ホームinNavi SuiteGEヘルスケア・ジャパンAdvanced Report 肝臓MR Elastography ─本邦における臨床使用経験と今後の展望
healthymagination series 2011
Advanced Report No.6
第39回日本磁気共鳴医学会大会 イブニングセミナーES1
肝臓MR Elastography
─本邦における臨床使用経験と今後の展望
本杉宇太郎
山梨大学医学部放射線科助教
2000年山梨医科大学(現山梨大学医学部)卒業,同大学放射線科に入局。2007年同大学院。その後,埼玉医科大学国際医療センター病理学教室助教を経て,2009年より現職。 |
第39回日本磁気共鳴医学会大会が9月29日(木)〜10月1日(土)の3日間,リーガロイヤルホテル小倉(北九州市)にて開催された。29日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のイブニングセミナーES1では,Seoul National University College of Medicine, Seoul National University HospitalのJeong Min Lee氏と山梨大学医学部放射線科の本杉宇太郎氏が,「肝MRエラストグラフィ」をテーマに講演した。
肝の線維化は非常に長い時間をかけてゆっくりと進行し,多くの患者は肝硬変に至っても無症状である。そのため,何らかの医療介入をしなければ,早期に線維化を見つけることは困難である。しかし,原因さえ除去できれば,線維化が改善しうるのも事実である。そこで,本講演では肝線維化診断を目的としたMRエラストグラフィ(MRE,日本国内薬事未承認)の臨床使用経験について述べる。
■MRエラストグラフィの再現性
Hinesらは,異なる日にそれぞれ1回ずつMRエラストグラフィを施行し,MRエラストグラフィの再現性について検討した。その際,小さい方の値の37%を超える変化があれば,有意変化と言えると述べている1)。
図1は,初回の肝生検でF3と診断された慢性C型肝炎症例である。初回のMRエラストグラフィでは弾性率は3.8kPaであったが,その後,ペグインターフェロン・リバビリン併用療法を施行し,1年後に再度MRエラストグラフィを施行したところ,弾性率は2.7kPaにまで減少していた。これは,ウイルスが消失したことで線維化が改善していく過程をMRエラストグラフィがとらえたものと考えられる。
■MRエラストグラフィの診断能
MRエラストグラフィの診断能を検討するために,当院で組織学的な線維化スコアが確定した143例を対象に比較研究を行った。その結果,肝の線維化スコアの進行に伴い,弾性率が有意に上昇していることがわかった(図2)。ROC解析を行ったところ,F2以上の診断に最適なカットオフ値は3.0kPa,感度85%,特異度99%であった。線維化のステージごとのカットオフ値は図2のとおりで,当院ではこれを目安としている。
さらに,正診率について,血液検査の結果から線維化を予測する予測式2)との比較検討を行った。その結果,MRエラストグラフィの方が有意に高い診断能を有していることがわかった(図3)。
■日常臨床への応用
肝の線維化が進行すると,肝予備能が悪化していく。その結果,Gd-EOB-DTPAの取り込みが減少し,造影効果が不十分となる。Gd-EOB-DTPA造影MRIは非常に有用な検査ではあるが,ガドリニウムの量が少ないため平衡相が得られないなどの問題がある。肝細胞相にて十分な造影効果が得られないとなると,高コストなGd-EOB-DTPA造影MRI検査を行う意味はないが,造影剤の取り込みの有無を事前に予測することは困難である。
そこで,われわれはMRエラストグラフィにて肝細胞相の造影効果不良を予測できないかと考え,図4の条件にてChild-Pugh分類Aの118症例を対象に検討を行った。その際,肝脾コントラスト比(Liver-to-spleen contrast ratio:LSR)が1.5以下の場合は造影効果が不十分と定義した。検討項目は,MRエラストグラフィによる弾性率のほか,血液学的検査の結果なども加えてLSRと比較した。まず,LSRの分布を見ると,118例中16例で1.5を下回り,造影効果が不十分であった。LSRと各種パラメータとの比較では,いずれも有意な相関が認められた(図5)。不十分な造影効果を事前に予見できるかどうかという観点から多変量でロジスティック解析を行ったところ,有意差が認められたのはMRエラストグラフィのみであった(図5)。この結果から,肝の弾性率が1.0kPa高くなると,造影効果が不十分となる可能性が2倍高くなると解釈できる。
■肝がん発症リスク予測
肝の線維化が進行すると,肝がんの発症率が上昇するが,MRエラストグラフィにて弾性率を測定することで,肝がん発症リスクを予測できるのではないかと考えている。そこで,Case-control studyにて検討した。
対象は,HCC治療歴のない295症例で,2010年1月〜2011年1月に施行したMRIにて,66例に初発HCCが認められた(HCC発症群)。HCCを発症していない229例中66例を,HCC発症群と年齢分布をマッチさせてコントロール群とし,HCC発症群と比較した。多変量でロジスティック解析を行ったところ,肝がん発症リスクを予測する因子として,MRエラストグラフィにのみ有意差が認められた(図6)。肝の弾性率が1.0kPa上昇すると,肝がんの発症リスクは1.4倍になると解釈できる。
■食道静脈瘤発症の危険群の検出
門脈圧が亢進すると食道静脈瘤を発症する。食道静脈瘤のスクリーニングは内視鏡にて行われているが,初期の肝硬変では発見できないことも多いほか,侵襲的な検査であるため効率の良いスクリーニング方法とは言えない。そこで,MRエラストグラフィにて食道静脈瘤の危険群の検出が可能かどうかを検討した。
対象は,2011年3〜8月にMRIの位相コントラスト法が施行された慢性肝疾患279症例のうち,1年以内に上部内視鏡検査が施行された183例である。このうち,45例に治療が必要な高度な静脈瘤が見つかった。静脈瘤ありとなしの群を比較し,静脈瘤の危険因子について多変量でロジスティック解析を行ったところ,門脈血流速度とChild-Pugh分類については有意な相関が認められた(図7)。一方,肝の弾性率だけでは静脈瘤の危険性は予見できないとの結果だった。
実は,エラストグラフィにはピットフォールが存在する。エラストグラフィの弾性率は,線維化そのものを測定しているのではないため,血流やうっ血の影響により弾性率が高めに測定されてしまうことがありうるからである。
一方,それを逆手に取った研究をメイヨークリニックが行っている3),4)。薬剤性肝障害モデル犬の実験では,門脈圧が上昇し肝臓の弾性率は高くなるが,脾臓の弾性率も上昇しており,有意な相関が認められた4)。脾臓は線維化しないため,門脈圧の亢進を直接的に反映している可能性がある。
そこで,静脈瘤の危険性を予見するには,脾臓の方が適していると考え,当院の症例でも検討した。食道静脈瘤あり6例,なし31例について,肝臓と脾臓の弾性率を測定したところ,肝臓の弾性率については両者間に差はなかったが,脾臓の弾性率は静脈瘤ありの症例が有意に高かった(図8)。
■まとめ
MRエラストグラフィは,上述した以外にも抗ウイルス療法後の線維化のモニタリングや治療の予後予測など,応用範囲は広いと考えられる。MRエラストグラフィの臨床的有用性をより引き出すために,今後も検討を重ねていきたい。
●参考文献 | |
1) | Hines, C., Bley, T., Licdstrom, M., et al. : Repeatability of magnetic resonance elastography for quantification of hepatic stiffness. J. Magn. Reson. Imaging, 31, 725〜731, 2010. |
2) | Shin, W.G., Park, S.H., Jang, M.K., et al. : Asparate aminotransferase to platelet ratio fibrosis in chronic hepatitis B. Digestive and Liver Disease, 40・4, 267〜274, 2008. |
3) | Wamer, L., Yin, M., Glaser, K. J., et al. : Noninvasive in vivo assessment of renal tissue elasticity during graded renal ischemia using MR Elastography. Invest. Radioll., 46, 509〜514, 2011. |
4) | Nedredal, G. I., et al. : Portal hypertension correlates with splenic stiffness as measured with MR elastography. JMRI, 34, 79〜87, 2011. |