広島大学大学院医歯薬学総合研究科の北川知郎氏は、「マルチスライスCTの非石灰化冠動脈プラーク検出および性状診断への活用」と題して講演を行った。
同院では現在、GE社の64列MDCT「LightSpeed VCT」によって、1か月に40〜50例の心臓CTの撮影を行っている。撮影プロトコールは、管電圧/管電流:120kV/600〜750mA、スライス厚:0.625mm、管球回転速度:0.35秒/回転、ピッチファクタ:0.18〜0.24:1である。安静時心拍数が60を超える患者さんについては、ほぼ全例でβブロッカーを投与している。また、造影検査においてはテスト・インジェクション法を採用し、造影剤量は体重1kgあたり0.6〜0.7mLとし、テストショットを加えても、ほとんどの患者さんで造影剤投与量は50cc程度に抑えられている。
急性冠症候群(ACS)の予防においては、冠動脈狭窄率よりもむしろ、冠動脈プラークの性状診断が重要である。64列MDCTの登場は短時間に高画質な画像を得ることを可能にし、冠動脈プラークの性状評価に活用することが期待されている。そこで北川氏は、冠動脈疾患の疑いがある138名の患者さんを64列MDCTで撮影し、non-calcified
coronary atherosclerotic lesions(NCALs)のCT値やリモデリング・インデックスと、それに付随する石灰化病変の形態についてIVUSとの比較も含めて包括的に評価し、各因子の相関を調べた。
リモデリング・インデックスについては、血管径をトレースして病変部と正常近位部とを比較して算出し、1.05より大きければポジティブ・リモデリングとした。また、石灰化病変の形態はカルシウムのサイズで分類し、幅が血管径の2/3未満で長さが3/2以下であればSpotty、それを超えたものはDiffuse、その中間はMediumとして評価を行った。138名中97名に計202個のNCALs
が検出され、ポジティブ・リモデリングを呈する病変の方がよりCT値が低く、より脂質成分に富んでいるという結果が出た。石灰化病変については、ポジティブ・リモデリングを呈する病変のうち6割がより危険とされるSpottyを伴うほか、CT値はSpottyを伴う病変でより低く、リモデリング・インデックスはSpottyを伴う病変でより大きくなるという結果であった。これらの検討により、CT値、Spotty
calcium、ポジティブ・リモデリングは相互に深く関連していることがわかった(図5、6)。
次に、98名の連続症例を対象としたACS症例における検討結果が報告された。内訳はACSが18名、non-ACSが80名であり、それぞれ57個、163個、計220個のNCALsが検出された。1患者あたりのNCALsの数はACS群の方が有意に多いほか、約半数でCT値が有意に低く、ポジティブ・リモデリングを呈し、Spotty
calciumを伴っているという、3つのリスクをすべて備えていた(図7)。また、ACSの責任病変でより高度なポジティブ・リモデリングを呈していた(図8)。
北川氏はこれらの結果を踏まえ、MDCTはACSの発症予測に有用である可能性が高いとの考えを示した。
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