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別冊付録

TOPICS

MRガイド下凍結治療の臨床応用開始
国立がん研究センターにおける今後の展望

荒井保明(国立がん研究センター中央病院副院長/放射線診断科科長)

荒井 保明 国立がん研究センター中央病院副院長/放射線診断科科長
荒井 保明
国立がん研究センター中央病院副院長/放射線診断科科長
1979年東京慈恵会医科大学卒業。同年,国立東京第二病院内科。 84年愛知県がんセンター放射線診断部。97年同センター放射線診断部部長。2004年国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院放射線診断部部長を経て,2010年より現職。

医療技術の進歩に伴い近年,治療の低侵襲化は大きな流れとなっている。こうした状況の中,2010年1月には凍結治療器(CryoHit:Galil Medical社製/日立メディコ社販売)が小径腎がんの経皮的治療および腹腔鏡下・開腹下手術に使用可能な装置として薬事承認された。さらに,2011年7月1日に,汎用冷凍手術ユニットを用いた小径腎がんの凍結治療(cryotherapy,cryosurgery)が保険収載され,いよいよ国内での臨床応用が本格的に始まろうとしている。そこで,凍結治療器と永久磁石型0.4TオープンMRI装置を導入した国立がん研究センター中央病院副院長/放射線診断科科長の荒井保明氏に,同院における冷凍治療の展望を中心にお話をうかがった。

凍結治療の保険収載と施設基準

─ CryoHitの薬事承認に続いて,1年半後に凍結治療が 保険収載されましたが,それについて率直なお考えをお聞かせください。

荒井:凍結治療は,海外ではすでに10年以上の歴史があることを考えると,今回わが国で保険収載されたことは喜ばしいことですが,日本国民がその恩恵を受けられるようになるまでにずいぶん長い時間がかかってしまったというのが正直な感想です。新しい医療機器や医薬品を導入するにあたっては,国民の健康を守るという観点から厳格な審査が当然必要ですが,医療機器は,あくまで診断や治療のための「道具」ですので,使い方や工夫,慣れでその用途が変化してきます。このため,対象疾患や臓器を厳密に限定することは初期の段階では大変難しく,余裕を持って考える必要があります。今回は腎がんに限定しての薬事承認となりましたが,凍結治療にはもっとさまざまな可能性がありますので,今後の展開として,適応を広げていく姿勢が重要だと思います。
施設基準も,新しい治療法を安全に行うために,ある程度は必要ですが,臨床現場での経験や状況に照らして適応を決めていくという,良い意味での医師の裁量が限定されすぎてしまうと,将来,多くの優秀な医師が新しい治療法に挑戦できないということが起こりかねません。そうした観点から考えると,今回の施設基準(表1)は臨床現場での判断を妨げるものではないので異論はありませんが,それ以外の施設にも十分な技量を持っている医師がおりますので,将来的には見直しも必要ではないかと思います。

表1 汎用冷凍手術ユニットを用いた小径腎悪性腫瘍治療の施設基準 (『「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」の 一部改訂について』より抜粋) 表1 汎用冷凍手術ユニットを用いた小径腎悪性腫瘍治療の施設基準
(『「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」の 一部改訂について』より抜粋)

国立がん研究センターが凍結治療を導入する意義

─ 凍結治療を最初に意識されたのはいつ頃でしょうか。

荒井:約20年前に,凍結治療のパイオニアであるGary Onik医師と知り合い,これは将来有望かもしれないと感じました。その後,10年ほど前からは経皮的治療によるさまざまな成果が聞かれるようになり,穿刺用の針も十分に細くなってきたので,治療器の薬事承認を機に凍結治療に取り組み始めたということです。
ただし,これは私の個人的な興味ではなく,国立がん研究センターの役割を考えたときに,凍結治療に取り組む必要があると判断したということです。薬事承認や保険収載にあたっては,行政がどれだけきちんと検証しても,必ずしもその判断が臨床現場に一致しないということがあります。そのようなときに,行政と臨床現場との間を埋めていくこともわれわれの役割だと認識しています。小径腎がんの凍結治療の評価はもとより,将来,肝臓や骨,前立腺などにも臨床応用可能となるよう戦略を立て,それを率先して行っていくことは私共の大事な使命です。
治療という観点から見ると,すでにさまざまな経皮的治療の道具がありますし,また手術についても,高い技量を持つ外科医が内視鏡下に手術を行った場合には,かなり低侵襲に行えることも事実です。一方,がん患者さんの中には完治しない方もおられるので,その場合には疼痛緩和が非常に重要となります。凍結治療は,低侵襲で治療時の痛みが少ないという大きなメリットがありますが,実は疼痛緩和という点でも相当効果の期待できることが,海外の文献からもわかっています。例えば,骨の転移や,骨盤内に痛みの強い腫瘍ができた場合,凍結治療は私が知る限り,特に低侵襲で痛みもなく,患者さんを楽にしてあげられる治療法です。その点では,ものすごく大きな武器を手に入れることができたと喜んでいます。

腎がん治療における凍結治療の位置付け

─ 腎がんの治療法における凍結治療の位置づけをどのようにお考えでしょうか。

荒井:根治をめざすことのできる場合は,現時点では開腹下または腹腔鏡下の腎摘出術が最優先となりますが,全身麻酔 のリスクや手術の侵襲は無視できません。一方,ラジオ波焼灼術(RFA)や凍結治療は,治療に適した大きさの腫瘍であれば治せる可能性も十分に高いのですが,まだ治療成績が手術と 同等とは言い切れませんし,出血などのリスクもあります。 他方,腎機能が低下している患者さん,あるいは全身麻酔が適応とならない高齢者などの場合には従来,根治を狙う治療法がなかったわけで,凍結治療やRFAは画期的な役割を担うことになります。
ただし,凍結治療とRFAは,実は両方とも適応が似ています。小径腎がんが対象となりますが,腎臓の中心部にある腫瘍は治療が困難です。どちらの治療法も原理は温度変化に依存していますので,血流によって熱が逃げてしまうヒートシンク効果(heat-sink effect)などがあると十分な焼灼や凍結ができないからです。また一般的に,治療時の痛みの程度は凍結治療の方がだいぶ楽なようですが,RFAでも痛み止めや硬膜外麻酔で十分にコントロール可能です。結局のところ,凍結治療とRFAのどちらが優れているかは現時点では不明なわけで,今後比較試験において検証する必要があるかもしれません。
実は腎がんに対するRFAについては,日本でも,私たちの臨床試験グループであるJIVROSG(Japan Interventional Radiology In Oncology Study Group:日本腫瘍IVR研究グループ)が高度医療評価制度として臨床試験を行っていたのですが,現在はこの試験が終了しているため施行できません。今回,凍結治療が保険収載されたことで,われわれとしては手術以外の治療法の選択肢が復活したことを嬉しく思っています。RFAの臨床試験も非常に結果が良かったので,近い将来,薬事承認されると思いますが,そうなると,凍結治療とRFAのどちらを選択するかという判断がいよいよ難しくなります。いずれにしても,より適切な治療を行うためには選択肢は多い方が良いですし,それぞれ特徴がありますので,患者さんをよく観察していくうちに,必然的に選択肢が絞り込まれていくかもしれません。

凍結治療におけるオープンMRIの有用性

国立がん研究センター中央病院に設置された凍結治療器と永久磁石型0.4TオープンMRI装置
国立がん研究センター中央病院に設置された凍結治療器と永久磁石型0.4TオープンMRI装置

─ 国立がん研究センターでは今回,凍結治療器と永久磁石型0.4TオープンMRI装置を導入されましたが,なぜ凍結治療の画像ガイドとしてMRIを選ばれたのでしょうか。

荒井:凍結治療のガイドにはMRI,CT,超音波が使用可能ですが,MRIでなければならないという考えはありません。ただ,超音波は安定感という面で,術者の技量によってバラツキが出ますので,同じ土俵で比較するならMRIとCTだと思います。どちらのモダリティにも利点と欠点がありますが,MRIでは磁性体が使用できないこと,CTでは放射線被ばくを伴うことが,大きな欠点として挙げられます。画質はどちらも良好ですが,特にMRIの場合,凍結領域,つまりアイスボールが明瞭に描出できるという利点があります。これは,どこまで焼灼できているのかがわかりづらいRFAに比べ,凍結治療の大きなメリットと言えます。
また,MRIの導入によって,画像の選択肢が増えたことそのものもメリットと言えます。将来的にはRFAや,さらに新しい治療法である“不可逆的エレクトロポーション(irreversible electroportion:IRE)”を,直接的なガイドは困難としても,中低磁場のオープンMRI装置と組み合わせて行う可能性はあるかもしれません。CTによる患者さんや術者の被ばくの問題を考えると,使い慣れればMRIに対する評価がこれまでと変わってくる可能性もあります。

─MRIには磁場強度も含めてさまざまな種類がありますが,なぜ中低磁場オープンMRI装置を選定されたのでしょうか。

荒井:IVRを行うことを考えると,事実上,オープンMRI以外の選択肢はありません。しかし,MRIについては,これだけさまざまな対策が取られているにもかかわらず,磁性体による事故が一向になくならないのが現状です。安全にIVRが行えることを絶対条件と考えると,磁場が高すぎることは決して好ましいとは言えません。こうした観点から,診断にも十分対応可能な画質を有し,すでに凍結治療で実績のある0.4TオープンMRI装置を選定しました。これをIVR専用エリアに設置し,凍結治療器は2台のIVR-CT装置,オープンMRIのどの装置でも使用できるようにしています。

国立がん研究センターにおける凍結治療の将来展望

国立がん研究センター中央病院における凍結治療の様子 7月下旬と8月上旬に,IVR-CTガイド下の凍結治療が2例施行された。右奥が凍結治療器,手前が患者さん。病変部にニードルを穿刺し,急速な凍結とゆるやかな解凍を繰り返すことで組織障害が得られる。
国立がん研究センター中央病院における凍結治療の様子
7月下旬と8月上旬に,IVR-CTガイド下の凍結治療が2例施行された。右奥が凍結治療器,手前が患者さん。病変部にニードルを穿刺し,急速な凍結とゆるやかな解凍を繰り返すことで組織障害が得られる。

─ いよいよ7月から小径腎がんの凍結治療の臨床応用がスタートしますが,今後のスケジュールをお聞かせください。

荒井:7月中に第1例目を施行し,少なくとも,最初は月に 1例以上のペースで行っていく予定です。まずは凍結治療に慣れることが先決ですので,最初の症例は超音波,IVR-CTにて行い,次の段階でオープンMRIガイド下に治療を行うことを考えています。オープンMRIでは,MR透視下に穿刺が可能なほか,被ばくがないので,術者にとっても患者さんにとってもストレスがありません。術者がガントリ内に手を入れたり,凍結する様子を経時的に観察することもできますので,その点ではCTに比べて圧倒的に有利です。ただし,穿刺のしやすさという点では超音波の方が行いやすく,われわれも慣れていますので,最初に超音波ガイド下に穿刺をしてから,MRIで観察するという方法も考えられます。MRI室に超音波診断装置を持ち込めるのは,中低磁場装置ならではのメリットです。
MRガイド下での穿刺は,私も含めてほとんどのスタッフが慣れていませんので,これはあくまでも構想ですが,非常に細いガイド用の針をまずは1本刺してみて,それを目安にして 2本目以降に凍結治療用の針を刺すという方法も考えています。その方が穿刺もはるかに簡単ですし,こうすることで最初からMRIだけで治療が行えるようになるかもしれません。

─ 最後に,凍結治療の将来性も含めて,国立がん研究センターにおける凍結治療の将来展望をお聞かせください。

荒井:凍結治療は,腎臓以外の臓器や疼痛緩和にも応用できますので,現在,高度医療評価制度の臨床試験のプロトコールを作成中です。遅くとも年内には臨床試験を始めたいと考えています。また当院の場合,凍結治療で一番期待されているのは,疼痛緩和です。治療は困難だが,がんによってもたらされる症状が辛いという患者さんはたくさんおられますから,そういった方たちへの治療が,今後増えていくのではないかと考えています。
凍結治療は,腫瘍の治療ということだけで見ると,コストの問題や簡便性,凍結用のガスを使用するための施設的な制限などもありますので,いますぐにRFAに取って代わることはないと思います。一方,疼痛緩和という観点から見ると,いまのところ,向かうところ敵なしとまでは言いませんが,かなり有望な治療法であることは間違いありません。10年後には,疼痛治療を目的に,ほぼすべての地域がん診療連携拠点病院に凍結治療器が導入されているのではないかと予想しています。その実現に向けて,法的な整備が少しでも速く進むよう,私も尽力していきたいと考えています。

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