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取材報告

2010
医療情報学の歩みを振り返る学会長講演やIHEの活動を概説した大会長講演が行われる
─第30回医療情報学連合大会2日目

木村 通男 学会長(浜松医科大学)
木村 通男 学会長
(浜松医科大学)

安藤  裕 大会長(放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院)
安藤  裕 大会長
(放射線医学総合研究所
重粒子医科学センター病院)

A会場の共同企画6「地域領連携・情報連携が医療にもたらすもの」
A会場の共同企画6
「地域領連携・情報連携が医療にもたらすもの」

田辺 功 氏(医療ジャーナリスト)
田辺 功 氏
(医療ジャーナリスト)

高林克日己 氏(千葉大学)
高林克日己 氏
(千葉大学)

B会場のワークショップ6「保険医療の最適化と医療情報学の役割」
B会場のワークショップ6
「保険医療の最適化と医療情報学の役割」

ポスター会場でのプレゼンテーション
ポスター会場でのプレゼンテーション

パイパーデモの展示
パイパーデモの展示

大会企画「使える標準化チュートリアル&デモ」コーナー
大会企画
「使える標準化チュートリアル&デモ」コーナー

  第30回医療情報学連合大会(第11回日本医療情報学会学術大会)の2日目11月20日(土)は,特別講演のほか学会長講演,大会長講演が行われた。

  午前中には,A会場において,共同企画6「地域医療連携・情報連携が医療にもたらすもの」が行われた。セッションの共同企画団体は,第28回日本医学会総会。座長は,プログラム委員長でもある鳥取大学医学部附属病院医療情報部の近藤博史氏,長崎大学病院医療情報部の松本武浩氏が務めた。このセッションでは,まず静岡県版電子カルテシステムでの電子紹介状CDの運用経験について,公立森町病院の城崎俊典氏が発表した。城崎氏は,情報の標準化や異なるベンダー間での情報共有・連携がスムーズできるようになったことを評価しつつ,今後は補助金に頼らない受益者負担の地域運用型のデータセンターが必要になるとの課題を示した。続く2番目の発表では,静岡県立総合病院の法橋一生氏が,CD-Rを用いた放射線検査画像の施設間連携について,DICOMやIHEのPDIの問題点,ローマ字や半角カタカナの使用ルールなど運用時の留意点などを説明した。3番目の発表では,浦添市医師会の久保友一郎氏が,厚生労働省,経済産業省,総務省が2008年度から3年間かけて合同で行っている「健康情報活用基盤実証事業」について,糖尿病の疾病管理に関してのPHRサービスの概要を紹介した。

  この後,松本氏が4番目の発表として,長崎県の地域連携である「あじさいネット」の取り組みについて説明した。診療所の機能強化と教育効果を高めることを目的に2004年に始まった「あじさいネット」は,長崎県全体に広がりつつある。異なるベンダー間での地域連携システム同士を接続して,双方の患者情報を参照できるなど機能強化を進めており,介護や福祉も含めたより広域のネットワークにしていきたいと,松本氏は今後の展望を述べた。最後の演題は,厚生労働省医政局政策医療課医療技術情報推進室の野口貴史氏が,「遠隔医療に対する厚生労働省の取り組み」と題して,地域を問わず質の高い医療サービスを提供でき,医師不足対策などにもつながる遠隔医療を,厚生労働省として推進していくと説明した。この後行われたディスカッションでは,地域連携の推進役のあり方や,運用費用の負担について意見を交わした。

  この後A会場では,特別講演が行われた。演者は医療ジャーナリストで,元朝日新聞編集委員の田辺 功氏。座長は安藤 裕大会長(独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院)が務めた。田辺氏は,現在の医療崩壊と言われる状況は,無駄な費用であるとの考えから国策として医療費を削減したことによるものだと述べた。そして,その結果,医師数や初診料,検査料,手術料が欧米に比べ,5〜10倍も低い水準となり,結果的に品質を無視した医療になっていると言及した。また,田辺氏は医療を産業面からとらえ,未成熟産業であるとの見方を示した。その上で,病院産業を効率化するには,電子化,大型化・チェーン化,規制緩和・保険外収益が必要と述べた。これらを踏まえて,田辺氏は電子化により,医師の雑務を減らし,診療の効率化を図り,医療の質に応じた診療費を払う仕組みにすれば,医療危機を救うことができると力説した。

  A会場では,午後から学会長講演と大会長講演が行われた。学会長講演に先立って,「学会長からのお知らせ」と題した場が設けられ,木村通男学会長(浜松医科大学医療情報部)から,今後の学術集会の予定が発表された後,今年5月に逝去した元学会長の大島正光氏に対して,黙祷が捧げられた。このほか,木村学会長から,医療情報技師のポイントについて,新たに「医療情報学」への寄稿に対して付与されるなどの変更点が発表された。

  引き続き行われた学会長講演では,木村学会長が「医療情報の過去・現在・未来─Data, Information, Intelligence 第1回過去編」と題して講演した。座長は東京大学大学院情報学環・学際情報学府の山本隆一氏。木村学会長は,日本の医療情報システムは,1970年代の会計・在庫管理システムに始まると述べ,その後1984年に発足した日本医療情報学会や現在の連合大会の前進である「医療と生物学に関する情報学連合大会」について紹介した。さらに,木村会長は連合大会の演題数について,テーマ別の推移を示し,その傾向について解説した。また,木村学会長は,80年代はオーダリングシステム,90年代は電子カルテシステムが登場したと説明。その上で,これまでの医療情報の歩みについて,標準化などの状況について採点を行った。木村学会長は講演のまとめとして,広島に原爆が投下されたときに診療に当たった医師の診療録を例に出し,診療録というデータを残すことの重要性を示した。なお,木村学会長の学会長講演は,来年に現在編,再来年に未来編が行われる予定である。

  次いで,安藤大会長が大会長講演「連携と強調のために必要な標準化─IHEの意義と活動─」を行った。座長は近藤氏が務めた。安藤大会長は,IHEの経緯やコネクタソンなどの日本国内での活動内容について述べた。そして,IHEは米国・ヨーロッパなど世界各国で協調して活動しており,それは放射線業務以外の業務・領域に広がってきていると説明。また,地域連携においてもIHEはシステム構築に生かせるとし,医療機関が抱える業務シナリオの問題を改善する最良の方法がIHEであり,ITを用いて業務シナリオを改善することがIHE活動だとまとめた。

  このほか,A会場では,木村学会長が,学会の国際化を重要施策に掲げていることを受けて,大会企画チュートリアル「医療情報学における英語論文の書き方の秘訣」が行われた。チューターは,Methods of Information in MedicineMIM)誌のJapanese editorを務める千葉大学医学部附属病院医療情報部の高林克日己氏が,採択のポイントについて解説を行った。

  ほかの会場では,B会場においてワークショップ6「保険医療の最適化と医療情報学の役割」が行われた。このセッションでは,東京大学政策ビジョン研究センターの秋山昌範氏が座長を務め,徳島大学病院の森川富昭氏がDPCデータを活用した経営改善事例などを紹介した。

  また,企業展示が行われたイベントホールでは,ポスター会場とハイパーデモ会場も設けられ,発表時には聴衆の輪ができていた。ホール内には,「学びながら自分の目で確かめる標準化の現状」をテーマに,IHEの業務シナリオに沿ったシステム連携のデモを行う大会企画「使える標準化チュートリアル&デモ」コーナーも設けられた。このコーナーでは,IHE以外にも厚生労働省電子的診療情報交換推進事業(SS-MIX)のデモも行われた。

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●問い合わせ先
第30回医療情報学連合大会
事務局
独立行政法人放射線医学総合研究所
重粒子線医科学センター病院医療情報課
E-mail jcmi2010@e-rad.jp

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