした活動に力を入れていきたいと考えています。

● 海外市場でのサービス力の強化は,どのように進めますか。

  サービス力の強化は海外の方がより重要です。国内は従来からサービスマンの数が多く,評価をいただいていました。今後,新興国でシェアを伸ばしていくためには,やはりサービスがカギとなります。当社は,1973年からブラジルを皮切りに海外展開を始めましたが,その当時からサービスを最も重視してきました。今後もその姿勢でいくつもりです。

● もう一方の商品力の強化については,今後どのような展開をしていくのでしょうか。
CTは,ADCT以降の新しい技術に期待が集まっているようですが。

  当社の最大の強みはCTであり,市場のシェアが最も高い製品でもあります。ですから,その一番強いところをさらに強化したいと考えています。2012年には世界でナンバーワンのシェアになるとアドバルーンを上げているので,それをめざして技術開発にも取り組んでいきます。CTでは,列数やスキャンスピードも重要な要素ですが,アプリケーションソフトウエアも非常に大事です。例えば,血管の石灰化があれば,それを除いて描出するようなソフトウエアを,先生方のご意見をうかがいながら開発していくようなことが必要です。そのような開発では,ADCTの「Aquilion ONE」の320列,16cmというカバレッジを生かして,当社だけのハードウエアとソフトウエアを組み合わせた製品として,診断だけでなく治療にも生かせる,医療に貢献するようなものにしたいと考えています。

● MRIは,今年待望の3Tが国内でも発表されましたが,初期の評価はいかがでしょうか。

  現在,国内では杏林大学医学部付属病院と東京女子医科大学病院で稼働しています。実際に,杏林大学医学部付属病院の装置を見せてもらいましたが,良い画像が得られているとの評価をうかがいましたので,今後の販売に期待しています。3T MRIは海外メーカーの後発となり,垂直立ち上げで販売を伸ばすには時間がかかると思います。しかし,「百聞は一見にしかず」の言葉のとおり,これらの病院に見学サイトになっていただき,1人ひとりファンを増やしていきたいです。

● 米国ではX線アンギオグラフィ装置が好調とのことですが,今後の展開はどのようにお考えですか。

今年3月,CSTCでハイブリット手術に対応した「Infinix Celeve-i INFX-8000V」の記者発表会が行われた。
今年3月,CSTCでハイブリット手術に対応した「Infinix Celeve-i INFX-8000V」の記者発表会が行われた。

  X線アンギオグラフィ装置は,透視画質が命だと思っています。当社の場合は,画像処理コンセプト「PureBrain」による高画質化した透視画像が非常に好評なので,欧米諸国にどんどん広めていきたいと考えています。
  先日,9月1日に新病院が開院した湘南鎌倉総合病院に行きました。これまでX線アンギオグラフィ装置は海外メーカーばかりだったのですが,新病院では「Infinix Celeve-i」シリーズのバイプレーン装置2台を採用していただきました。同院には救急用にAquilion ONEも導入していただきましたが,年間1万台の救急車を受け入れ,心筋梗塞や脳卒中など,どんな難しい症例でも受け入れるという,患者さんに軸足を置いた病院に私たちの装置を入れていただけたのは,本当にうれしく思います。

● 超音波診断装置については,今後どのように展開していくのでしょうか。

  超音波診断装置は,「プレシジョンイメージング」などの技術により,画質について高い評価を得ています。また,ポータブル装置の「Viamo」も好評なので,こうした製品の実績を伸ばしていきたいと考えています。

● ヘルスケアIT分野への取り組みはいかがでしょうか。

  国際モダンホスピタルショウ2010で,グループ企業である東芝住電医療情報システムズの新しい大・中規模病院向けの病院情報システム「HAPPY ACTIS」を出展しました。これが非常に良い評価を得ていて,引き合いが多くなっています。当社のPACSも現在好調なので,両者を組み合わせて提供することも進めていきます。
  最近では,システムの更新需要が出てきているので,HAPPY ACTISの機能をしっかりと認めていただきながら,シェアを拡大したいと思います。

● 治療分野へはどのように取り組んでいきますか。

  例えば,放射線治療をする上で,3D画像が必要となりますが,その撮影に当社のラージボアCT「Aquilion LB」を使用していただくということが考えられます。手術用などの用途にこれまで100台ほど出荷していますが,それを治療に関連するところにも広めていきたいです。
  また,放射線治療装置「ノバリス」を手がけるブレインラボともアライアンスを組んで,協力していくことになりました。まだ装置を据え付けた施設はないのですが,今後はこうした治療装置メーカーとの提携も進めていくつもりです。

● 社長就任以降,海外を含め各地を飛び回っていたとのことですが,お会いした医師や診療放射線技師の先生方の反応はいかがでしたか。

  社長就任以降,国内はもとより,海外でも米国,ヨーロッパ,東南アジアを回ってきましたが,先生方にいつも言われるのは,「日本のメーカーとしてぜひがんばってほしい」という励ましの言葉です。そのありがたいご期待に応えていかなければならないと思います。また,海外でも東芝のファンが増えてきており,米国では地域の拠点病院などから大きな期待が寄せられています。特にAquilion ONEの存在が大きく,「この装置で未知の領域に行ける,さらなる臨床的有用性を引き出せるから,共同研究をしよう」という声もいただいています。

● 最後に,ユーザーに向けてメッセージをお願いします。

  当社は「Made for Life」という経営スローガンを掲げて,これまで事業に取り組んできました。その気持ちを持ち続け,患者さんに軸足を置いて医療に取り組んでいる先生方のお役に立つよう事業に取り組んでいきますので,これからもご支援をお願いします。

(2010年9月3日(金)取材:文責inNavi.NET)

◎略歴
1955年東京都生まれ。79年に東京大学教養学部学士修了後, 東京芝浦電気株式会社(現・株式会社東芝)入社。同年から稼働した那須工場の生産事務課に勤務。米国,ヨーロッパと,3度の海外勤務を経て,今年6月に代表取締役社長に就任。

1999年 株式会社東芝医用システム社海外営業部長
2000年 株式会社東芝医用システム社業務管理部長
2001年 同社医用システム社経営企画部長
2004年 東芝アメリカメディカルシステム社社長
2008年 東芝メディカルシステムズ株式会社取締役常務
2009年 同社取締役上席常務
2010年 同社代表取締役社長

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