稲富信之技師
両手同時撮像のために作成された固定器具とバンド。
バンドは,固定しても被検者に痛みがないようにするため,ネオプレインを素材に採用した。
フットスイッチ。
ちょうつがいにも被磁性体のものを使用している。両手が自由にならないため,被検者にはフットスイッチの使い方を十分説明することが,安心感を与えることにつながる。
|
長崎大学医学部・歯学部附属病院放射線科では,厚生労働科学研究「関節リウマチの早期診断法の確立及び臨床経過の予測に関する研究」(主任研究者・江口勝美長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・制御講座教授/病院長)において,早期関節リウマチの診断基準づくりのためのMR画像診断に取り組んでいる。これは,「関節リウマチにおける骨変化に関する研究:MRIとX線所見の比較」という研究目的で,分担研究者である上谷雅孝教授の下,行われている。研究方法は,関節痛を発症した症例を対象に,両手を同時にMRIで撮像し,関節リウマチと確定診断された症例を対象に,単純X線撮影で経過観察を行う。
両手同時にMRIを撮像するという検査方法は国内でも非常に少なく,ほとんどの施設で片手ずつで行っていると上谷教授は説明する。両手同時に撮像する理由は,1回の検査ですむため,造影剤量が少なく,被検者の負担を軽減することができるほか,位置ズレを防げることが挙げられる。撮像には膝用のコイルを使用し,木製の専用固定具の両面に左右の手のひらを密着させ,ネオプレインという素材でできたバンドで固定する。当初は紙を両手で挟むようにして撮像していたが,不安定だったのでこの方法が考案された。固定具とバンドを独自に作成した放射線部の稲富信之技師は,ホームセンターで材料を探し求めたという。
「ダイナミックMRIでは,撮像時間が2分30秒にも及ぶため,被検者の方が緊張して手の位置がずれてしまいやすくなります。上谷教授からも,両手の位置ズレがあったり,手が浮いてしまうという指摘があったことから,固定具とバンドを作成することにしました。製作にあたっては,被検者の手掌の長さと高さを測定してデータを集めました。また,素材選びでは,磁石を持ってホームセンターに行き,非磁性体のものを探しました」
撮像に際しては,テーブル上で仰臥位になった被検者の足首から22G留置針でルート確保を行う。その後,被検者に側臥位になってもらい固定具とバンドで両手を固定し,コイルの中心部にセッティングする。T1強調横断像,STIR冠状断像を造影前に撮像した上で,造影剤0.2mL/kgを2.5mL/秒で注入し,50mLの生理食塩水でフラッシュする。撮像は1フェーズ4.4秒で,150秒間行う。検査時間は20〜30分程度である。
この検査法により,位置ズレのない撮像ができるようになったが,被検者は固定具とバンドで両手が固定されてしまうため,気分が悪くなったときなどにナースコールのボタンを押すことができない。そこで放射線部では,フットスイッチタイプのナースコールボタンを自作した。撮像時には,被検者が事前にフットスイッチを押すテストを行うことにしている。これにより,被検者が安心して検査に臨めるようになった。
同院では,これまで250例にこの検査法を行ってきた。3T MRIでは両手撮像専用コイルが開発されるとのことで,より精度の高い画像が得られることが期待されている。
|
Signa HDx 1.5T本体とコンソール。
骨軟部領域の検査は週2日検査枠を用意し,放射線科医が立ち会って行われる。 |
|