厚生労働省委託事業のがん検診企業アクション事務局は,国民のがん検診の受診率50%をめざす国家プロジェクトである「がん検診受診促進企業連携推進事業(略称:がん検診企業アクション)」について,12月9日(水),マスメディア向けの説明会を開催した。
厚生労働省は,「がん対策推進基本計画(2007年閣議決定)」で2011年までにがん検診の受診率を50%以上にすることを目標に掲げている。その事業のひとつとして,企業でのがん検診受診率向上をめざし職域でのがん検診への理解と啓発を進めるために,厚生労働省から(株)電通が委託を受けて2009年7月に発足したのが「がん検診企業アクション」である。がん検診企業アクションでは,「推進パートナー制度」を設けて,がん検診受診率アップに取り組む企業を募集するほか,従業員のがん検診への意識の向上を図る小冊子「がん検診のススメ」の無料配布,ポスターやチラシの作成などで活動をサポートしていく。推進パートナー企業は現在20社(2009年12月9日現在,参画企業の詳細はhttp://www.gankenshin50.go.jp/partner/list.html)だが,2009年度末までに50社以上の参画を目標としている。
説明会で最初に挨拶した厚生労働省・健康局の上田博三局長は「がん検診受診率を2011年までに50%以上にする『がん対策推進基本計画』に国家戦略として取り組んでいるが,その達成のためには企業との連携が必要不可欠だ。このアクションプランが職域検診の受診率向上に繋がることを期待している」と述べた。
同事業のアドバイザリーボード座長で,厚労省のがんに関する普及啓発懇談会の座長を務める中川恵一氏(東京大学医学部附属病院准教授)は,がん検診の重要性について次のように述べた。
「日本では2人に1人ががんにかかり3人に1人が亡くなっている。がんによる死亡率は日本では増えているのに欧米では減っている。それはなぜか。日本のがん検診の受診率が欧米に比べて低いからだ。例えば,子宮頸がんは米国83.5%に対して日本は24.5%,乳がんはオランダ88.1%に対して23.8%しかない。がんの治療法は残念ながらこの25年間,大きな進歩をしているとはいえない。肺がんなどでは罹患率と死亡率の相関は変わっていないのが現実だ。がんで命を落とさないためには,予防と早期発見が重要であり,早期発見のためには定期的な検診が必要なことはいうまでもない。検診に対しては医療ができることは限られており,地域や職域での組織的で積極的な取り組みが重要になる」。
アクションプランに賛同して,がん検診推進パートナー企業となっているジョンソン・エンド・ジョンソン(株)と富士フイルムメディカル(株)からは,各企業でのがん検診への取り組み事例が紹介された。
ジョンソン・エンド・ジョンソンでは,職域での乳がん検診の受診率向上に企業が連携して取り組んでいる「乳がん検診推進企業ネットワーク(乳検ネット)」に参加して,3年間で20%以上の受診率向上を達成している。同社のデイビッド・W・パウエル氏(代表取締役社長)は「われわれの企業理念である『我が信条(Our Credo)』では,顧客についで従業員と地域社会を尊重すべきとしている。従業員の健康は企業の健康であり,乳検ネットの取り組みをフェーズ1として,次のレベルとしてアクションプランに取り組んでいく」と述べた。
富士フイルムメディカルで「社長特命がん検診プロジェクト」を担当し,今回の企業アクションのアドバイザリーボードも務める岡本昌也氏は「がん検診受診率は,対策基本計画がスタートしたにもかかわらず,向上しているとはいえない。がん対策基本法の周知やがんの知識を常識化して,がん検診を“自分事化”させることが必要だ。企業では,がん検診を“コスト”と考えるのではなく“投資”だと考えるべきだ」と重要性を強調した。
中川氏は「日本では死が隠蔽され,がんへの知識が遠ざけられていることが最大の問題だ。がんの治療にしても胃がんが多かった時代の手術中心の考え方が,乳がんや前立腺がんの治療方針の決定にも影響している。医療用麻薬の使用量が少ないことなど,日本は世界一のがん大国でありながらがん対策では後進国といわざるを得ない」と説明して,がんのみならず日本人の死生観を含めて幅広い教育,啓発が必要だと結んだ。 |