2014-12-1
メディカルトラックの会場の様子
FileMakerのユーザー,デベロッパーが集いテクニックや活用事例など最新の情報を共有するFileMaker カンファレンス 2014が,2014年11月26日(水)〜28日(金)の3日間,東京都千代田区のKITTE内のJPタワーホール&カンファレンスで開催された。企業ユーザーの事例やソリューションの作成法などを紹介するジェネラルトラック,iOSにフォーカスしたiPad&iPhoneトラック,FileMakerの技術を学ぶトレーニングトラック,医療分野での活用を紹介するメディカルトラックなどが行われた。
初日の26日には,オープニングセッションとしてファイルメーカー社社長のビル・エプリング氏と米国FileMaker社のマーケティング&サービス担当副社長のライアン・ローゼンバーグ氏によるプレゼンテーションが行われた。エプリング氏は日本でのFileMakerの市場戦略について説明し,日本市場はFileMakerの売上で世界の4分の1を占める重要な市場であり,同社としてもそれに応えるために重点的に事業を展開しており,今回のカンファレンスもその一環だと述べた。また,講演の中で先日プレスリリースがあった医療法人葵鐘会ロイヤルベルクリニックのビデオを紹介し,FileMaker Goを用いた理想的なソリューションだとコメントした。
28日のメディカルトラックでは,最初に共催のJ-SUMMITSの代表である吉田 茂氏(医療法人葵鐘会副理事長/CMIO)が開催の挨拶にたち,これまでのユーザーメードの医療情報システム構築の歴史とJ-SUMMITSの役割について説明し,「メディカルトラックとして1会場で1日行われるまで医療関係の利用は広がってきた。多くの興味深いテーマからヒントを持ち帰って明日からのシステム開発に生かしてほしい」と述べた。
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最初のセッションは,「バイオバンク情報管理システム」について,国立長寿医療研究センター医療情報室長の渡辺 浩氏と,ジュッポーワークスの卯目俊太郎氏が講演した。国立長寿医療研究センターは,6つのナショナルセンターが参加するナショナル・バイオバンク・ネットワーク(NCBN)の1つとして,さまざまな疾患の原因の究明を目的として,血液や手術検体などを臨床情報とともに蓄積している。そのための情報管理システムのプラットフォームにFileMakerを採用して構築を行った。検体管理,匿名化,同意,SS-MIXストレージI/Fの4つのモジュールを開発し,モジュール間連携することで柔軟な構築と運用を実現した。SS-MIXストレージI/Fは,採取された検体に添付する臨床情報を電子カルテから取得するために,電子カルテの標準化ストレージ内のSS-MIXのデータにアクセスしてFileMakerのソリューションに取り込むモジュールである。開発を担当したジュッポーワークスの卯目氏が実際の動作と利用環境を説明した。FileMakerによるシステム開発について渡辺氏は,流動的な現場のニーズに合わせてアジャイル型の開発ができる点がメリットととし,一方で医療機関として継続的なシステム運用のためには,外部の開発会社に委託してリスクを分散することも必要ではないかと述べた。
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2番目のセッションは,「地域医療連携プラットフォームをiPadで強化」と題して,北星脳神経・心血管内科病院の田頭剛弦氏とDBPowersの有賀啓之氏が,北見市でFileMakerベースのDASCH Proで構築,運用されている“北まるnet”による地域医療情報連携の取り組みを紹介した。2012年10月から稼働した北まるnetでは,医療・介護情報連携システム,介護認定審査会システム,要介護者,要援護者・社会資源GIS(geographic information system)が稼働している。このネットワークをベースとして,新しい取り組みとして,救急医療情報Padと電子お薬手帳の機能を追加した。救急医療情報Padでは,北まるnetに登録された情報から救急隊がiPadで現場到着前にかかりつけ医や既往歴などの情報を参照できるシステムを構築。2014年7月から行われた実証実験では,救急隊員から事前に情報が把握でき役に立ったという評価があったほか,実際に搬送時間の短縮の効果もあったという。また,電子お薬手帳では,既存の北まるnetの枠組みを利用して医療機関と調剤薬局の情報連携をサポートする仕組みを構築した。低コストで入力負担を軽減するため,医療機関の患者基本登録はレセプトからCSVで,処方情報はJAHIS院外処方せん2次元シンボル記録条件規約に準拠したQRコードを利用する。地域での調剤情報が統合的に管理されることで,真の重複処方のチェックなどが可能になることが期待されると田頭氏は述べた。
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メディカルトラック3は,「医療情報システムとFileMakerソリューションのリアルタイムのデータ同期を実現する『KP-Sync』」を,キー・プランニングの木下雄一朗氏と製鉄記念広畑病院の廣田朝司氏が講演した。最初にキー・プランニングの木下氏が,ベンダー製の電子カルテや部門システムとのデータ連携を可能にするKP-Syncの特長と機能をデモを交えて紹介した。FileMakerと既存システムとの連携方法には,テキストファイルをインポートやODBC接続などがあるが,どの方法にも一長一短がある。KP-Syncでは,医療情報システム間連携に使われている“ソケット通信”に対応し,医療情報システムからの電文データをXMLに変換することでFileMakerのソリューションでも利用できるようにした。KP-Syncはマルチベンダー対応で,これまで富士通のHOPE EGMAIN-GX,東芝のHAPPY CLIOS-ER,NECのMI・RA・Isなどの電子カルテシステムと接続実績がある。初期費用は個別見積だが,利用料金はシステムの規模にかかわらず月額3万円(税別)となっている。続いて,病院情報システムで実際にKP-Syncを利用している廣田氏が,院内での運用とサーバ管理などの観点から有用性を紹介した。
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また,ランチョンセミナーの時間帯に,中国から来日したFileMakerユーザーの医師とJ-SUMMITSのコアメンバーによるランチョンミーティングが開かれた。ファイルメーカー社では,アジアでの日本に次ぐ市場の拡大を韓国,中国で進めており,今回のカンファレンスにも両国からスタッフやユーザーが参加している。ランチョンミーティングでは,最初に吉田氏がJ-SUMMITSの歴史や活動内容を紹介。続いて国立病院機構大阪医療センターの岡垣篤彦氏,都立広尾病院の山本康仁氏,松波総合病院理事長の松波和寿氏がFileMakerで開発したシステムの概要をプレゼンテーションした。続いて中国側から大学病院の眼科システムの概要や使用状況についてビデオを使った説明が行われた。その後,日本と中国のFileMakerによるシステム構築の状況や病院の中での位置づけ,FileMakerによるシステムをどうやって広げていくかといった意見交換が行われた。中国では現場の医師によるFileMaker構築はまだこれからの状況であり,今後の方向性について意見を求められた吉田氏は,「日本でも10年かかってここまできた。広げていくためには同じ志を持った仲間を少しずつでも増やしていくことが大切。いつか“C-SUMMITS”が立ち上がるように期待している」とコメントした。
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FileMakerの開発パートナーがさまざまなソリューションを紹介する“ショウケース”では,19のFBA(FileMaker Business Alliance)と特別出展3社など30以上のソリューションが展示されたが,医療関係のソリューションではエムシス「ANNYYS_Developer版」,オネスト「CANVAS Clinic」,三栄メディシス「s-Cloud365 EMR」,スプラッシュ「Beluga クラウド訪問診療」などが紹介された。また,FileMaker GoのソリューションをiPad miniで実際に体験できるコーナーでは,病床管理・看護経過記録システム「SPACE」,「ANNYYS_D 電子カルテデータ互換システムfor iPad」などが展示され,来場者の注目を集めていた。
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●問い合わせ先
FileMaker
www.filemaker.co.jp