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単純X線写真がすべての基本になる
骨軟部疾患の画像診断 |
骨軟部領域は、肩、脊椎、股関節、膝などの関節、四肢や体幹部といったように多くの部位が対象となり、疾患別に見ても良・悪性の軟部腫瘍・骨腫瘍や感染症、外傷、先天性奇形など多岐にわたります。骨軟部領域の画像診断では、病変を見つけ出すという目的が第一にありますが、例えば腫瘍のひろがりや進展度を見たり、化学療法や放射線治療の効果判定、整形外科手術の術前診断なども重要な位置づけとなっています。ですから、画像診断を行う上では、部位や疾患、検査の目的を十分理解しておく必要があります。加えて、骨軟部疾患は画像だけで診断がつくわけではありませんので、病理医や整形外科、リウマチ科といった診療科の医師とのコミュニケーションをとることが非常に大事です。さらに、いろいろなモダリティを使って、総合的な画像診断を行うことが求められるため、診療放射線技師との協力体制を確立することも重要です。骨軟部領域は広い視野を持って診断にあたる姿勢が必要です。
画像診断では、単純X線撮影がファーストチョイスとなります。骨や関節の疾患に関しては、単純X線写真でないと重要な所見を見落とす可能性があるのです。単純X線写真は、石灰化や骨の情報を得ることはもちろん、撮影範囲が広いことから、病変の全体像を把握することができます。特に、骨腫瘍の同定や質的診断には病理よりも正確なこともあり、単純X線撮影は必須だと思います。しかし最近では、単純X線写真が読影できない放射線科医が増えていますし、特に骨や関節が読影できないことも問題になっています。これは日本の医学教育や臨床現場のシステム上の問題なのかもしれませんが、私は単純X線写真をきちんと読影した上で、CTやMRIでの診断を行うべきだと考えます。私自身、1979年に米国のクリーブランドクリニックに留学した際、骨や軟骨の単純X線写真の読影を毎日行い、良い勉強をさせてもらいましたし、その面白さにも気付かされました。ですから長崎大学では、放射線科医が必ず単純X線写真の読影を行うようにして、特定の領域に偏らないゼネラル・ラジオロジストの育成に取り組んでいます。
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軟部組織の画像化など
単純X線写真を補うMRI |
骨軟部疾患では、まず単純X線写真が基本ですが、それだけでは診断がつかない疾患も数多くあります。それを補うのがMRIです。CTの場合は、得られる情報が単純X線写真と重なる部分が多いのですが、MRIは単純X線写真ではわからない軟部組織、軟骨、靱帯や半月板などに関する情報を得ることができます。さらに骨髄の情報も、MRIでなければわかりません。MRIが臨床現場に登場したころからすでに骨軟部疾患での有用性は明らかでしたが、近年、装置の高磁場化が進み、解像度が非常に上がったことに加え、撮像時間の短縮化も図られ、ますますMRIのメリットは大きくなっていると思います。
私自身が力を入れて取り組んでいる関節領域のMRIでは、変形性関節症の早期診断、治療効果判定、術前評価への応用が期待されています。わが国の場合、高齢化が進んだことで、変形性関節症の罹患率が増加しています。この疾患は軟骨の変性、摩耗が主な因子となっていますが、薬剤治療や手術などの治療を選択するための診断や、治療後の評価にMRIを用います。このような診断は従来、関節鏡に頼らざるを得ませんでした。関節鏡は侵襲性の高い検査ですが、関節の表面しか見ることができず、質的な変化もとらえることができません。私たちは今、膝蓋骨の高分解能MRIを撮って、関節鏡の所見との相関を検討していますが、高分解能のMRIを撮像することで、軟骨の変性が非侵襲的かつ早期にどこまでとらえられるか楽しみです。
一方、解像度を追究する方向だけではなく、軟骨の質的な変化を調べることも有用です。イオン性のガドリニウム造影剤を使用し、軟骨にたくさん含まれるプロテオグリカンが減少すると造影剤が取り込まれるという性質を利用して軟骨の変性を見たり、軟骨のT2値の変化をとらえることもできます。
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3T MRIで何が見えるか
軟骨変性と骨構造との関係解明に期待 |
3T MRIでは、高いS/Nにより高分解能の画像が得られ、軟骨の変性で生じる微細な形態異常を描出できる可能性があります。また、海綿骨の骨変化もわかれば、軟骨変性と骨構造との関連の解明が期待できます。
一方、3T MRIは、軟骨の質的な変化の評価にも有用です。MR Spectroscopy(MRS)がより実用的になり、化学組成の変化をより確実に見ることができます。当院では、これまでのプロトンに加えて、ナトリウムのMRSを検討しています。
しかし、3T MRIにも限界はあります。病理画像を超える解像度は望めないでしょう。骨軟部領域では、病理学的診断は欠かせないもので、3T
MRIが登場しても、両者で補い合いながら診断していくことが大切です。
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関節リウマチの早期診断に向け
撮像法と読影の標準化をめざす |
長崎大学医学部・歯学部附属病院では、関節リウマチの画像診断にも取り組んでおり、他施設に比べ多くの症例を扱っています。これは、当院の江口勝美第一内科教授が主任研究者を務める厚生労働科学研究「関節リウマチの早期診断法の確立及び臨床経過の予測に関する研究」において、関節リウマチの早期診断、予防、判定でのMRIの有用性を研究しているからです。
関節リウマチの診断は、ACR(American College of Rheuma-tology)の診断基準に基づいて行われることが多いのですが、その中で単純X線写真による診断も項目に挙げられています。しかし、これはある程度進行した関節リウマチに対して有効であって、早期の段階では診断が難しいという問題があります。関節リウマチの診断基準に当てはまらない早期の診断をMRIで行うのが、本研究の目的の1つです。当院では、造影剤を使用して両手・指のMRIを同時に撮像しており、これにより関節リウマチの症状である滑膜炎を早い段階でとらえることができるようになりました。同時に骨髄浮腫といった骨の変化を描出でき、MRIが早期診断に有用であることがわかってきました。さらに、造影剤を使用しない簡略化した撮像法や薬物療法の効果判定についても検討し、撮像法の標準化だけでなく、診断の基準となるような読影の標準化にも取り組んでいきたいと思います。
今後は、3T MRIが関節リウマチの診断にどこまで応用していけるかについても検討していきたいと考えています。関節リウマチでの軟骨の変性や損傷がどのような過程で起こるのかがまだわかっていないのですが、3T
MRIで高分解能の画像が得られれば、それが明らかになってくるものと期待されています。
骨軟部領域のMRIは頭部、脊椎に次いで検査が多い分野です。現状ではマンパワー不足であり、もっとこの領域の専門家を増やしていかなければなりません。私自身は米国留学時に、カリフォルニア大学放射線科のドナルド・レズニック教授の“Diagnosis
of Bone and Joint Disorders”という教科書に出会い、大変感銘を受け、この領域に進むことを決意しました。今後は、レズニック教授にならって、骨軟部疾患に興味を持ってもらえるよう、若い力を育てていきたいと思います。
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上谷雅孝先生
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科放射線生命科学講座放射線診断治療学教授
1981年長崎大学医学部卒業。同年6月長崎大学医学部放射線科入局。87年米国オハイオ州クリーブランドクリニック留学。89年から長崎市立成人病センター放射線科部長。91年から長崎大学医学部附属病院助手、講師を経て、98年長崎大学医学部(大学院)助教授となり、2004年から現職。
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