書評:放射線被ばくの正しい理解
“放射線”と“放射能”と“放射性物質”はどう違うのか?
2013-6-10
2012年12月6日発行
著者:荒木 力
(山梨大学大学院医学工学総合研究部放射線医学講座教授)
書 評
中川恵一 先生
(東京大学医学部附属病院放射線科 准教授/緩和ケア診療部部長)
「これを読んだほうがいい」と,誰にでも心から薦められる本はそうそうあるものではありません。でも,今回は心からお勧めします。みなさんにぜひ,放射線とはどういうものかについて,この本を通して学んでほしいと思います。
2011 年3月11日の東日本大震災,福島第一原発事故から2年以上の月日が流れましたが,依然として放射線がマスメディアで大きく取り上げられています。放射線 に対する関心は高いものの,難しい単語や単位が多く,放射線に対する反応は一様によくわからなく,怖いものといったところです。
しかし,我々は放 射線から多くの恩恵も受けています。私自身,放射線治療医として癌治療に携わっておりますが,今や「がんにかかる人の半分は放射線治療を受ける」というの が世界の常識とまで言われており,高齢化社会を迎え,放射線治療に対するニーズは高まるばかりです。CTは一度の検査でチェルノブイリ原発事故での平均以 上に被ばくしてしまいますが,日本のCT検査台数は世界一ですし,検査数は増加の一途を辿っており,現代の医療からCTを引き離すことはもはや不可能で す。
一体,放射線とどのように関わっていけばよいのでしょうか?
本書では,常日頃多くの日本人が放射線に対して感じている疑問を曖昧な言 葉を使わずに,簡単な理屈で極めてわかりやすく解説しており,最新の知見も交え,放射線を正しく理解するのに足る正確な内容が記載された良書です。放射線 被ばくを理解したい一般の方はもちろんのこと,放射線被ばくの相談を受ける医療関係者にもぜひ一度読んで頂きたいと思います。
「放射線被ばくがな ぜ問題になるのか」,その理由がわからなければ人は誰でも不安になりますし,どう対処すればいいのかとパニックになります。しかし,一旦わかってしまえ ば,「いたずらに放射線を恐れる必要はない」ということにお気づきになるはずです。そして,なぜかその瞬間から心が少し軽くなり,一気に見通しが開き,自 分が取るべき行動も明白になります。国や役所,他人がどうするかではなく,まず自分自身を主語にして放射線と関わっていく。
そうした行動を広げていくためにも,まずは事実を正しく知ることが必要です。放射線と正しく向き合うための道しるべとして,本書は貴重な存在であると思います。
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