2018-8-30
10回目を迎えたSOMATOM Symposium 2018
シーメンスヘルスケア(株)は2018年8月25日(土),TKPガーデンシティ品川(東京都港区)において,同社CT装置の最先端技術と臨床応用などを報告する「SOMATOM Symposium 2018」を開催した。本シンポジウムは,2009年にDual Source CT(DSCT)をテーマとした「Definition Symposium」としてスタートし,2014年からはSingle Source CT,DSCTそれぞれの最新動向を報告する「SOMATOM Symposium」となり,今回で10回目を迎えた。2013年から行われてきた画像コンテスト「CT Image Contest Japanese Edition」はいったん休止して講演発表を充実させたほか,講演会場のほかに展示会場を設けてマルチモダリティの展示が行われた。また,モデレータも,過去9回務めた内藤博昭氏(日生病院)に代わり,今回は今井 裕氏(東海大学)が務めた。会場には全国から約350名のユーザーが参加し,盛況だった。
|
|
開会に当たり,挨拶に立ったモデレータの今井氏は,この10年のCT装置の変遷の中で,シーメンス社がDSCTやDual Energy CT(DECT)という新しい概念を生み出したことや,CTの性能・機能の向上はもとより,他のモダリティや治療との連携に重点を置いた開発を行ってきたことなどを高く評価。本シンポジウムの内容も,同社の最先端の開発動向から,治療や複数の領域における臨床応用まで幅広く取り上げられており,将来の画像診断について,参加者とともに考えていきたいと述べた。
|
シンポジウムは,5つのセッションでプログラムが組まれ,全部で9講演が行われた。
SessionⅠ「Innovative Trends in CT」は今井氏が座長を務め,Paul Jamous氏(Siemens Healthineers)が,「Artificial Intelligence〜Current Status and Future Perspective」と題して講演した。現在,医療の分野においても活発な研究開発が行われている人工知能(AI)について,深層学習(deep learning)やビッグデータの重要性,AIが医療のさまざまな分野に与えるインパクトなどを概説。その上で,AIを応用した同社の技術開発の動向について,患者のポジショニングや画像解析,読影補助などへの応用を例に挙げて紹介し,個別化医療への貢献の可能性などを示唆した。
|
SessionⅡ「Maximize the Synergy of CT-related System」は,的場宗孝氏(金沢医科大学)が座長を務め,CTと他のモダリティとの連携をテーマに3演題が組まれた。
東原大樹氏(大阪大学)は,「Precise Intervention with Latest IVR-CT system」と題して,同院で2018年3月から稼働しているスライディングガントリ方式のIVR-CT「Artis Q for IVR-CT system “MIYABI”」について報告した。本システムの特長のほか,肝細胞がんに対する肝動脈化学塞栓術(TACE)におけるEmbolizationガイダンスや,CT透視下生検,凍結療法などにおけるIVR-CTの有用性が,実際の症例を踏まえて紹介された。
岩井俊憲氏(横浜市立大学)は,「New 3D Mapping of Sentinel Lymph Node in Oral Cancer」と題して講演した。同院では,早期口腔がんの部分切除にセンチネルリンパ節生検(SLNB)を組み合わせることで良好な成績を得られているが,従来のSLN同定法である色素法やradioisotope(RI)法には課題も多く,新たな手法が求められている。そこで,同院では,CT lymphography(CTL)を用いた新しいSLN同定法の確立をテーマに研究が行われており,講演では口腔がんのSLN同定に最適な造影タイミングに関する検討結果が報告された。
加茂前 健氏(名古屋大学)は,「New Dedicated CT System for Radiotherapy Treatment Planning」と題して講演した。放射線治療部門におけるCT装置の役割と求められる精度を踏まえた上で,同院で稼働している「SOMATOM Confidence RT Pro」の特長や精度検証などが紹介されたほか,本装置に搭載された金属アーチファクト低減技術“iMAR”や,新たな画像再構成技術“DirectDensity”が放射線治療計画にもたらす有用性が示された。
|
||
|
|
|
SessionⅢ「Robust performance of Dual Source CT for Cardiac Imaging」では,平野雅春氏(東京医科大学)が座長を務め,2名の演者が循環器領域におけるDSCTの有用性を報告した。
後藤義崇氏(三重大学)は,「Comprehensive Cardiac study for Appropriate PCI」と題して講演した。冠動脈CTは,質の高い解剖学的な評価が可能なほか,冠動脈疾患の陰性適中率が高いという特長があり,経皮的冠動脈形成術(PCI)にも貢献する。一方,冠動脈CTでは,PCIの適応判断に重要な虚血の評価が十分に行えないなど限界もある。同院では,非侵襲的虚血診断は主にMRIにて行ってきたが,近年,DSCTを用いた包括的心臓CT検査の割合が徐々に増加しており,講演ではその具体的な方法や有用性などが症例を踏まえて紹介された。
井口信雄氏(榊原記念病院)は,「Pre Operative Precise information for Structural Heart Disease」と題して講演した。Structural Heart Disease(SHD)のうち,大動脈弁閉鎖不全症の大動脈弁形成術,閉塞性肥大型心筋症のmyectomy,僧帽弁閉鎖不全症のMitraClipを用いた経皮的僧帽弁形成術の3つを挙げ,それぞれの適応判断や疾患の機序の解明などの術前評価と正確な計測,および術後評価などにおける心臓CT検査の有用性について,実際の症例を提示して詳述した。
|
|
|
SessionⅣ「New performance of Dual Energy CT for Precision Medicine」は,髙橋 哲氏(高槻病院)が座長を務め,2名の演者がDual Energyをテーマに報告した。
後閑武彦氏(昭和大学)は,「Highlighting Dual Energy CT in Abdominal Emergency」と題し,腹部救急におけるDECTをテーマに講演した。仮想単純画像,ヨードマップ画像,仮想単色X線画像を挙げ,実際の症例でそれぞれの画像の特長を紹介。DECTは,腹部救急のCT診断において補助診断として有用であるとまとめた。
朝比奈昭彦氏(東京慈恵会医科大学)は,「Promising Approach for Managing Psoriatic Arthritis(乾癬性関節炎をマネージするための有望なアプローチ)」と題して講演した。乾癬性関節炎は重症化しやすく,6か月以上の診断の遅れが機能障害につながる可能性がある。CTは,他のモダリティと比較して乾癬性関節炎の診断に有用であり,DECTのヨードマップを用いることで,CTの高い空間分解能を維持しつつ濃度分解能を高めることが可能となる。本講演ではDECTが乾癬性関節炎の早期検出に有用であることが,多くの症例画像により紹介された。
|
|
|
シンポジウム最後のSessionⅤ「Technology Innovations of SOMATOM CT」も,同じく髙橋氏が座長を務め,伊藤俊英氏(シーメンスヘルスケア)が「Embarking on A New Era of Computed Tomography — Spectral-shaping, Quantification, and Counting」と題して講演した。同社が開発したTinフィルタは,X線スペクトルの高エネルギー化と狭帯域化を実現する技術であり,Tinフィルタ搭載のDECTではK吸収端に頼ることなく複数の組成の分離・定量解析が可能である。また,同社が現在開発中のフォトンカウンティングCTは,低線量撮影や高分解能撮影に有利な一方,計測データに非線形のエラーが含まれるため,定量性などに課題が多い。伊藤氏は,それぞれの技術的特徴を詳細に解説した上で,SOMATOM CTに共通した設計思想は精密な「計測機器」としてCTスキャナを開発することであるとし,その思想は次世代CTとして期待されているフォトンカウンティングCTにも継承されているとまとめた。
|
今回,講演会場のほかに展示会場が設けられ,CT・Radiation Oncology,MRI,Imaging IT,Angiography,Ultrasound,Point of Care(血液ガス分析装置,血液凝固分析装置)のプレゼンテーションブースの設置や機器展示が行われた。講演の合間には多くの参加者が足を運び,会場は熱気にあふれていた。
|
|
●お問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
TEL 0120-041-387
www.healthcare.siemens.co.jp