GEヘルスケアグループの日本法人であるGE横河メディカルシステム(株)は,次世代のコンピューター断層撮影装置(CT)「LightSpeed VCT VISION(ライトスピード・ブイシーティー・ビジョン)」を,大学病院,地域の基幹病院および総合病院などを主対象に発売する。
LightSpeed VCT VISIONは,昨年10月に発売した同社製マルチスライスCTの最上位機種「Discovery CT750 HD」(発売当時の名称はCT750 HD)の中核技術と,5心拍(約5秒)での心臓撮影を実現した世界初のボリュームCT「LightSpeed VCT」(2004年発売)の主要機能を併せ持つハイエンドモデル。30cm以上の広範囲にわたる500スライス相当の4D(リアルタイムの3次元)撮影を可能としたほか,全身領域における高画質化ならびに被ばくの低減を実現し,放射線科や脳外科を始め,内科,循環器科など,あらゆる診療科の臨床ニーズに幅広く応えるとともに,LightSpeed VCTが高い有用性を誇る心臓撮影時のさらなる画質安定化および効率性向上を実現した。
LightSpeed VCT VISIONは,Discovery CT750 HDと同様,GEの掲げる次世代CTのビジョン「See More, Know More, Less Dose」をベースに,同装置に搭載された先端技術を取り入れることで,全診療科に対する高い有用性を実現している。
「See More」 よりクリアで飛躍的な写像性(鮮明度)を実現した画像の提供
「Know More」 従来のCTでは得ることのできなかった臨床情報の提供
「Less Dose」 画質を犠牲にすることなく,飛躍的な被ばく低減の実現
このうち,「Know More」のビジョンを具現した技術が,検出器の列数を増やすことなく,500スライス相当の広範囲の撮像を可能にする「ボリュームヘリカルシャトル」。同技術は従来不可能であった撮影テーブルの加速・減速時のデータ収集を可能とすることで,最大312.5 mmの広範囲において500スライスの撮影を実現した。また,撮影画像から時間軸を有する4D画像の構築をすることで,CT画像から非侵襲的に血流動態を把握できるようになるため,これまで手術の前後に実施していた侵襲的な検査が不要になり,患者の負担が大幅に低減する。
臨床的には,例えば約250 mmの肺野領域における心臓から上向大動脈と大動脈弓部を経て下向大動脈に至る血流,ならびに肺静脈の4D CTアンギオグラフィー(血管造影撮影)など,機能検査や時間軸を持つ検査に高い有用性を誇る。
さらに,「See More」と「Less Dose」を実現するのが,CTでは世界初搭載となる新画像再構成技術「Adaptive Statistical Iterative Reconstruction(ASIR)」。
昨今のCT技術の開発焦点となっていた検出器の多列化に伴い,撮影する断層像は加速度的に薄くなり,より微細な病変の検出への可能性を見出してきたが,同時に画像ノイズの増加も不可避であり撮影画像一枚ごとの密度分解能※は低下を続けていた。またこの画質の劣化を補うためにX線の照射量を増やし,結果として被ばく量の増加につながるといった画質と被ばくのトレードオフを繰り返していた。
LightSpeed VCT VISIONは,PET(陽電子放射断層撮影装置)などですでに実用化されている画像再構成技術「遂次近似法」を世界で初めてCTに応用したASIRを搭載することで,撮影画像から密度分解能を左右する画像ノイズやアーチファクト(偽像)成分のみを除去することに成功,照射するX線量が同一の場合の密度分解能を従来に比べて最大40%向上し,一枚ごと画質向上を実現した。逆に従来と同等の画質であれば最大50%の被ばく量削減が可能で,高画質と被ばく低減の真の両立を実現している。微細な病変を捉える必要のある検査においてはこれまでと同じX線量で,通常の画質で十分な場合にはX線照射量を大幅に低減した撮影を可能にすることで,患者と担当医に最大限のメリットを提供する。
※ 密度分解能とは,どれほどX線吸収係数の差の小さいもの,大きさの小さいものまで区別して見えるかという性能を表現する能力。対象がX線吸収係数の差の大きな組織間の場合は「高コントラスト分解能」,逆X線吸収係数の差の小さな組織間の場合は「低コントラスト分解能」と呼ばれる
またLightSpeed VCT VISIONは,これまでの心臓撮影向けの先端技術を進化させ,さらなる画質安定化および効率性向上を実現している。
心臓撮影においては,不慮の心室期外収縮(PVC)※の発生時などに画質が不安定になるという課題があった。LightSpeed VCT VISIONは,従来比最大90%の被ばく低減と画質向上を両立させた「SnapShot Pulse(スナップショット・パルス)」をさらに進化させ,リアルタイムでのPVC対応を可能にする「SnapShot Pulse 2(スナップショット・パルス・ツー)」を搭載することでこれを克服,予期せぬPVCなどの際にも安定した高画質撮影を可能にし,心臓CT検査の適応をさらに広げている。
また同装置は,心拍の乱れや不整脈のある患者を撮影した際の画像再構成の効率を格段に向上させ,より迅速な診断を可能にする「ECG Editor 2(イーシージー・エディター・ツー)」を搭載。同技術は,不整脈や心拍の乱れがある場合でも,撮影後の画像再構築の際に,事前に撮影データが解析に適したものかどうかが判断できるため,従来画像再構成が難しかったケースでも撮影時の効率性を高めている。
※ 心室期外収縮(PVC)とは不整脈の一種で,正常な拍動が起きる前に,心室を起源とする異常な電気的活動の結果生じる余分な拍動のこと。頻度が高く,特に高齢者に多く見られる。ストレス,カフェイン摂取,飲酒,かぜ薬や枯草熱の治療薬の服用,ならびに冠動脈疾患(特に心臓発作の最中やその直後),心不全や心臓弁障害などの心室肥大をもたらす病気によって発生する。 |