2010年11月30日(火),がん検診企業アクションの推進パートナー関係者を対象とした勉強会が,東京大学鉄門記念講堂にて行われた。勉強会では,同事業のアドバイザリーボード座長である中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科准教授/緩和ケア診療部長,厚生労働省がんに関する普及啓発懇談会座長)と,中川俊介氏(東京大学医学部附属病院女性外科副科長)が講演を行った。
「がん検診受診促進企業連携推進事業(呼称:がん検診企業アクション)」は,2007年6月策定の「がん対策推進基本計画」で掲げられた,5年以内にがん検診の受診率を50%以上とする,がん早期発見のための個別目標を受け,職域検診におけるがん検診受診率向上を目指してスタートした厚生労働省委託事業。2009年9月から活動に賛同・協力する団体・企業を「推進パートナー」として認定し,その活動をサポートしている。2010年11月30日現在,推進パートナーは305団体,総従業員数は116万人に上る。
最初に講演1として,中川恵一氏が,「がん検診後進国 日本」と題し講演を行った。まず,先進国の中で日本だけがんが増加していること,日本人の主な死因のうち,がんだけが右肩上がりを続けていることなど,わが国におけるがんの現状をグラフを示して述べ,がんの機序をわかりやすく解説した。そして,長寿国である日本はがん大国でもあることを認識することが必要とした上で,がんの治療はそれほど進歩しておらず,だからこそ予防と早期発見が重要であるとした。
さらに,近年は現役世代の女性に乳がんと子宮頸がんが増加しており,職場で問題となっていることを指摘。乳がんは,その成長速度から2年ごとの検診受診で,完治率の高い早期がんを見つけることができるとし,定期的な検診の重要性を訴えた。そして,医療費削減にもつながるがんの早期発見を目的とした,乳がん・子宮頸がん検診の無料クーポンを配布する事業や,2011年度予算の概算要求に大腸がん検診推進事業も盛り込まれていることを紹介した。
また,がん検診のさまざまな誤解について述べ,PET検診をがん検診として実施する場合の偽陰性の問題や,若年者への過度な検診による被ばくの増大,安易な余命告知などへの注意を喚起した。加えて,わが国のがんの特殊性として,過去に胃がんが多かったことから,がんの治療=外科手術という認識が浸透しており,放射線治療の有用性について一般だけでなく医師にもあまり知られていなかったとした。さらに,医用麻薬使用に対する誤解についても言及し,治療と同時に早期から緩和ケアを併用することが,生活の質を高め,生存期間を延長することをデータを示して説明した。
終わりに,日本人の生死観に触れ,老いや死が日常から切り離されている現代においては,死への実感がないため,がんについても知ることができないとし,がんを知ろうとする姿勢が大切であるとまとめた。
休憩を挟んで,中川俊介氏による講演2「子宮がん検診・乳がん検診の重要性」が行われた。まず,子宮がんの羅患・死亡に関する国内外の推移や現状,検診の受診状況について説明した上で,若年層に急増している子宮頸がんと,その主な原因である発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)について詳述した。特に最近は,子宮頸がんの中でも検診でわかりにくい腺がんが増加していることが問題となっているとし,2009年より接種が開始されたワクチン・サーバリックスについての接種方法などを解説,ワクチン接種とがん検診の併用の有効性を説いた。また,わが国では年齢が上がるにつれて子宮内膜症に関連した卵巣がんが増加しているとし,子宮がん検診とともに,子宮内膜症嚢胞(チョコレート嚢胞)の有無を併せて調べることも,婦人科検診においては重要であると強調した。
次に,増加し続けている乳がんは,運動不足や肥満が関係しているとも言われ,予防のために危険因子を知ることが必要だとした。そして,早期発見のための自己診断の有用性や,マンモグラフィ検査の実際,また,乳房温存手術が一般的となってきた乳がん手術について説明した。
講演後の質疑応答では,子宮頸がんのワクチン接種の適正年齢や治療,職域検診としてのPET検診についてなど,参加者から熱心に質問が寄せられた。また,がん検診受診率の低いパートナー企業からの受診率向上への相談には,受診率50%以上を達成しているパートナー企業にヒアリングを行い,情報を共有してはどうかといった提案がなされるなど,パートナー企業が抱える問題に対して具体的な方策が提示された。 |