保健医療情報学国際共同会議広島2009(CoMHI in Hiroshima 2009:The Collaborative Meetings on Health Informatics in Hiroshima 2009,以下CoMHI)が,11月21日(土)〜11月25日(水),広島国際会議場(広島市中区)ほかで開催された。大会長は石川 澄氏(広島大学病院医療情報部教授)。
CoMHIは,第29回医療情報学連合大会(第10回日本医療情報学会学術大会,以下JCMI)と国際医療情報学連盟IMIA-WG4(SiHIS)2009 workshop(大会長:石川氏,以下SiHIS),アジア太平洋医療情報学会2009(APAMI2009,大会長:木村通男氏・浜松医科大学医学部附属病院医療情報部教授,以下APAMI)が同時開催された保健医療情報学の国際共同会議。
CoMHIの全体テーマは「健康情報はみんなの財産−セキュリティ,サービス,そしてそのシンフォニーが支える医療のたゆまぬ進歩」。JCMIは,「世界の保健医療情報学の牽引者としての使命−質,安全,効率,満足の向上に,どのように寄与したか,寄与しなければならないか,寄与するか」,SiHISは「健康情報の信頼性−患者安全のためのセキュリティとシステム管理とは」,APAMIは「診療記録は何のため?」。
石川CoMHI大会長は,21日に行われたオープニングセレモニーで「コンピュータが医療に導入されて40年。医療情報に課せられた使命と責任はますます大きくなっている。時と人材,場を分かち合うことは研究の発展と人材の育成に大きな機会となる。今回の共同開催で国際交流が大きく広がることを期待している」とあいさつした。
21日には,まずSiHISが広島工業大学広島校舎でスタート。Opening LecturesとしてEike-Henner W. Kluge氏(University of Victoria)が「Ethical and Legal Challenges for Health Telematics in a Global World:Telehealth and the technological imperative」を講演した。
21日午後からJCMIのプログラムが先行して始まった。JCMIでは,大会を通じて他学会との共同企画が12題,シンポジウム7題,オーガナイズドセッション7題,ワークショップが13題,また,APAMI,SiHISとの共同で5つのCoMHI Joint Sessionが行われた。
21日には共同企画1「医療専門職における医療情報技術者のあり方〜医療情報技師とPACSスペシャリスト」が兵庫医科大学の宮本正喜氏と岡崎市民病院の奥田保男氏を座長に行われた。日本放射線技術学会との共同企画で,日放技が進めている専門技術職である「PACSスペシャリスト」の構想について,医療情報技師との関連を中心に発表と討議が行われた。医療情報に関する“ジェネラリスト”として養成が進められている医療情報技師に対して,各職種で専門的な知識・技術との関連をどうやって取っていくのかが課題となった。奥田氏は「これからの診療放射線技師には医療ITの基本的な技術,知識をベースとして,さらにDICOMなど画像に関する専門的な知識が要求される。PACSスペシャリストの受験要件に医療情報技師の資格を必須とすることで,根の部分をしっかりと根付かせて画像情報の大きな幹を育てるような資格にしていきたい」と述べた。医療情報の専門職種として看護師と薬剤師の立場から医療情報技術の必要性について指定発言があった。
JCMIの最初のシンポジウムは大会企画の「電子カルテ時代の院内文書マネジメント」。鳥取大学の桑田成規氏をオーガナイザーとして,座長は桑田氏と北里大学の村田晃一郎氏が務め,7つの発表が行われた。電子カルテが普及しても紹介状や同意書など病院内にはどうしても必要な紙文書が発生する。これらの紙文書をどうやって管理しシステムに取り込んでいくのかは今後ますます重要になる。シンポジウムでは,e-文書法に対応したスキャンシステムで紙をなくす,ファイルメーカーを活用して定型化した文書をバーコード付きで作成して署名後にスキャナでPDF化する,電子カルテを導入せず2号用紙をそのまま電子原本化する,などさまざまなスタイルの院内文書マネジメント法が紹介された。愛媛大学の木村映善氏からはIHE XDSプロファイルを活用する構想の一端が,大阪大学の松村泰志氏からは統合的文書管理システムDACSのコンセプトが紹介された。
また,21日には,医療情報標準化推進協議会(HELICS協議会),一般社団法人日本IHE協会,日本HL7協会がチュートリアルを行った。このうち,日本IHE協会は「IHE UPDATE2009」と題し,IHEの最新動向について報告を行った。代表理事で,普及推進委員会の安藤 裕氏が世界各国でのIHEの活動を説明したほか,各委員会の担当者から,新たに統合プロファイルが作成されたPCD(Patient Care Device)分野や,日本から生まれた内視鏡分野,放射線治療分野の業務シナリオが紹介された。また,RFP委員会の奥田保男氏がIHEを用いたシステム構築について,岡崎市民病院の例を交えて解説した。
22日には,APAMI2009もスタート。大会長の木村通男氏は「APAMIは3年に1回開催されているが,前回の台湾から今回は医療情報学会との共催で広島で開催することになった。APAMIに加盟する国々は人口の増加,業務過多の病院など同じような課題を抱えている。20を超える国と地域から150人以上の参加者を得ている。ここでのディスカッションがそれぞれが抱える課題へのサジェスチョンになることを期待している」とあいさつした。
最初のプログラムは大会企画「Grid and Cloud Computing for International Biomedical and Health Reserch」で,Yu-Chuan(Jack)Li氏(Taipei Medical Unversity)のオーガナイズで欧・米・アジア(台湾)でのグリッドコンピューティングによるバイオメディカル研究や医療情報の疫学的利用の現状と展望が講演された。
続いて,APAMI大会長企画として「What are the Medical Records for?」が行われた。最初に木村氏が広島の原爆投下後に爆心地から9km離れた診療所で,新型爆弾と知らずに多くの患者を診療した伴先生の診療録が発見されたエピソードを紹介した。この情報は結局ソビエト(当時)に知られることを嫌ったアメリカによって秘匿された。木村氏は“What is the medical records for?”と問いかけた。続いてAPAMIの各国(12か国)にアンケートした診療録の運用状況が紹介された。さらにアジアの中で唯一EHRを構築している香港から報告があった。
22日午後には,マイクロソフトとの企業共催セッション「組織、運用事例に垣間見る医療機関のIT戦略」が,大阪大学の松村泰志氏,東京医療保健大学の瀬戸僚馬氏を座長に開かれた。パネリストは成育医療センターの山野辺裕二氏,済生会熊本病院の松下龍之介氏,倉敷中央病院の藤川敏行氏とマイクロソフト。2007年からマイクロソフトのスポンサードで最先端の病院が集い医療現場のよりよいIT活用法を探るミーティングであるCHART(Connected Health A Round Table)が開かれているが,その成果をまとめた「医療機関におけるガバナンスの手引き」が刊行されたことを受けて,病院におけるIT導入の課題をディスカッションした。
次回は,第30回医療情報学連合大会(第11回日本医療情報学会学術大会)として,2010年11月19日(金)〜21日(日),安藤 裕氏(放射線医学総合研究所)を大会長として,アクトシティ浜松(静岡県浜松市)で開催の予定。テーマは,「連携と協調が創る,新たな医療−未来に向けたシステム基盤を考える」となっている。 |