● 8月1日から,GEヘルスケア・ジャパンとして新たなスタートを切りましたが,事業統合のねらいについてお聞かせください。 |
- 熊谷: 今回の事業統合は,これからの時代に合ったビジネスのスタートラインであると思っています。現在の厳しい市場環境の中で成長していくためには,自分たちで道を切り開いていかなくてはいけません。
そのためには2つの方法があります。1つはシェアを上げること,もう1つは新しい市場を創ることです。シェアを上げるためには,他社とは違うことを実行して差別化を図り,ユニークな強みを持ってそれを前面に出していくことが重要です。また,新しいビジネスを創るためには,いままで存在しなかった市場,ニーズ,用途といったものを,自分たちで創出し,市場を開拓していくことが必要です。
今回の事業統合と社名変更はこの2つの戦略の効果的な実施を狙ったもので,非常にエキサイティングなことだと思います。日本では,画像診断機器の製造・販売とライフサイエンスビジネスの双方を展開する企業は当社以外にはありませんので,統合によってユニークな特色が生まれ,それを前面に出すことで差別化を図り,他社にはまねのできないことが可能になると期待しています。“1+1=3”の発想で,事業統合により新しい市場をつくり出すこともできると思います。
すでにGEは,グローバルでは2004年に診断薬やライフサイエンス分野における世界的なリーディングカンパニーであった英国のアマシャムを買収して,GEヘルスケアというブランド名に統一してきました。日本でも,今回の事業統合と社名変更により,グローバル共通のブランド名にすることが実現したことになります。
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● ブランド名の統一は,それぞれの事業にどのような効果をもたらすとお考えですか。 |
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熊谷昭彦氏 |
- 熊谷: 1つには,GEヘルスケアというブランドのもとに目的意識を共有することができます。また,交流が盛んになり,いままで別々に考えていたことを一緒に考えるようになれば,新たなアイデアもさらに浮かぶと思います。
- 渡邉: 基礎科学の分野と臨床の分野の間には,大きな溝があります。基礎科学で発見されたことを現実に応用するのが臨床ですが,臨床の場に応用できるようになるまでにとても長い時間がかかります。GEヘルスケア バイオサイエンス社時代には,基礎科学以外の周辺分野への進出を考えていました。力不足,経験不足であったところも今回の統合で補えるはずですので,早く一緒になって仕事がしたいと思っていました。
また,顧客側の視点から見ると,基礎科学で開発された新たな技術が短期間で臨床応用できることは,患者さんのメリットであり,先生方のメリットでもあります。
今回の統合により,それをいち早く実現できる体制になったと考えており,すでに複数の新たなプロジェクトもスタートさせています。これは,数年先を見据えたものですが,思い描いていた戦略どおりに会社が動き出している充実感をひしひしと感じています。
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● 新たなプロジェクトがすでに動き出したとのことですが,具体的にはどのような変化が起きていますか。 |
- 渡邉: 社内では,例えばマーケティングやファイナンスなど,セクション別に集まって,これまで自分たちがやっていたことを発表し合って,お互いが学べるところがないかという活動を始めています。ビジネスとしては,新たに進出したいと考えていた再生医療関連のプロジェクトを立ち上げ,3年先までのスケジュールを見据えながら,動き出しています。
- 熊谷: 再生医療の分野でライフサイエンス部門ができることと画像診断機器部門ができることを組み合わせれば,トータルソリューションを提供できるようになると思います。再生医療では,その前後の経過も見なければいけませんから,画像診断が重要になってきます。また,細胞を取り出し検査して育てるというプロセスには,ライフサイエンスのテクノロジーが必要です。これらをトータルに提供することは,GEヘルスケア・ジャパンにしかできないと思います。
- 渡邉: メディカルとライフサイエンスが,お互いの強みは残したまま,必要に応じてアメーバのように変化する組織と言えます。このビジネスが大きくなった場合には,また考えることになると思いますが,当面は柔軟かつフレキシブルに対応できるチームとして活動していく方が良いと思っています。
- 熊谷: まさに「ヘルシーマジネーション」という,イマジネーションを生かして医療に貢献するという戦略にフィットしていると思います。いろいろなアイデアを持ち寄って,イマジネーションを生かしていけば,さらに新しいアイデアが生まれてくるはずです。再生医療は,その1つの例というわけです。
- 渡邉: 再生医療は,ヘルシーマジネーションが掲げる“コスト削減”,“アクセス向上”,“医療の質の向上”というコンセプトにもそのまま当てはまると思います。
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● 今回の事業統合,社名変更に対するカスタマーの反応はいかがでしたか。 |
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渡邉温子氏 |
- 熊谷: GEヘルスケア・ジャパンになったことで,「欧米と同じGEヘルスケアのブランドになったのですね」という声をいただいています。また,お客さまも,画像診断機器とライフサイエンスの事業が統合されたことで,新しいことができるのではないかと期待していただいているようです。
- 渡邉: ライフサイエンスのお客さまは大学などの研究機関や製薬会社などです。GEヘルスケア バイオサイエンスのころから,社名が長いためGEヘルスケアと言ってきましたので,お客さまからすると変わったというイメージはあまりないかもしれません。ライフサイエンスの分野は,産業としてまだ未成熟であり,入れ替わりの激しい業界です。それだけにお客さまは,今回の事業統合によって,私たちが日本の市場に根差して,サポートしていってくれると好意的に受け止めていただいているようです。
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● 先ほどからお話に出ている「ヘルシーマジネーション」は,今年の5月に記者発表されたGEヘルスケアの新戦略です。非常にインパクトがありましたが,具体的にはどのようなものなのでしょうか。 |
- 熊谷: グローバル企業であるGEの使命として,世界の大きな課題に対してソリューションを提供するという考えに基づいています。いま,その課題として挙げられるのが環境と医療です。GEは,環境分野では5年前に「エコマジネーション(ecomagination)」を立ち上げ成果を上げていますが,「ヘルシーマジネーション」は,同じように医療に対する取り組みです。2015年までの6年間で60億ドルを投資し,15%のコスト削減,15%のアクセス向上,15%の質の向上を図ります。ヘルシーマジネーションはGEが医療分野における新製品やサービス,あるいはビジネスモデルをつくる際の戦略であり,今後のビジネスの根幹であるとも言えます。今後の新製品開発や投資を決断する際には,常にこの「ヘルシーマジネーション」に則っているかということが,最も重要な判断基準になります。これは経営者にとっても非常にわかりやすくやりやすいものです。
具体的には,世界各国の市場のさまざまなニーズに合ったソリューションを提供するということになります。例えば日本では今,医師不足という問題に直面しています。これに対し,われわれとしては,遠隔医療や地域医療連携のためのITによるネットワーク作りなどのソリューション提供が考えられます。ITによって,医師不足を補って医療を提供することができ,「ヘルシーマジネーション」の目標でもある患者さんのアクセスを向上させることもできます。
新製品の開発も「ヘルシーマジネーション」につながります。最先端の技術をベースにした新しい製品を市場に投入することで,これまでできなかったことが可能になり,医療の質を向上することができます。例えば,CTの新製品では,最先端技術を採用したプレミアム装置である「Discovery CT 750HD」,さらには,その技術を用いた「LightSpeed VCT VISION」があります。また,今年,麻酔科用の超音波装置「Venue 40 Anesthesia」を発表しました。この装置は,これまであまり超音波装置が使われてこなかった麻酔科における新しい用途を開発したもので,麻酔科医の手技を手助けする機能を搭載し,しかも非常にシンプルな操作を可能にしています*。これらは日本市場に合った製品ですが,世界では多様なニーズがあり,それぞれの取り組みが始まっていて,非常に楽しみです。
- 渡邉: ライフサイエンス部門では,再生医療関連に力を入れています。また,抗体医薬品の開発と生産にかかわる技術も強化しています。バイオ医薬の中でも抗体医薬は現在花形になっており,その開発と製造に使われる技術をわれわれは持っていますが,より良い技術を提供することで,開発スピードを上げ,生産コストを下げることをめざしています。抗体医薬の問題の一つは製造コストで,薬価が高いことから,特にアメリカなどでは一部の患者さんしか使用できませんでした。この製造コストを下げる技術を製薬会社に提供し,患者さんのアクセスを向上させることは,「ヘルシーマジネーション」の目標の実現にもつながります。
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* Venue(ヴェニュ)の第2弾である整形外科,リウマチ科向け「Venue 40 Musculoskeletal」が10月9日に発売。
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● 「ヘルシーマジネーション」の立ち上げは,2008年末のリーマンショック以降,GE全体としての変革の一環と言えるのでしょうか。 |
- 熊谷: 確かに金融危機がきっかけとなって,昨年後半はいろいろな意味で,ビジネスのあり方を考え直す時期だったのだと思います。そして,将来を見据え,原点に立ち返って世の中の本当のニーズは何か,世の中に足りないものは何かと考えた結果,環境と医療の分野が重要な位置づけになったわけです。
これからは,市場やお客さまの真のニーズにフォーカスをして,投資していく時代だと思います。その点では,昨年からの不況は立ち止まって考え直す良いきっかけになったと思います。
GEのCEOであるジェフ・イメルト会長は,いまを「リセットの時代」と言っています。ビジネスをリセットして,新しい時代に見合った新しいビジネスに変えていくときが来たという意味です。
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● 中国をはじめとするBRICsのような成長市場もあり,日本のように成熟市場もありますが,GEヘルスケアとしてそれぞれに対し,どのように事業を展開していくのでしょうか。 |
- 熊谷: 端的に言うと「量」と「質」になります。中国は「量」で,日本は「質」という特徴があるので,それを生かせるようなビジネスモデルにしていくことが重要です。
日本の市場は,常に高品質,高精度であることが求められており,これについては世界一です。ですから日本のお客さまのニーズに合った製品がつくれれば,世界のどこに行っても通用します。そして,日本のお客さまのニーズに合った開発をしていくことが,われわれの成長にも通じます。グローバルに展開する上でも,日本市場のこうした特色は大きな意味があるので,今後も投資していく必要性はゆるがないでしょう。よく懸念される日本パッシングにならないようなビジネスを展開していくのが,私たち経営者の責任だと思っています。
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● 日本市場特有の問題点,例えば薬事承認や保健収載などについてはどのようにお考えですか。 |
- 熊谷: 医薬品も画像診断機器も認可に時間がかかっていますが,以前に比べればかなり改善されたと思います。また,さらに短期間にするような方向に向かっていますので,確実に良くなってきています。
- 渡邉: 日本に限らず医薬品開発には長い期間が必要ですが,やはり審査のためのマンパワー不足が認可の遅れにつながっていると思います。ただ,十数年前に比べ海外企業に対するバリアは低くなっていると思います。
また,基礎科学分野については,日本はフェアな市場です。もともとバイオサイエンス領域の技術では海外企業の方が開発スピードやブランド力があるので,それを正当に評価していただいており,公平な競争ができています。
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● ライフサイエンス分野においては,今年5月に富士フイルム(株)とグローバル提携に合意しましたが,事業統合後もこうした方針に変更はないのでしょうか。 |
- 渡邉: もちろんです。これはライフサイエンスに限ったことではなく,画像診断機器でも同じであり,GE全体としてもパートナーシップやコラボレーションには積極的に取り組んでいます。特にライフサイエンス分野では,日本企業の質は非常に高い反面,遅れている面もありますので,例えば開発を共同で行い,日本で生産し,われわれがグローバルに販売するということも進めていければと思っています。
- 熊谷: 日本にはすばらしい技術を持った企業が多くありますので,すべてをわれわれ自身でやるよりは,パートナーシップの方がより良い戦略だと思います。特に,「ヘルシーマジネーション」のコンセプトを共有していただけるパートナーとは,ぜひ一緒にやっていきたいですね。
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● 最後に,インナビネットの利用者に対してメッセージをお願いします。 |
- 熊谷: これからの時代は非常に経済環境が厳しいので,われわれとしては,自ら成長する道を切り開いていかないといけないと思っています。そのためには差別化と新たなニーズの創造が重要であり,その根本としてお客さまのニーズをいち早く知ることが重要です。ですから,いままで以上に視野を広く持ってお客さまの声を聞き,ニーズを理解して,それに応える製品・サービスを開発していくことを,皆さまにお約束します。
- 渡邉: 基礎科学分野で仕事をしていると,「この技術が臨床に適用されたらもっと多くの患者さんが救える」,「低コストで早期診断・早期治療ができる」と思うことが多くあります。しかし,これらの技術が実際に臨床の場に届くのには非常に時間がかかってしまっています。事業統合のメリットを生かし,こうした基礎科学の技術を,少しでも早く臨床の場に届けることができるような役割を担っていきたいと考えています。
(2009年9月9日(水)取材:文責inNavi.NET) |
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