2017-10-18
「i 知の創出 ―脳科学の近未来―」をテーマに開催
日本脳神経外科学会第76回学術総会が,2017年10月12日(木)〜14日(土)の3日間にわたり,名古屋国際会議場(愛知県名古屋市)にて開催された。若林俊彦会長(名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科教授)の下,「i 知の創出 ―脳科学の近未来―」をメインタイトルに,特別企画(5題6部),文化講演(2題),学術講演(3題),教育講演(2題),シンポジウム(24題)など,多彩なプログラムが企画された。このうち特別企画では,メインタイトルである「i 知の創出」を冠したシンポジウムが5題設けられ,「グローバル化」「知性の結集」「創造・想像する」「技術革新・近未来」「統合化」のテーマで最新情報の共有と討論が行われた。メーカー共催のセミナー(スポンサードシンポジウム,ランチョンセミナー,アフタヌーンセミナー)も36題設けられ,会場内2か所の機器展示会場では最新の手術関連機器などが展示された。
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初日(12日)には,アフタヌーンセミナー「近未来統合型超スマート手術室開発の将来」(日立製作所共催)が開催された。座長は伊関 洋氏(東京女子医科大学先端生命医科学研究所/早稲田大学理工学術院先進理工学研究科)と有田和徳氏(鹿児島大学病院脳神経外科)が務め,5題の発表が行われた。脳腫瘍手術中にMRIを撮像して手技を支援する術中MRIは,国内では2000年に東京女子医科大学と滋賀医科大学が導入してから17年が経過し,現在は全国の医療機関で臨床応用され,エビデンスの蓄積が進んでいる。セミナーでは,日立社製の永久磁石型オープンMRIを術中MRIとして用いている施設からの報告や,5大学12企業が参加するスマート治療室“SCOT”プロジェクトの現況と今後についての発表が行われた。
1題目は,長我部信行氏(日立製作所ヘルスケアビジネスユニット)が「日立ヘルスケアの取り組みと展望」と題して発表した。日立は,東京女子医科大学をはじめとした医療機関に,術中MRIとして同社独自のオープンMRIを提供している。長我部氏は,日立のスマート手術室への取り組みを説明した上で,“超スマート手術室”への進化の要となる人工知能(AI)について,現在実用化している他分野での事例も含めて同社の技術を紹介した。
2題目に,平野宏文氏(鹿児島大学病院脳神経外科)が,「術中MRIの現状と展望:我々はどこまでできるか」と題して講演した。同院では,2009年10月に日立社製0.3TオープンMRI「AIRIS Elite IOP」を術中MRIとして導入し,2017年8月までに228例(85%がグリオーマ)で術中撮像を施行している。平野氏はこれまでの膠芽腫の手術成績を説明し,術中MRIにより全摘できた症例はもとより,亜全摘例や部分摘出例においても,術中MRIを用いることが手術の理想的な最終像に至るための総合的な判断を助ける効果があると考察した。そのため,全例で術中MRIを施行することが理想であり,使用頻度を上げるには撮像に要する時間を短縮し,撮像のための移動リスクを低減することが重要だとした。そして,将来的な期待として,縦型のオープンMRIを術中MRIとして使用した場合の利点を説明し,術中MRIの実施率向上と,汎用化の実現をめざしたいと締めくくった。
3題目として,本村和也氏(名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科)が「Eloquent area関連脳腫瘍に対する,術中MRIと覚醒下手術融合による画像誘導手術について」を発表した。同院は,2006年1月に日立社製0.4TオープンMRI「APERTO」を導入した手術室”Brain THEATER”を構築し,2016年末までに505件の術中MRIを施行している。脳腫瘍が運動野や言語野(eloquent area)に及んでいる場合には,術中MRIに加え,覚醒下手術での脳機能マッピングによる脳機能温存にも取り組んでいる。本村氏は,術中MRIと覚醒下手術の両方を使用したグリオーマ症例70例について,平均摘出率は93.1%で,術中MRI撮像後に追加切除を行った症例が32例(45.7%)あり,領域としては摘出の難しいinsularグリオーマが56.3%と最も多かったと報告した。そして,最近報告された論文もあわせて紹介し,術中MRIと覚醒下手術の併用は,安全で最大限の脳腫瘍切除を可能にすると述べた。
4題目には,三宅啓介氏(香川大学脳神経外科)が「術中支援モダリティ(術中MRI,神経内視鏡,PET画像)を応用した画像誘導手術の挑戦」を講演した。香川大学では,2016年1月に術中MRI(日立社製0.4TオープンMRI「APERTO Lucent」)を導入した高機能手術室を新設。講演では,下垂体腺腫などに対する内視鏡手術と術中MRIの併用と,グリオーマに対するPETと術中MRIの併用について紹介した。下垂体腺腫は症例により適切な撮像条件が異なるため,術前にAPERTO Lucentで撮像して最もよく観察できる条件で術中撮像を行っていることを説明し,症例画像を示してその有用性を示した。また,グリオーマでは,PETのMET,FLT,FMISO画像をナビゲーションに活用し,術中MRIでアップデートしながら手技を進めている。三宅氏は,術中MRIによる形態評価にPET検査の代謝評価を組み合わせることで,長期的な治療成績の向上に寄与するだろうとの見解を示した。
最後の演題として,村垣善浩氏(東京女子医科大学先端生命医科学研究所先端工学外科学分野/医学部脳神経外科)が,「術中MRIを核とするスマート治療室の開発状況」と題して,スマート治療室“SCOT”プロジェクトの最新状況について報告した。現在,5か年計画のプロジェクトが進行しており,2016年に各種機器をパッケージ化したBasic SCOTを広島大学に(現在ネットワーク化中),2017年度(2018年稼働予定)にネットワーク化したStandard SCOTを信州大学に導入し,さらに,2018年にロボット化したHyper SCOTが東京女子医科大学で稼働予定となっている。村垣氏は,広島大学で取り組んでいるてんかん症例や骨腫瘍症例への応用に期待を示すとともに,海外で実施されているMRIガイド下の心血管アブレーションなどを紹介し,MRIが術中画像モダリティの核となる可能性を示した。最後にSCOTの将来像として,AIの活用により手技の指針や合併症率,予想される生存率をリアルタイムに提示するようなAI surgeryへと進化するだろうと展望した。
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機器展示会場の日立製作所ブースでは,開発中のナビゲーションシステムや映像統合配信システムを展示。日立は,これら開発中のシステムやMRIなどをトータルで提案するデジタル手術支援ソリューション「OPERADA」を来場者にアピールした。
●問い合わせ先
日本脳神経外科学会第76回学術総会
http://jns2017.umin.jp