GEヘルスケア・ジャパンは,MRエラストグラフィ技術を用いた新技術「MR Touch」の提供を開始し,2012年8月30日,帝国ホテル(東京都千代田区)で記者発表会を開催した。MR Touchは,体外から振動を与えることで発生する組織内の振動波を位相差として画像化し,MR画像で臓器や腫瘍の硬さを計測する新しい技術である。記者発表会では,同社代表取締役社長兼CEOの川上潤氏がGEのヘルスケア戦略におけるMR Touchの位置づけと製品の概要を,福岡大学医学部放射線医学教室主任教授の吉満研吾氏が,「慢性肝疾患の国内動向〜MRエラストグラフィの有用性と可能性」と題して,慢性肝疾患の現状とMR Touchの有用性について紹介した。
川上氏は,GEが進めているヘルシーマジネーションとSilver to Gold戦略について概説し,超高齢社会でより重要になる分野へソリューションを提供していく“ケアエリアフォーカス”の中で,肝臓疾患の画像診断は大きな領域のひとつだと述べた。MR Touchは,慢性肝疾患の早期診断や長期のモニタリングに有効で,“沈黙の臓器”といわれ高齢化によって長期のケアが必要になる肝臓疾患への重要なピースになると期待を述べた。
吉満氏は,慢性肝疾患の現状と,繊維化評価のゴールデンスタンダードである肝生検に替わる評価法としてのMRエラストグラフィ(MR Touch)の有用性について,7月から福岡大学病院でスタートしたMR Touchによる臨床画像を交えて講演した。
慢性肝障害は,90%がウイルス性肝炎で,そのほかの疾患としてアルコール性肝障害,非アルコール性脂肪肝炎(メタボリック症候群)などがある。発症の過程としては,肝実質の炎症・繊維化から始まり肝硬変から肝不全,肝細胞がんに至るが,この間を20〜30年かけて推移する。肝臓の繊維化は,ウイルスや内臓脂肪物質などによって徐々に進行し,軽症(F1)から中等度(F2-3)であればインターフェロンや抗ウイルス剤による治療が可能だが,重症(F4)では治療困難となる。そのため,肝繊維化の評価は生命予後の予測,治療効果判定のために意義が大きいが,評価法として確立されているのは経皮肝生検だけなのが現状だ。肝生検は確立された手法として,繊維化以外の情報も得られることが長所だが,侵襲的であり細径針を使用するためまれにサンプリングエラーなどが発生することがある。
MRエラストグラフィ(MRE)は,物体内を伝播する振動波を位相差として画像化し,MR画像から生体内臓器や腫瘍の硬度計測を可能にする。MR Touchは,MREの技術を用いて開発されたGEのMRI用のアプリケーションで,製品としては振動を発生させるアクティブドライバー,空気の振動を患者に伝えるパッシブドライバーで構成される。検査は,検査用コイルの下にパッシブドライバーを設置し息止めで15秒間振動させ,4スライスのデータ収集を行う。弾性波の振動をスピンの位相差へ変換して,弾性波を可視化した位相画像を作成,スピンの位相からボクセルごとの弾性率を測定して硬い部分を赤で表示した弾性率マップで臓器の硬さを判断する。
MR Touchでは,非侵襲的により広範囲の硬度を測定できることがメリットで,これまでの1.5T装置で発表されたデータでは高い再現性と正確性があり,肝臓の硬度が繊維化を正確に反映していることがわかっている。一方で,欠点として吉満氏は,測定法の標準化が未確立であること,3.0T装置でのデータがまだないことを挙げた。今後の展望として吉満氏は,肝生検の代用としてフォローアップでの使用,肝腫瘍の質的診断,さらに将来の期待として肝臓以外の領域(腎,膵,前立腺,乳腺,筋肉,脳,リンパ節など)への応用を挙げ,今後,多くの慢性肝疾患で検査を行いエビデンスを蓄積することで,MREが早期診断や治療のステージで貢献できるのではないかと述べた。 |