ホーム inNavi Suite 日立メディコ 別冊付録 磁遊空間 Vol.23 第11回日本術中画像情報学会─「術中MRIとモニタリングの世界」をテーマに,学会として初開催
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第11回日本術中画像情報学会
「術中MRIとモニタリングの世界」をテーマに,学会として初開催
第11回日本術中画像情報学会が6月18日(土),名古屋大学医学部附属病院講堂を会場に開催された。本学会は,2010年までは日本脳神経外科術中画像研究会として開催されていたが,今年から学会に昇格し,「日本術中画像情報学会」として初めての開催となった。会長は,名古屋大学の水野正明氏が務め,「術中MRIとモニタリングの世界」をテーマに,特別演題4題,シンポジウム3セクション21題,特別講演,ランチョンセミナー,Work in Progress 4題が行われた。
特別講演では,カルガリー大学脳神経外科教授のGarnette Sutherland氏が,「Intra-operative MRI and Robotics in Neurosurgery」と題して講演。術中MRIと手術ロボットを用いた最先端の手術システムにおける脳神経外科手術の実際について報告した。
シンポジウムは,「術中血管内画像の世界」,「術中モニタリングの世界」,「術中MRIの世界」の3セクションが設けられた。「術中MRIの世界」では,吉田 純氏(中部ろうさい病院)と村垣善浩氏(東京女子医科大学)が座長を務め,術中MRIを導入している国内8施設からの報告と,ハーバード大学医学部で進められている,PET/CT,3T MRI,X-rayを用いたマルチモダリティイメージガイド下手術システム"AMIGO"プロジェクトの報告があった。
現在,国内では11施設で術中MRIが導入されており,このシンポジウムでは,そのほとんどの施設から発表が行われたことになる。シンポジウムでは,各施設における術中MRIの導入経緯や運用状況,成果,課題などが報告された。
2000年に国内で初めて術中MRIを導入し,11年が経過した東京女子医科大学からは村垣氏が,「神経膠腫に対する低磁場術中MRIを用いた情報誘導手術」と題して講演した。同院では,インテリジェント手術室における,解剖学的情報,機能学的情報,組織学的情報を併せた情報誘導手術の一環として,0.3TオープンMRI「AIRIS-U」を用いた術中MRIを導入し,2011年6月までに976例(約80%がglioma)を施術している。同院のMRIガイド下手術の特長は,きわめて正確なナビゲーションであり,例えば術前画像と術中画像を重ね合わせる際に,1.5T装置で撮像したり,surfaceマーカーや皮膚マーカーを使用しても3〜4mmの誤差が生じると言われているが,同院ではbornマーカーを用いることで,誤差をわずか0.84mmに抑えている。また,0.3T装置であっても,拡散強調画像(DWI)で錐体路の評価が可能であるなど,十分な画質が得られていると評価した。さらに,術中MRIの有用性の根拠として,同院ではgliomaの切除率が高く,生存期間の延長に寄与していることや,術中合併症の評価および事故予防などのリスクマネジメントを挙げた。一方,MRIで見えるがゆえの過剰・過小摘出の危険性を述べ,FLAIR撮像の必要性を示唆した。
次に,名古屋大学医学部附属病院の藤井正純氏が,「術中MRI―名古屋大学での経験―」と題して,2006年に同院に開設された術中MRI手術室“Brain THEATER"における脳神経外科手術の実際について報告した。同院では,0.4TオープンMRI「APERTO」を手術室内に設置し,撮像時には手術台を180°回転させてガントリ内に挿入することで,麻酔器を移動させることなくスムーズに撮像できていると説明した。また,中・低磁場オープンMRIのメリットとして,狭小な5ガウスライン,専用システムとしては比較的ローコストであること,覚醒下開頭手術との相性の良さなどを挙げた。さらに,藤井氏は,術中MRIの役割を手術の質と安全性の向上を図るための重要なツールであるとした上で,術中MRIの有無によるglioblastoma症例の2年後生存率のデータを提示。術中MRIなしの生存率が17%であるのに対し,術中MRIありでは42%と,有意に生存率が向上していると強調した。また,現在研究が行われている,術前画像を変形させてブレインシフトした画像に重ね合わせる技術“Reshape & Fuse”(変形フュージョン技術)を紹介し,こうした新しい技術が臨床応用されることで,術中MRIの可能性がさらに広がっていくと展望した。
このほか,Work in Progressでは,日立メディコ社が,「MRガイド下冷凍手術の実際」と題した発表を行い,凍結治療の機序や手法,MRIによるモニタリングの有用性,治験結果などを報告した。
次回の開催は,2012年7月7日(土),つくば国際会議場において,松村 明氏(筑波大学大学院脳神経機能制御医学)を会長に,「マルチモダリティー時代における術中画像情報」をテーマとして開催される予定である。
継 淳 氏 (東海大学) |
藤井正純 氏 (名古屋大学) |
中原紀元 氏 (名古屋セントラル病院) |
田中俊英 氏 (東京慈恵会医科大学) |
櫻田 香 氏 (山形大学) |
平野宏文 氏 (鹿児島大学) |
森田明夫 氏 (NTT関東病院) |
波多伸彦 氏 (ハーバード大学) |
今回,日本脳神経外科術中画像研究会から日本術中画像情報学会となって初めての大会でしたが,学会と研究会の大きな違いは,学術情報を発信する対象が格段に広がることだととらえています。門戸を広げて,より広い視野で,患者さんや一般市民に適切な知識や技術を提供し,より質の高い医療をめざすという役割が求められ,社会的責任が生じてくると思います。そういう意味での転換期に大会長を務めさせていただいたことは重責ではありましたが,良い経験をさせてもらったと感じています。
学会設立のお話しは2年くらい前から世話人会で取り上げられ,進められてきました。現在,全国展開できる内閣府のNPO法人格を申請準備中です。学会の事務局は,東京女子医科大学脳神経外科と名古屋大学医学部脳神経外科の2か所に置かれる予定になっています。 今回の学会のテーマは,「術中MRIとモニタリング」にしました。当初は「術中MRIの世界」を考えていたのですが,術中の情報が画像だけでなく,視野が広がってきたことを受け,モニタリングを加えました。「術中血管内画像の世界」「術中モニタリングの世界」「術中MRIの世界」の3つのシンポジウムを企画し,一般演題の応募をこれらのシンポジウムに振り分けて構成し,学会が発信すべきカテゴリーを明確にしました。幸い皆さんにご好評いただき,これからの学会の方向性を示す一定の指針が出せたと感じております。
なかでも,「術中MRIの世界」には力を入れました。術中画像は安全・安心な手術に大きく貢献しています。特に脳腫瘍の手術においては,術中MRIはほぼ必須のテクノロジーであり,これからの病院には基盤整備として必要だということを提言するねらいがありました。現在,術中MRIを行っているのは全国で11施設,そのうちの8施設が集合し,施設の現状,問題点,解決に向けた課題の3項目を中心に発表しました。最終的にはこの8施設を中心に,全国的な術中MRIのネットワークを作って,国内はもとより,国際的にも連携して活動していくことが決まりました。学会がきっかけになって作った新しいネットワークで,患者さんに対してより良い治療を提供していくという方向性が発信できました。これを機に,日本術中画像情報学会がますます発展していくことを願っています。
●問い合わせ先
名古屋大学医学部脳神経外科
第11回日本術中画像情報学会事務局
http://www.twmu.ac.jp/ABMES/FATS/ja/jgk2011