東芝メディカルシステムズ(株)は,「画論 The Best Image 2010」を,12月19日(日),東京ステーションコンファレンス(千代田区丸の内)で開催した。同イベントは東芝の製品で撮影された医用画像について,臨床的有用性や画像技術を審査するもので,1993年にスタートし18回目となる。今年は,2006年以来4年ぶりに“画論”の名称が復活した。今回は,CT,MR,超音波の3部門で,応募総数412件の中から選ばれた上位入賞の49件について審査を行い最優秀賞などを決定した。昨年から,当日の午前に各部門の上位入賞施設によるプレゼンテーションを行い,最終審査を経て最優秀賞などが発表されるスタイルとなった。審査の時間を利用する形で,東芝の各モダリティの最新事例を紹介する特別講演が行われた。3会場に分かれて行われたディスカッションでは,各部門の審査員を進行役に入賞施設が応募画像の臨床的な経過やテクニカルポイントをプレゼンテーションした。最終審査では,プレゼンテーションのテクニックや印象も採点の対象になることもあって,熱意のこもった発表と活発な質疑応答が見られた。
特別講演は,超音波が何森亜由美氏(癌研究会有明病院乳腺センター)による「乳癌画像診断 高分解能エコーでみえてくるもの〜それをどう診断するか」,CTが森谷浩史氏(仙台厚生病院放射線科)による「Aquilion ONEにおける最新技術と胸部領域の最新動向」,MRIが本谷啓太氏(杏林大学医学部放射線医学教室)による「Vantage Titan 3Tの初期臨床経験」が行われた。
超音波の何森氏は,高分解能の超音波診断装置によって,乳癌診断において従来のスクリーニングだけでなく,MRI後の精密検査や針生検や細胞診への適応の可能性について講演した。Aquilion ONEによる肺野の画像診断を中心に講演した森谷氏は,Wide Volume Scan,Dynamic Volume Scanの2つの撮影方法を紹介して,それぞれのポイントとADCTでのメリットを述べた。また,3T MRIの世界第1号機が稼働した杏林大学病院の本谷氏は,腹部や整形など体幹部の臨床画像を中心に初期の経験を報告し「1.5Tと同じワークフローで3Tならではの高分解能画像が得られる日常使いの3T MRIである」と述べた。
〈審査結果〉
上位入賞画像・表彰式では,優秀賞に入賞した施設と応募画像を紹介し,各部門の最優秀賞などが発表され,東芝メディカルシステムズの綱川 智代表取締役社長から賞状と記念品が授与された。今回は,超音波の血管部門で最優秀賞が2施設,MRIの1.5T部門で特別優秀賞が3施設となったほか,CTの心大血管部門は最優秀賞は受賞施設なしとなった。
主な受賞施設(症例名)と審査コメントを紹介する。
●超音波部門
[心臓部門・最優秀賞]
国立循環器病研究センター 橋本修治(心筋生検にともなった左冠動脈中隔枝損傷)
[血管部門・最優秀賞]
東邦大学医療センター大森病院 工藤岳秀(下大静脈瘤を疑うきわめて稀な1例)
関西電力病院 佐藤 洋(本態性血小板血症に発症した左頸動脈可動性血栓)
[腹部部門・最優秀賞]
成田赤十字病院 長谷川雄一(早期胃癌)
[表在部門・最優秀賞]
東京医科大学病院 河本敦夫(精巣表皮のう胞)
審査コメント◎
吉川氏は「審査するというより,応募作品や症例から多くのことを学ばせてもらっている。最優秀症例は,心臓移植症例で心筋バイオプシーを行った際に起こった中隔枝損傷を超音波でとらえた画像で,ごく限られた施設でしか経験し得ない症例であり,超音波診断の信頼性を高める作品だった」と評価した。松尾氏は,血管部門では例外として最優秀賞が2施設となったが,最後のプレゼンテーションも決め手となったと述べた。水口氏は,回を重ねるにつれ採点の基準が厳しくなっているが,それを上回る画像の応募が増えていると述べ,表在では整形や陰嚢・睾丸など高分解能を生かした検査や動きをリアルタイムでとらえる超音波の利点を生かした画像が増えており,対象領域が広がることに期待すると語った。金田氏は表在部門の最優秀賞の画像を例に挙げて,超音波装置自体の進歩で新しい知見が得られている,と評価した。
●CT部門
[1〜16列部門・最優秀賞]
医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院(顔面神経障害)
[32〜64列部門・最優秀賞]
公立刈田綜合病院(肺塞栓症)
[Aquilion ONE部門・最優秀賞]
藤田保健衛生大学病院(嚥下障害)
(心大血管部門は最優秀賞該当施設なし)
審査コメント◎
森山氏は,CTが成熟期に入り珍しい症例というだけではない,医療機関として各部門が協力して診断のための工夫が感じられる作品が増えた。Aquilion ONE部門の最優秀賞は,病態を高精細に描出するだけでなく,面検出器の特性を生かし時間軸を加えてCTで機能を診断する試みが評価されたことを紹介した。
片田氏は「危機感を持っている」と述べ,CTの応募数が減ったこと,応募作品全体に元気がなかったことを指摘した。片田氏は,画論での受賞がきっかけとなって標準的な検査法となっている例もあることを紹介して,新しい価値観を生み出すという気概を持って取り組んで欲しいと述べた。栗林氏は,審査のポイントは臨床的有用性と患者個々の病態にいかに寄与したかを主眼にしたと述べ,入賞画像は新生児,小児など若年齢の心疾患の画像診断が多かったが,それだけに被ばく低減が大きな課題で,さらなる注意や努力が必要であり,あと1歩の意識の向上を期待する意味で,最優秀賞は“該当なし”としたと述べた。
●MR部門
[1.5テスラ部門・特別優秀賞]
社会医療法人共愛会 戸畑共立病院(全身非造影MR Angiography)
医療法人顕正会 蓮田病院(尺側皮静脈血栓症)
JA岐阜厚生連揖斐厚生病院(上腸間膜静脈血栓症による小腸壊死)
審査コメント◎
MR部門は,今回1.5テスラ部門のみとなったが,応募数は昨年とほぼ同様となっている。似鳥氏は,特別優秀賞が3施設となったことについて,最後まで優劣がつかなかったとその理由を述べた。メーカー側が用意するさまざまなツールを使いこなして,臨床に直結するような工夫が見られたと講評した。大友氏は,画論での審査は,数年後のモダリティの方向性に対してメッセージを送っていることだと感じていると述べた。その意味で,全身の非造影MRA,FSBBの上肢への応用,小腸壊死の画像化は臨床的な意義が高いと評価した。扇氏は,東芝の装置でしかできない非造影やFSBBを使って,さらに新しい領域,新しい取り組みを行った受賞作品に賛辞を送り,「トライを続けること,変化し続けることが重要であり,来年も新しい変化を求め続けて欲しい」とエールを送った。
最後に,2010年7月に代表取締役社長に就任した綱川氏があいさつし,復活した“画論”のロゴについて,「“画”像は明解でクリアなもので,一方でそれを“論”じる時には自由闊達にのびのびと論じることが,この画論の精神だ」と述べて,臨床現場の声と東芝の持つ技術力や社員のスピリットをあわせて前進していきたいと述べた。
審査員は次の通り。
●超音波部門
吉川 純一氏(西宮渡辺心臓血管センター 院長)
竹中 克氏(東京大学医学部附属病院 検査部 講師)
松尾 汎氏(医療法人松尾クリニック・松尾血管超音波研究室 室長/藤田保健衛生大学 客員教授)
平井 都始子氏(奈良県立医科大学附属病院 中央内視鏡・超音波部 准教授)
水口 安則氏(国立がん研究センター中央病院 臨床検査部 医長)
金田 智氏(東京都済生会中央病院 放射線科 担当部長)
畠 二郎氏(川崎医科大学附属病院 検査診断学 内視鏡・超音波部門 教授)
●CT部門
森山 紀之氏(国立がん研究センターがん予防・検診研究センター センター長)
片田 和広氏(藤田保健衛生大学医学部 放射線医学教室 教授)
栗林 幸夫氏(慶應義塾大学医学部 放射線科学教室 教授)
吉岡 邦浩氏(岩手医科大学医学部 放射線医学講座 准教授)
辻岡 勝美氏(藤田保健衛生大学医療科学部 放射線学科 准教授)
八町 淳氏(長野赤十字病院中央放射線部 課長)
山口 隆義氏(北海道社会保険病院放射線部 副技師長)
●MR部門
似鳥 俊明氏(杏林大学医学部 放射線医学教室 教授)
大友 邦氏(東京大学大学院医学系研究科 放射線診断学 教授)
扇 和之氏(日本赤十字社医療センター放射線科 副部長) |