Vol.4 3T MRIによる脳神経画像診断の新しい展開 - 進化するMRI。新たなイメージング手法の確立に向けて。

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 第37 回日本神経放射線学会が2月14、15日の2日間にわたって開催された。14日のランチョンセミナーでは、岩手医科大学先端医療研究センターの佐々木真理氏が「3T MRI による脳神経画像診断の新しい展開」と題して講演し、3T MRI によって実現可能となった新しい撮像法について詳述した。 佐々木真理 氏
岩手医科大学
先端医療研究センター
准教授
佐々木真理 氏
井上 佑一 氏
大阪市立大学大学院
医学研究科
放射線医学教室
教授
井上 佑一 氏

 3T MRIでは、高いSNRにより空間分解能と時間分解能が向上するため、ルーチン検査において1.5T MRIと一線を画す高精細な画像が得られることが最大のメリットである。また、T1緩和時間の延長、磁化率効果の増加、化学シフトの増加などにより、さまざまな画像においてコントラストが向上する。そこで、3T MRIによって初めて可能となった撮像法や実用可能となった技術を中心に、5つのイメージング手法について紹介する。


会場風景


髄鞘イメージング

 中枢神経の髄鞘から直接NMR信号を検出することは、通常の撮像法ではほぼ不可能だが、プロトン密度、T1緩和、T2緩和を駆使することによって髄鞘以外の構造のコントラストを取得し、その影絵として髄鞘密度に依存するコントラストを得ることができる。特に、プロトン密度強調画像とSTIR像では明瞭であり、T2強調画像とSTIR像との比較では、脳内のコントラストがまったく違うことがわかる( 図1)。これは、STIRではプロトン密度、T1、T2緩和が、コントラストに相加的に作用する唯一の撮像法であることに基づいていると考えられる。

 STIR像は、髄鞘染色標本にきわめて近似したコントラストが得られる。海馬の複雑な三次元的構造をはじめ、1.5T MRIでは描出困難な黒質の特定、視床や視床下核、 腹側視床など、微細な深部灰白質や皮質内の構造をルーチン検査で得ることができる(図2)。STIRの3D撮像では、視床下核の三次元的な位置計測が可能で、パーキンソン病における深部脳刺激療法などのテーラードサージャリーへの応用が期待されている。脳腫瘍内部や周囲の血管もきわめて明瞭に描出できるため、微細病変の検出や早期診断、脳腫瘍の術前検査としても役立つと考えられる。

図1


図2

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神経メラニンイメージング

 神経メラニンは、黒質緻密部のドパミン作動性神経細胞や青斑核のノルアドレナリン作動性神経細胞の細胞体の中に存在する。この2つの神経核はパーキンソン病の主病変であるほか、アルツハイマー病では青斑核の神経細胞の変性が強く、うつ病におけるモノアミンの機能低下や統合失調症における中脳辺縁系のドパミンの過剰状態などにも深くかかわっている。

 神経メラニンは金属と結合すると常磁性体となり、主にT1短縮効果を持つ。1.5TMRIでは描出は困難であるが、3T MRIでは脳組織のT1緩和時間が延長するため信号が自然に低下し、条件を最適化したT1強調系の高解像画像を用いることで、コントラストをとらえることが可能となった。 図3では、上段の神経メラニンMRI画像は下段の肉眼標本と一致して、白い点状の 信号として青斑核が同定できる。また、黒質緻密部のドパミン作動性神経細胞も、肉眼標本と一致して、高信号域として認められる。

 神経メラニンイメージングは実質上、3T MRI で初めて可能になったイメージング手法であり、神経変性疾患の病変の可視化はもちろんのこと、精神疾患におけるカテコールアミン系の機能障害を間接的に計測することも可能であると考えている。

図3

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容積拡散イメージング

 3T MRIにおいて、拡散強調画像で高画質を得ることはかなり難しい。磁化率アーチファクトが非常に強いため、EPI によるアーチファクトが非常に強く、高いSNRによって空間分解能を向上させようとしても、1.5T MRI以上の高分解能を得るまでには至らない。特に、冠状断や矢状断では大幅な画質不良となる。

 そこでわれわれは、1.6mmの等方性容積データを数分で取得する手法を考案した。これは、1.6mmの薄いスライスによる2Dのacquisitionで、結果として1.6mmのアイソトロピックなボリュームデータが取得できる。これにより、部分容積効果の軽減や、頭蓋底近傍の画像歪みや磁化率アーチファクトの大幅な低減も可能になり、ボリュームデータならではの付加価値を持つこともできる。

 実際の、脳腫瘍患者の3方向のMPR像では、頭蓋底近傍の側頭葉や脳幹、小脳などの歪みが大幅に低減している( 図4)。また、color-coded axonographyやDTI tractographyも有用であるほか、近い将来、拡散強調画像を画像統計解析の対象にしていくことも可能になると期待している。

図4

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容積形態イメージング

 近年、GE社の“Cube”など、新しいタイプの3D FSEが登場している。これは、
hyperechoes技術を応用したもので、非常に大きなエコートレインでも短い実効TEが得られ、かつSARを大幅に減じて画質を保つ技術である。3DのT2強調画像およびFLAIR像の撮像が可能であり、T2強調画像では安定した信号が得られるためボケがなく、脳の細かい構造も明瞭に描出できる。また、FLAIR像では3D撮像によって広範囲が励起するため、頭部の撮像では脳脊髄液の流れ込みによるアーチファクトが抑制される。約1mm3のボクセルサイズで5〜8分で撮像できる。

 最近では神経メラニンMRIやSTIR、DWI、MRA、SWI も全脳ボリュームデータで撮像可能となっており(図5)、3T MRI では神経系イメージングはほとんどすべて容積形態イメージングに移行しうる。脳神経領域におけるMRI 検査は、3T MRI と洗練されたアプリケーションによって、大きなパラダイムシフトを迎えつつあると考えている。

図5

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位相イメージング

 位相イメージングとは、局所の位相変化や位相差を積極的に利用する手法であり、具体的にはT2*緩和と位相情報、局所の位相シフトを利用し、磁化率による信号変化を最大限に強調する磁化率強調画像SWI(研究用シーケンス)と、“IDEAL”(W.I.P.)という新しい技術がある。SWIによる撮像のポイントは、位相空間上のHamming window によるhigh pass filter であり、high pass filterの強弱の設定を変えることで画質が大きく変わるため、構造や病変に合わせてfilterを調整する必要がある(図6)。

 SWIでは、髄質静脈の描出が非常に良好であるほか、静脈性血管腫を非造影で描出できる。多発性硬化症では、脱髄斑の中央部を髄質静脈が走行している様子や、脱髄斑の種々の変化も明瞭にとらえることができる。SWIにより、多発性硬化症の画像診断はまた一歩、次のステージへと進むのではないかと予測している。

図6

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*第37 回日本脳神経放射線学会 GE 横河メディカルシステム ランチョンセミナー (2008 年2 月14 日)より抜粋

●お問い合わせ先
GE横河メディカルシステム株式会社
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
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